表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/161

第72話 改造人間再び


「おい! ルビー! パーオベス! テメェらは手を出すんじゃねぇぞ。あいつらは俺の獲物だからな!」


 ラルドがゆっくりと立ち上がり、荒々しく笑う。


「一度負けた相手でしょう? 本当に大丈夫なのかしら?」


 茶髪を縦ロールにした貴族風の美女・パーオベスが声をかけた。心配するような口ぶりだが、その目には明らかな嘲笑(ちょうしょう)の色が(にじ)んでいた。


「私たちが加勢したほうが良いんじゃないですか〜☆」


 装飾品でじゃらついた赤黒いポニーテールの少女、ルビーが軽い調子でラルドを(あお)る。


「うるせぇ! ここ(ダンジョン)なら魔力を気にする必要はねぇからな。最初から本気でやってやるぜ!」


 ラルドの体が変化する。筋肉が(ふく)れ、毛むくじゃらの巨体――猿のモンスターの姿へと変貌(へんぼう)した。


『行くぜぇぇ!!』

 咆哮と共に、ラルドが信じられない速さで突進してくる。


「アイツがいるのは分かってたんだ! みんな、作戦通りにいこう!」

 ユークが声を張り上げる。


「オッケー!」

「分かった!」

「任せて!」

 アウリン、セリス、ヴィヴィアンが順に応える。


 ヴィヴィアンが構えた盾を前に出す。ユークとアウリンはすぐさま詠唱を始め、セリスは一歩引いて機を(うかが)う。


『はっ! テメェは前に俺の拳を防げなかっただろうがよ!!』


 ラルドが(あざけ)るように叫びながら、拳に勢いを乗せてヴィヴィアンへと振り下ろす。


その瞬間――


「《ストーンウォール》!」


 ユークの魔法が発動し、ヴィヴィアンとラルドの間に硬質な石の壁が立ち上がった。


『なにぃ!?』

 ラルドの拳は壁を砕いたが、勢いは確実に削られてしまう。


「はあっ!」

 ヴィヴィアンが深く息を吐き、迫る拳を盾で受け止めた。


『クソが! だったら、防げなくなるまで何発でも叩き込むだけだ!』


 ラルドが再び拳を振りかぶろうとしたその時――


『いてっ!』

 セリスが踏み込んで斬撃を浴びせ、ラルドの脇腹に浅い傷を刻む。


『てめぇ、この……!』


 セリスの攻撃自体は大きなダメージを与えられないが、ラルドの集中を削ぎ、ヴィヴィアンは余裕を持って防御を続けることができた。


「《フレイムボルト》!」

 ユークも詠唱を終え、魔法攻撃を放つ。


『くそっ! (あち)ぃじゃねぇか!!』

 思うように攻められず、苛立つラルド。


「みんな、今だ! 距離を取って!」

 アウリンの詠唱が終わったことに気がついたユークの指示に従い、全員がラルドから一斉に後退した。


「《ヴォルカニックランス》!」

 アウリンの新たな魔法が発動する。魔法陣がラルドの頭上に出現し、燃えたぎるマグマの槍が形を成していく。


『はっ! それ(魔法)の対処法は博士から聞いてるんだぜ!』


 ラルドは床を踏みつけて砕いた石を器用に蹴り上げ、それを手でキャッチ。そして、魔法陣から放たれる魔法に向かって石を投げた。


 マグマの槍と石が空中で接触し、魔法が暴発する。


『こうやって先に暴発させちまえば、どんな魔法でも無力化できるってなぁ!』


