第72話 改造人間再び
「おい! ルビー! パーオベス! テメェらは手を出すんじゃねぇぞ。あいつらは俺の獲物だからな!」
ラルドがゆっくりと立ち上がり、荒々しく笑う。
「一度負けた相手でしょう? 本当に大丈夫なのかしら?」
茶髪を縦ロールにした貴族風の美女・パーオベスが声をかけた。心配するような口ぶりだが、その目には明らかな嘲笑の色が滲んでいた。
「私たちが加勢したほうが良いんじゃないですか〜☆」
装飾品でじゃらついた赤黒いポニーテールの少女、ルビーが軽い調子でラルドを煽る。
「うるせぇ! ここなら魔力を気にする必要はねぇからな。最初から本気でやってやるぜ!」
ラルドの体が変化する。筋肉が膨れ、毛むくじゃらの巨体――猿のモンスターの姿へと変貌した。
『行くぜぇぇ!!』
咆哮と共に、ラルドが信じられない速さで突進してくる。
「アイツがいるのは分かってたんだ! みんな、作戦通りにいこう!」
ユークが声を張り上げる。
「オッケー!」
「分かった!」
「任せて!」
アウリン、セリス、ヴィヴィアンが順に応える。
ヴィヴィアンが構えた盾を前に出す。ユークとアウリンはすぐさま詠唱を始め、セリスは一歩引いて機を窺う。
『はっ! テメェは前に俺の拳を防げなかっただろうがよ!!』
ラルドが嘲るように叫びながら、拳に勢いを乗せてヴィヴィアンへと振り下ろす。
その瞬間――
「《ストーンウォール》!」
ユークの魔法が発動し、ヴィヴィアンとラルドの間に硬質な石の壁が立ち上がった。
『なにぃ!?』
ラルドの拳は壁を砕いたが、勢いは確実に削られてしまう。
「はあっ!」
ヴィヴィアンが深く息を吐き、迫る拳を盾で受け止めた。
『クソが! だったら、防げなくなるまで何発でも叩き込むだけだ!』
ラルドが再び拳を振りかぶろうとしたその時――
『いてっ!』
セリスが踏み込んで斬撃を浴びせ、ラルドの脇腹に浅い傷を刻む。
『てめぇ、この……!』
セリスの攻撃自体は大きなダメージを与えられないが、ラルドの集中を削ぎ、ヴィヴィアンは余裕を持って防御を続けることができた。
「《フレイムボルト》!」
ユークも詠唱を終え、魔法攻撃を放つ。
『くそっ! 熱ぃじゃねぇか!!』
思うように攻められず、苛立つラルド。
「みんな、今だ! 距離を取って!」
アウリンの詠唱が終わったことに気がついたユークの指示に従い、全員がラルドから一斉に後退した。
「《ヴォルカニックランス》!」
アウリンの新たな魔法が発動する。魔法陣がラルドの頭上に出現し、燃えたぎるマグマの槍が形を成していく。
『はっ! それの対処法は博士から聞いてるんだぜ!』
ラルドは床を踏みつけて砕いた石を器用に蹴り上げ、それを手でキャッチ。そして、魔法陣から放たれる魔法に向かって石を投げた。
マグマの槍と石が空中で接触し、魔法が暴発する。
『こうやって先に暴発させちまえば、どんな魔法でも無力化できるってなぁ!』
自信満々の笑みを浮かべるラルド。しかし――
次の瞬間、魔法は頭上で発動し、熱された溶岩が出現した。
『は、はぁっ!?』
ラルドは咄嗟に避けようとするが間に合わず、灼熱の岩が右腕を直撃する。
『あ゛あ゛あ゛っ! 熱っ! 腕が、焼けるっ!!』
苦悶の叫びをあげながらもがくが、溶岩のような岩は絡みついて剥がれない。
『ちくしょう! こんなもん……!』
ラルドは仲間の元へ走る。
『おい! パーオベス!』
「……仕方がありませんわね」
パーオベスはため息をつくと、背後の地面に立てかけてあった大剣を片手でつかむ。その腕は猿のごとき大腕へと変わっていた。
一気に振り抜かれた大剣が、マグマごとラルドの腕を切り落とす。
『ぐあああああっ!! はぁ……解除!』
