第80話 戦火を越えて、再び
通路を抜けた先にいたのは、突入の際にはぐれてしまったアズリア、そしてダイアスやその他のギルドガード隊員たちだった。
アズリアのくすんだ金髪には、赤黒い染みが混じり、傷だらけの革鎧が戦いの激しさを物語っていた。。
ダイアスや他の隊員たちも同様で、彼らが激戦をくぐり抜けてきたことは明らかだった。
「アズリアさん!? それに……ダイアスさんまで……!」
ユークが思わず声を上げる。
「ユーク! 無事だったか!」
アズリアが嬉しそうに叫んだ。
「……驚いたな。君たちも“あれ”を突破したのか」
ダイアスは信じられないといった顔で、ユークたちをじっと見つめる。
「マジっスか! この人たちって特別参加の探索者っスよね? いや〜、正直、三十レベル未満のザコ混ぜてどうすんだよって思ってたんスけど……考え改めなきゃっスね」
水色の髪を高く束ねたポニーテールの若い女性が、両手を頭の後ろで組みながら気楽そうに笑う。制服は大胆に改造されており、へそや太ももが大きく露出していた。
「え、えっと……」
ユークが返答に困って言葉を濁すと、それを見かねたアズリアが説明を加える。
「ああ、彼女はミモル。突入部隊の隊長の一人だ。見た目はアレだが、実力は確かだから安心してくれ」
「よろしくっス〜!」
ミモルは手をひらひらと振り、飄々とした態度で挨拶した。
「でも、どうしてアズリアさんたちがこんなところに?」
ユークが不思議そうに尋ねる。
「なに、君たちとは別ルートからここにたどり着いただけだ」
ダイアスがそう言って横を向く。
つられてユークもそちらに目をやると、自分たちが来た通路とは違う方向に、別の地下通路が伸びていた。
改めて周囲を見回すと、この部屋には合計四本の道が接続している。
「ウチらが来たのはこっちッスね〜」
ミモルがアズリアに肩を組みながら密着し、反対側の通路を指差す。
「……そういうことだ」
アズリアは面倒そうにミモルの腕をほどきながら、肯定の意を示した。
「もしかして、このダンジョンって……全部繋がってたの!?」
アウリンが目を丸くする。
「その反応を見る限り、他の隊とは接触していないようだな……」
ダイアスは肩を落とし、落胆の色を見せる。
「えっ……じゃあ、他の皆さんは……?」
ユークが恐る恐る尋ねた。
「ここに来ていないってことは、つまりはそういうことだろうな……」
ダイアスは重い口調で答え、静かにため息をつく。
「まあ、ウチらもアズリア先輩が助けに来てくれなきゃ、スタート地点の部屋から一歩も動けなかったんスから」
ミモルが表情を曇らせながら言う。
「じゃあ、皆さんもあの改造人間と戦ったんですね……」
ユークの脳裏に、変身して襲いかかってきた三人の姿がよぎった。
「ああ。俺たちのチームは五人で挑んだが……一人が重傷、そして一人が死亡だ。重傷者は戦える状態じゃなくてな。あの大広間に、一時的に置いてきた」
ダイアスは暗い表情で答える。
「そんな……」
ユークは言葉を失った。
「でも、ウチらは二チームで連携できたから、死人は出てないッスよ!」
ミモルが明るい声で言う。
「それでも、被害は少なくなかったがな。……お前たちはよく、たった四人だけで、一人も欠けずに勝てたものだ」
アズリアが感心したように微笑む。
「そ、そんなの……運が良かっただけですよ……」
ユークは両手を軽く振り、控えめな仕草で謙遜してみせた。
「俺のチームは、同じ条件で二人も脱落してる。そこまで謙遜することもなかろう」
ダイアスは少し呆れたように言い返す。
「そ、そういえば……どうして皆さん、ここで立ち止まってたんですか?」
恥ずかしさを紛らわせるように、ユークは話題を切り替えた。三つの部隊が集結しているのに、なぜ先へ進まず、この場にとどまっているのか――それが気になっていた。
「我々の中で意見が割れてな……」
応じたのはアズリアだった。落ち着いた口調で、静かに説明を始める。
「あのクラスの敵が、背後から二体襲ってくる可能性がある。だから、先に排除すべきだと私は主張したんだ」
すぐにダイアスが言葉を引き継ぐ。その瞳は真剣そのものだった。
「だが、私達は子供たちの救助を最優先にすべきだと言った。結局、意見がまとまらなくてな……ここで足止めを食らっていたんだ」
アズリアが続きを説明する。
「だが、君たちが来てくれたおかげで、それも解決した」
アズリアがやわらかく笑う。その表情には、確かな安堵が滲んでいた。
「ああ。これでようやく、安心して先へ進める」
ダイアスも頷いて、小さく笑う。
「えっ? 二体……ですか?」
しかし、ユークの中で引っかかる言葉があった。彼が思い出していたのは、つい先ほどの激戦だ。
「どうかしたか?」
アズリアが首を傾げ、ユークの様子をうかがう。
「俺たちが戦ったのは、三体でしたけど……」
ラルド、ルビー、そしてパーオベス。どれか一体でも欠けていれば、戦いはもっと楽だったに違いない。
「な……っ!?」
ダイアスの目が見開かれたまま、言葉を失う。
「三体相手に戦って……それで、その程度の被害で済んだのか? 一体何をどうすれば、そんなことが……」
彼の驚きは他の者も同様なようで、アズリアとミモルまでもがユークを凝視していた。
「え、えっと……順を追って説明しますね」
観念したように、ユークは始めから戦いの流れを語る。
「それは……すごいな」
アズリアが息を呑み、小さくつぶやいた。
「ずいぶんと危ない橋を渡ったな。下手をすれば、全滅していてもおかしくなかったぞ」
ダイアスは眉間に深い皺を刻み、険しい表情で言う。
「いやいや、これは相手さんが一枚上手だったんスよ。初手で分断なんて、ウチらの時はやってこなかったッスもん」
