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第77話 ラルドの最後


「っ! そうだ! みんなは!?」


 ルビーを倒したばかりの勝利の余韻(よいん)(つか)の間、ユークはすぐさま仲間たちの安否(あんぴ)へと意識を切り替えた。


「セリスは……大丈夫そうか……」


 少し離れた場所で、金色の髪が風に舞っている。

 セリスはマーダーエイプと対峙(たいじ)しながらも冷静に立ち回り、鋭い槍さばきで相手を翻弄(ほんろう)していた。


「よかった……」


 それを見てホッとしたユークだったが、視線を別の方向へ移した途端、表情が険しくなる。


「まずいっ! ヴィヴィアン!!」

 彼女はラルドを相手に、一方的な防戦を強いられていた。


「アウリン!」

 ユークが声を張る。


「ごめん、私は走れないから……先に行って!」


 アウリンは地に(ひざ)をついたまま、必死に笑みを浮かべた。

 その顔には、悔しさと申し訳なさが(にじ)んでいる。


「わかった! 絶対助けてくるから、待っててくれ!」

 (うなず)いたユークは、すぐに駆け出した。


 必死に走りながらも、状況は刻一刻(こくいっこく)と悪化していく。

 視界の先で、ヴィヴィアンがラルドの攻撃を受け止めきれず、ついには兜が吹き飛ばされるのが見えた。


「っ……!」


 喉まで出かかった叫びを、ユークは歯を食いしばって飲み込む。

 ラルドは勝利を確信したのか、彼女をいたぶっているが、とどめを刺す様子は見えない。


(今、声を上げたら……俺の存在に気づかれる。そうなれば、ヴィヴィアンにすぐとどめを刺しにくるかもしれない)


 ユークはそう判断し、走りながら詠唱を始めた。

 すぐに援護できるよう、ラルドの死角に魔法陣を展開していく。


 執拗(しつよう)な攻撃に、とうとうヴィヴィアンが(ひざ)をついた。


 ラルドがうつむいたまま動かない彼女に近づき、腕を伸ばした――その瞬間。


「《フラッシュボルト》!」


 放たれた強烈な光が、辺りの景色を白く染め上げる。

「きゃ……っ!」


 ヴィヴィアンが小さく声を()らした。


『がっああああっ!? 目がッ、目がぁッ!!』


 ラルドが顔を両手で(おお)い、後ずさる。怒声とともによろめくその姿に、ユークはすかさず前に出る。


「ユーク君……?」


 顔を上げたヴィヴィアンの瞳には、涙が浮かんでいた。

 ユークと視線が交わると、その表情が安堵に変わる。


「ヴィヴィアン……無事でよかった」

 ユークは彼女を庇うように立ち、ラルドを鋭く(にら)む。


(やば……どうしよう……)