 自信満々の笑みを浮かべるラルド。しかし――


 次の瞬間、魔法は頭上で発動し、熱された溶岩が出現した。


『は、はぁっ!?』

 ラルドは咄嗟に避けようとするが間に合わず、灼熱の岩が右腕を直撃する。


『あ゛あ゛あ゛っ! 熱っ! 腕が、焼けるっ!!』

 苦悶(くもん)の叫びをあげながらもがくが、溶岩のような岩は(から)みついて()がれない。


『ちくしょう! こんなもん……!』

 ラルドは仲間の元へ走る。


『おい! パーオベス!』


「……仕方がありませんわね」


 パーオベスはため息をつくと、背後の地面に立てかけてあった大剣を片手でつかむ。その腕は猿のごとき大腕へと変わっていた。


 一気に振り抜かれた大剣が、マグマごとラルドの腕を切り落とす。


『ぐあああああっ!! はぁ……解除!』


 ラルドの体が光に包まれ、猿のようなモンスターの姿が消えていく。そして、再び人間の姿へと戻った。


「完全変化!」


 ラルドが叫ぶ。次の瞬間、彼女は再びモンスターの姿に変貌(へんぼう)()げた。失ったはずの右腕も元に戻り、五体満足の状態で。


 ラルドの腕を斬った、パーオベスの異様な腕を目の当たりにし、ユークは思わず身構える。

「まさか……あいつも、変身できるのか……?」


 アウリンが一筋の汗を(ほほ)に伝わせながら呟く。

「やっぱり、あの形態でも再生能力は使えるのね……」


 ヴィヴィアンは険しい表情で息を整え、口元をわずかに引き締める。


「でも、敵が二体出てくる可能性は予想していたはずよ。そのために何度も連携の練習をしてきたじゃない。落ち着いて、やればできるわ」


 ──ユークたちは、二体の敵を想定して戦術を練っていた。

 逃したラルドに加え、助けに来たもう一体。両者を相手取っても勝てるよう、準備を重ねていたのだ。


 だが――現実は、それを容易く裏切る。


『やっぱりダメじゃないの……』


 不満げにそう言い放つと、パーオベスが猿のモンスターへと変身する。手には、ごつい大剣をしっかりと握っていた。


『ラルドちゃん、だっさーい☆』


 楽しげな声とともに、ルビーも猿のモンスターへと変貌。背後に転がっていた巨大なハンマーを軽々と拾い上げ、肩に担いだ。


「っ……三人、全員……!?」


 怪物へと変じた三人を目の前にし、ヴィヴィアンは声を失う。


 今回の作戦にはギルドガードの精鋭たちも同行していたため、三体同時に敵を相手取る事態は想定していなかったのだ。


「嫌な予感はしてたけど……まさか、三人ともとはね……」

 アウリンも顔をしかめ、目を閉じて呼吸を整える。


 そのとき、ユークが拳を握りしめ、叫んだ。

「……やるしかない! 今ここにいるのは、俺たちだけなんだ!」


 その言葉に、仲間たちも各々の覚悟を固める。


「大剣を持った相手……私の騎士剣術で、なんとか食い止めてみせるわ」

 ヴィヴィアンがパーオベスを見据え、決意をにじませる。


「あのデカいやつが戦ってるのは前に見た。だから……動きは読めると思う。攻撃を避けるだけなら、なんとかしてみせる!」

 セリスもラルドの動きを思い返しながら、冷静に対処法を探る。


(セリスとヴィヴィアンが時間を稼いでくれる間に……俺が一体を引きつければ、アウリンの魔法で数を減らしていける!)