ミモルが腕を組み、うんうんと頷きながら唸る。
「そういうことなら、彼女の護衛に俺の隊から一人出そう」
しばらく黙っていたダイアスが、視線を巡らせて口を開いた。目が合った隊員の一人が、無言で頷いて一歩前に出る。
「なら、私のところからも一人出すよ」
アズリアも指を軽く振って指示を出し、別の一人が前に進み出た。
「じゃあ、ウチからも一人派遣するッス!」
ミモルが笑顔で右手を挙げ、仲間の肩を軽く叩く。
「ありがとうございます!」
ユークは心からの笑みを浮かべ、三人に深く頭を下げた。
「礼などいらんさ。成果で返してくれれば、それで十分だ」
ダイアスはやわらかく言い、
「そうだな。お前たちは来たばかりで疲れているだろうし、少し休んでから先へ進もう」
アズリアも落ち着いた声で続ける。
「そうッスね」
ミモルはそう言いながら、残された通路のひとつに目を向けた。
その先には、上へと続く階段が伸びている。明らかに、ユークたちが通ってきた道とは異なるものだった。
「はいっ!」
ユークも力強く頷き、その視線を階段の先へと向けた。
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「ところで君たちは、このダンジョンの最初から強化魔法を使っていたのか?」
ダイアスが静かに問いかける。
「え、ええ、まあ……はい」
ユークは困惑しながら頷いた。なぜそんな質問をされるのか、まったく見当がつかない。
「そうか。なら、気づかなかったかもしれないな」
ダイアスの表情がわずかに険しくなる。
「このダンジョンに現れるモンスターは、《賢者の塔》にいる連中と同様、物理攻撃への強い耐性を持っている」
「そんな!? ありえないわ!」
アウリンが思わず声を荒げた。
「その反応はもっともだ。普通なら、そんな性質を持つ魔物がこんなダンジョンに現れるはずがない」
ダイアスは静かに頷き、警告するような口調で言葉を続ける。
「――気をつけろ。このダンジョン、何かがおかしい。こんな場所を拠点にしている連中だ。この先、なにが出てくるか分からんぞ」
その言葉に、ユークはごくりと生唾を飲み込んだ。
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ユーク(LV.25)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
備考:こんなに仲間が残っていたなんて……! 俺たちだけで不安だったけど、これで安心だな。
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セリス(LV.25)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
備考:これだけ仲間がいれば、何が来ても何とかなる気がする!
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アウリン(LV.26)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
備考:ギルドガードの護衛をつけてもらえてよかったわ。これでユークたちの邪魔をせずに済むわね!
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ヴィヴィアン(LV.26)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
備考:鎧はボロボロで兜も壊れちゃって心配だったけど、大丈夫そうね!
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アズリア(LV.30)
性別:女
ジョブ:剣士
スキル:剣の才(剣の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪ストライクエッジ≫
備考:くすんだ金髪のショートヘアーの女性。以前の戦闘では怪我の影響で本領を発揮できなかったが、本来は身軽さを活かしてショートソードで敵と切り結ぶアタッカーである。
意外にもパワーもあり、力強い一撃を繰り出す。
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ダイアス(LV.33)
性別:男
ジョブ:斧士
スキル:斧の才(斧の基本技術を習得し、斧の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪ブレイクスラッシュ≫
備考:長い黒髪を持つ中年の男性。細身の体格ながら、重厚な斧を軽々と操る。
パワーファイターでありながら、小技や搦手も駆使するため、敵に回すと厄介なタイプ。
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ミモル(LV.30)
性別:女
ジョブ:双剣士
スキル:双剣の才(双剣の基本技術を習得し、双剣の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪クロスエッジ≫
備考:水色の髪を後ろでまとめた若い女性。
短めのショートソードを両手に構え、素早い動きと手数で攻めるスピードアタッカー。
彼女の革鎧は、動きを妨げないよう通常よりも軽量に改造されており、腹部と太ももはあえて露出されている。
これは、装甲の隙間を最小限に抑えつつ、可動域を最大限に確保した設計となっている。
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