 完全に勢いで動いてしまったことを、今さらながらに悔いる。

 怒りに燃えるラルドを前に、じわりと額に汗が(にじ)んだ。


 その時だった。


「フォースジャベリン!!」

 セリスの声が響く。


 次の瞬間、ラルドの頭部が吹き飛んだ。


「お、おぉ……?」


 呆然(ぼうぜん)とするユーク。

 頭部を失ったマーダーエイプが崩れ落ち、光となって輪郭(りんかく)を溶かしていく。


 光の粒が収束し、一人の人間へと姿を変えた。


 緑の髪を持つ女、ラルド。――だが、前と違い今回は気を失ってはいなかった。


「ああああああああっ!!」


 錯乱(さくらん)したラルドが、悲鳴とともに飛びかかってくる。


 ユークは落ち着いてポケットから鉄球を取り出し、迷わずラルドの(ひたい)めがけて投げつけた。


 鋭く命中した鉄球により、彼女は意識を刈り取られ、そのまま仰向けに倒れ込む。


 こうして、激しかった戦闘はようやく終わりを告げる。


 勝利は――ユークたちの手に渡ったのだった。



 戦闘が終わり、ラルドは(なわ)(しば)られ、床に座らされていた。

 ユークたち四人に取り囲まれ、身動き一つ取れぬまま、冷ややかな視線を浴びている。


 アウリンが一歩前に出て、ラルドを見下ろすようにして言葉を発した。

「さて。こんな真似をした理由、聞かせてもらえるかしら?」


 ラルドは鼻で笑う。

「へっ、誰がしゃべるかよ」


 (にら)むような視線を返す。反抗の色を宿したその眼差(まなざ)しは、アウリンを真っ直ぐに(とら)えていた。


 だがアウリンの表情は変わらない。冷静なまま、さらに問いを重ねる。

「仲間は、あと何人いるの?」


 返事はない。いくら問いかけても、ラルドの唇は固く閉ざされたままだった。


 やがてアウリンは肩をすくめ、深く息を吐く。


「無理ね。最初から話す気なんてなかったみたい」


「そうだね。さて……どうしようか」

 ユークが困ったように眉をひそめ、視線を床に落とす。


 その空気をやわらげるように、ヴィヴィアンがふっと微笑んで口を開いた。

「ふふっ、拷問でもしてみる?」


 軽口のような言葉だったが、アウリンはすぐさま首を振る。

「やめておきなさい。拷問には手順も知識も必要よ。少なくとも、私はやり方を知らないわ」


「そう……なら、もう殺すしかないわね……」

 ヴィヴィアンはわずかに肩を落とし、残念そうに呟く。


 その言葉に、ラルドの肩がびくりと震える。


「……本当に、それしかないのかな……? 捕虜として連れていくとか……」


 ユークが戸惑うように問いかける。その声には、人を手にかけることへのためらいがにじんでいた。


 だがアウリンは、そっと首を横に振る。


「無理よ。この女がいつ、あのモンスターに変わるか分からない。一緒に行動するなんて、到底できないわ」


「……そっか」

 ユークの声が沈んだ。胸の内に、重たいものが積もっていく。


「ユークくん。このご時世に誰も殺さずに来られたのは、本当に素敵なことだと思うわ」

 ヴィヴィアンがやさしく微笑みながら、そっと言葉を()える。


「でもね。優しさと甘さは違うの。ここで迷ってしまったら――代償を払うのは、別の誰かかもしれないのよ?」


「……うん。分かってる」

 ユークはゆっくりと(うなず)いた。自らの葛藤(かっとう)に、ひとつの答えを出すように。


 ヴィヴィアンは一歩前に進み、剣の切っ先をラルドの喉元へと向けた。

 その動きには、一切の迷いがなかった。


「これが最後のチャンスよ。何か話しておきたいことはある?」


 ラルドが口を開こうとする。何かを伝えようと、唇を動かす。

 けれど、声は出なかった。


「……やっぱり、無理か」

 ぽつりと、ラルドが呟く。どこか寂しげな声音(こわね)だった。


「そう……何も言うつもりはないのね。残念だわ」

 ヴィヴィアンは静かにそう言い、迷いなく剣を振り下ろす。


 ラルドの首が、音もなく地に落ちた。


 ユークはその光景から、決して目を()らさない。


 彼の瞳には、新たな覚悟が宿っていた。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.25)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:みんな無事で良かった……

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セリス(LV.25)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:この女は私が戦った大剣使いより強い感じだったから、ヴィヴィアンは本当によくやったと思う。

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アウリン(LV.26)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:よく勝てたわ……ほんと。

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ヴィヴィアン(LV.26)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

備考:私だけこんなにボロボロになって、不甲斐(ふがい)ないわ……

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ラルド(LV.10)

性別:女

ジョブ:拳士

スキル:拳の才(格闘の基本技術を習得し、格闘の才能をわずかに向上させる)

備考:ラルドは探索者として活動する傍ら、路地裏でストリートファイトに参加する裏格闘の選手でもあった。


 あるとき、黒いフードに仮面をかぶった飛び入りの男と戦い、はじめは優勢に立っていたが、男が異形の腕を露わにした瞬間、あっという間に敗北した。


 その圧倒的な強さに惹かれたラルドは、「俺を連れて行ってくれ」と頭を下げて懇願する。


 こうして彼女は、モンスターの力を手に入れることとなった。

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