 ユークは頭の中で戦術を組み直す。緊張が喉元を締めつけるが、それでも視線は前を見据えていた。


「来るわよ!」

 アウリンの声と同時に、三体の敵が一斉に駆け出す。先頭を切るのはラルドだった。


『ぶちかましてやるぜ!』

 ユークはすぐさま魔法の詠唱に入る。


「《ストーンウォール》!」

 石の壁が出現し、ヴィヴィアンとラルドの間に立ちはだかる。


『おらぁ!』

「くっ!」

 ラルドの攻撃を壁越しに受け止めながら、ヴィヴィアンは踏ん張って耐えた。


 セリスは遊撃の構えを取り、ユークとアウリンは次の魔法を準備する。


『オレばっか相手にしてて、いいのかよ?』

 ラルドが薄く笑った、その瞬間――ユークは空から落ちる影に気づいた。


「上だ! みんな、散れ!!」

 ユークの叫びに反応し、仲間たちは即座に各方向へ飛び退いた。


『はいっ、どーん☆』

 ルビーの振り下ろした巨大ハンマーが地面を砕く。激しい振動とともに床に亀裂(きれつ)が走り、粉塵(ふんじん)が巻き上がった。


「みんな! 無事!?」

 ヴィヴィアンの叫びは、敵の咆哮(ほうこう)にかき消される。


『おっと、テメェの相手は俺だ!』

 ラルドが前に出て、彼女の行く手を(はば)む。



「ユーク! どこっ!?」

 セリスが焦った声を上げ、駆け出そうとした――そのとき。


「っ……!」

 鋭く振り下ろされた大剣が、彼女の目前に迫る。セリスは身をひねり、間一髪でそれを回避した。


『あら……今のを避けるとは、なかなかやるじゃない』

 パーオベスが剣を構え直し、挑発するように剣先を向ける。



「アウリン! 他の皆は!?」

 ユークがアウリンのもとへ駆け寄り、声を上げる。


「近くにはいないわ! 急いで合流しないと!」

 アウリンも状況の悪化に焦りを隠せない様子だった。


『えいっ☆』

「避けろ!」

 ユークの警告にアウリンが即座に反応。ルビーのハンマーが地面を打ち砕く直前、なんとかその場を離脱した。


「……っ!」

 巻き上がった土煙が徐々に晴れていく。視界が戻ると、仲間たちはばらばらに散っていた。


「くそっ……分断された……!」


 戦力で劣る彼らにとって、これは致命的な展開だった。

 個別に分断されたことで、連携という最大の武器さえ奪われてしまったのだ。


 戦場の空気が、確実にユークたちに不利な色を帯びていく。

 それでも、彼らは立ち向かうしかなかった。


 今、この場所に立っているのは――彼らだけなのだから。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.25)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:早く仲間たちと合流しないと……

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

セリス(LV.25)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:ユークが心配だけど、コイツ強い!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

アウリン(LV.26)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:まずいわね……なんとか合流しないと勝ち目は無いわ。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ヴィヴィアン(LV.26)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

備考:セリスちゃんと戦う相手を交換出来ればなんとかなるのに……

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ラルド(LV.??)

性別:女

ジョブ:諡ウ螢ォ

スキル:諡ウ縺ョ謇(譬シ髣倥?蝓コ譛ャ謚?陦薙r鄙貞セ励@縲∵?シ髣倥?謇崎?繧偵o縺壹°縺ォ蜷台ク翫&縺帙k)

備考:濃い緑の短髪をした、巨躯で筋肉質な女戦士。男物のような革の短パンに丈の短いシャツを身にまとい、腕や脚には無数の傷跡が刻まれている。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

パーオベス(LV.??)

性別:女

ジョブ:荳顔エ壼、ァ蜑」螢ォ

スキル:螟ァ蜑」縺ョ謇(螟ァ蜑」縺ョ謇崎?繧貞、ァ蟷?↓蜷台ク翫&縺帙k)

備考:茶髪を丁寧に縦ロールにまとめた貴族風の美女。高級な紫のドレスは重厚なレースと宝石で彩られ、まるで舞踏会の令嬢のよう。姿勢や所作も優雅で、常に上品さを崩さない。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ルビー(LV.??)

性別:女

ジョブ:讒悟」ォ

スキル:讒後?謇(謌ヲ讒後?蝓コ譛ャ謚?陦薙r鄙貞セ励@縲∵姶讒後?謇崎?繧偵o縺壹°縺ォ蜷台ク翫&縺帙k)

備考:赤黒いポニーテールに金や羽根の装飾を散りばめた派手な少女。ホットパンツと露出多めのシャツにアクセサリーを重ね、目元には濃い化粧、唇は艶やかに彩られている。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