第78話 アウリンの決断
ラルドとパーオベスの亡骸は、アウリンの魔法によって焼かれた。そのままにしておくのも忍びなかったからだ。
そして今、少し離れた場所に輪になって腰を下ろしたユークたちは、これまでの戦い、そしてこれからのことについて語り合っていた。
「エクストラスキルが使えるようになったって！？ すごいじゃないか、セリス！」
驚きと称賛の入り混じった声で、ユークが身を乗り出す。
「えへへ……」
セリスは照れたように笑いながら、視線を逸らした。
「そんなこと、できるのね……世界は広いわ……」
アウリンが目を見開き、感嘆の声を漏らす。
「ユークたちこそ、ふたりだけで倒しちゃうなんて、すごいと思う！」
セリスもまた、ユークとアウリンに笑顔を向けた。
「うん、まあ……もともと、アイツを倒すために用意してた策だったからね……」
ユークは頬をかき、照れ隠しのように言葉を濁す。
「そんなことないわ。予定なんて大きく狂ったのに、それでもあの状況で成功させたのは本当にすごいことよ！」
アウリンの真剣な眼差しが、ユークに向けられる。
「……みんな、すごいわね……それに比べて、私は……」
ヴィヴィアンはボロボロになってしまった鎧を外し、インナー姿で地面に体育座りをしていた。指先で床をなぞりながら、ぽつりとつぶやいた。
「そ、そんなことないよ！ ヴィヴィアンが引きつけてくれたおかげで、アイツがこっちに来なかったんだ。あれがなければ、俺たちは勝てなかったよ！」
ユークは身を乗り出し、必死に言葉をかける。
「そうよ！ 鎧があんなにボロボロになるまで粘ってくれたんだもの。本当に、よくやってくれたと思うわ！」
アウリンも焦り気味に声を上げた。
「私も……ヴィヴィアンは本当に、頑張ったと思う」
セリスがまっすぐにヴィヴィアンを見つめ、はっきりと言葉にする。
「……ありがとう、みんな……」
ヴィヴィアンの瞳に涙が浮かび、そのまま静かに頬を伝ってこぼれ落ちた。心が限界まで張り詰めていたのだろう。
しばらく経ち、ヴィヴィアンは少しだけ顔を上げた。
頬を赤らめながら、そっとユークのほうを見つめている。
「あ、あのね……その……頑張ったご褒美っていうか……ユークくんがよければ、だけど……ぎゅって、してもらえたら……うれしいなって……」
上目遣いで、今にも消えてしまいそうな小さな声を漏らすヴィヴィアン。
そのいじらしさに、ユークはそっと微笑み、優しく頷いた。
「もちろんいいよ。よく頑張ったね」
ユークはそっと腰を落とし、体育座りのヴィヴィアンを優しく抱きしめた。
小柄な彼が少しだけ膝を曲げると、ヴィヴィアンの顔がちょうど彼の胸元に収まる。
「ひゃぁっ……！」
自分からお願いしておきながら、ヴィヴィアンの頬はみるみるうちに真っ赤に染まっていった。
「お疲れさま。よく頑張ったね、ヴィヴィアン……」
「……あわわ……」
囁くようなユークの声に、ヴィヴィアンは恥ずかしそうに顔を伏せる。
彼の手が、そっとピンク色の髪を撫でた。そのぬくもりに、彼女の肩がわずかに震える。
少し離れた場所から、その様子をアウリンとセリスが見守っていた。
「いいの？」
セリスは目を離さずに、そっと尋ねる。
「……申し訳ないけど、背の差がありすぎて……大型犬が子供にじゃれてるようにしか見えないわ……」
アウリンは困ったように眉をひそめ、ぼそりと呟いた。
「……セリスはいいの？」
視線を外さず、アウリンが問いかける。
「うん。ヴィヴィアンは、ほんとうに頑張ったから……」
セリスの声は静かで、温かかった。そこに偽りはなく、ふたりの時間を邪魔する気はないようだった。
「……そうね」
アウリンは小さく肩をすくめ、それ以上は何も言わない。
しばらくの間、
ふたりは黙ったまま、ユークがヴィヴィアンの髪を撫で続ける様子を静かに見つめ続けていた。
「さて、これからどうするかの話をするわよ」
ピリッとした空気が場を引き締める。
「先に進むか、戻るかってこと？」
ユークが少し間を置いて、口を開く。
「でも……戻るにしても、道のりが長すぎるわ。あの仕掛け、また全部超えるの……？」
ヴィヴィアンは眉をひそめ、周囲を見回した。その声には、不安の色が滲んでいた。
だが、アウリンはすぐに首を横に振る。
「残念だけど、戻るって選択肢はもう無いのよ。ここから出たいなら、前に進むしかないわ」
その口調はきっぱりとしていて、一切の迷いが感じられなかった。
「そ、それって……どうしてそう思うの？ アウリンちゃん」
ヴィヴィアンがおそるおそる問いかける。
アウリンはひとつ深呼吸をし、慎重に言葉を選びながら語り始めた。
「私はね、あの連中が、ダンジョンで迷ってる私たちを不意打ちしようとしてくると思ってたの」
「うん」
ユークが短くうなずく。
「私たちも、そういう前提で行動してたよね」
セリスも同意を示すように声を重ねた。
「でも、結局、何も起こらなかった……」
三人は、アウリンから襲撃される可能性を事前に聞かされていたのだ。
「だけど実際には、アイツらはこの場所で待ち伏せしていたのよ」
アウリンの瞳が鋭く光る。
「つまりね、あいつらにとっても、この先はもう“安全地帯”じゃないの。後戻りしても、脱出できる保証はどこにもない」
その一言が、静かに空気を支配した。
「……なら、進むしかないってことか」
ユークが拳を握りしめ、ゆっくりと前を見据える。
「うん、進もう」
セリスも覚悟を宿した声でうなずいた。
「そうね。みんなで行きましょう！」
ヴィヴィアンが穏やかな笑みを浮かべ、仲間たちに視線を向ける。
和やかな雰囲気が戻りかけたそのとき、ユークがふと首をかしげた。
「でも、それなら……決めることって何？」
その問いに、アウリンは視線を伏せ、ほんの少しだけ口元を歪める。
「それはね……私を置いていくかどうかって話よ。今の私は、足手まといになっちゃうから……」
アウリンの表情には、抗いようのない無力感が滲んでいた。
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ユーク（LV.25）
性別：男
ジョブ：強化術士
スキル：リインフォース（パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ）
備考：アウリンをどう説得しようか考えを巡らせている。
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セリス（LV.25）
性別：女
ジョブ：槍術士
スキル：槍の才（槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる）
備考：アウリンの考えも一理あると思っているが、最終的にはユークの判断に従うつもり。
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アウリン（LV.26）
性別：女
ジョブ：炎術士
スキル：炎威力上昇（炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる）
備考：効率を考えればそれが一番いいと考えている。
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ヴィヴィアン（LV.26）
性別：女
ジョブ：騎士
スキル：騎士の才（剣と盾の才能を向上させる）
備考：ユークのおかげでだいぶメンタルが回復した。
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