ラルドの体が光に包まれ、猿のようなモンスターの姿が消えていく。そして、再び人間の姿へと戻った。
「完全変化!」
ラルドが叫ぶ。次の瞬間、彼女は再びモンスターの姿に変貌を遂げた。失ったはずの右腕も元に戻り、五体満足の状態で。
ラルドの腕を斬った、パーオベスの異様な腕を目の当たりにし、ユークは思わず身構える。
「まさか……あいつも、変身できるのか……?」
アウリンが一筋の汗を頬に伝わせながら呟く。
「やっぱり、あの形態でも再生能力は使えるのね……」
ヴィヴィアンは険しい表情で息を整え、口元をわずかに引き締める。
「でも、敵が二体出てくる可能性は予想していたはずよ。そのために何度も連携の練習をしてきたじゃない。落ち着いて、やればできるわ」
──ユークたちは、二体の敵を想定して戦術を練っていた。
逃したラルドに加え、助けに来たもう一体。両者を相手取っても勝てるよう、準備を重ねていたのだ。
だが――現実は、それを容易く裏切る。
『やっぱりダメじゃないの……』
不満げにそう言い放つと、パーオベスが猿のモンスターへと変身する。手には、ごつい大剣をしっかりと握っていた。
『ラルドちゃん、だっさーい☆』
楽しげな声とともに、ルビーも猿のモンスターへと変貌。背後に転がっていた巨大なハンマーを軽々と拾い上げ、肩に担いだ。
「っ……三人、全員……!?」
怪物へと変じた三人を目の前にし、ヴィヴィアンは声を失う。
今回の作戦にはギルドガードの精鋭たちも同行していたため、三体同時に敵を相手取る事態は想定していなかったのだ。
「嫌な予感はしてたけど……まさか、三人ともとはね……」
アウリンも顔をしかめ、目を閉じて呼吸を整える。
そのとき、ユークが拳を握りしめ、叫んだ。
「……やるしかない! 今ここにいるのは、俺たちだけなんだ!」
その言葉に、仲間たちも各々の覚悟を固める。
「大剣を持った相手……私の騎士剣術で、なんとか食い止めてみせるわ」
ヴィヴィアンがパーオベスを見据え、決意をにじませる。
「あのデカいやつが戦ってるのは前に見た。だから……動きは読めると思う。攻撃を避けるだけなら、なんとかしてみせる!」
セリスもラルドの動きを思い返しながら、冷静に対処法を探る。
(セリスとヴィヴィアンが時間を稼いでくれる間に……俺が一体を引きつければ、アウリンの魔法で数を減らしていける!)
ユークは頭の中で戦術を組み直す。緊張が喉元を締めつけるが、それでも視線は前を見据えていた。
「来るわよ!」
アウリンの声と同時に、三体の敵が一斉に駆け出す。先頭を切るのはラルドだった。
『ぶちかましてやるぜ!』
ユークはすぐさま魔法の詠唱に入る。
「《ストーンウォール》!」
石の壁が出現し、ヴィヴィアンとラルドの間に立ちはだかる。
『おらぁ!』
「くっ!」
ラルドの攻撃を壁越しに受け止めながら、ヴィヴィアンは踏ん張って耐えた。
セリスは遊撃の構えを取り、ユークとアウリンは次の魔法を準備する。
『オレばっか相手にしてて、いいのかよ?』
ラルドが薄く笑った、その瞬間――ユークは空から落ちる影に気づいた。
「上だ! みんな、散れ!!」
ユークの叫びに反応し、仲間たちは即座に各方向へ飛び退いた。
『はいっ、どーん☆』
ルビーの振り下ろした巨大ハンマーが地面を砕く。激しい振動とともに床に亀裂が走り、粉塵が巻き上がった。
「みんな! 無事!?」
ヴィヴィアンの叫びは、敵の咆哮にかき消される。
『おっと、テメェの相手は俺だ!』
ラルドが前に出て、彼女の行く手を阻む。
「ユーク! どこっ!?」
セリスが焦った声を上げ、駆け出そうとした――そのとき。
「っ……!」
鋭く振り下ろされた大剣が、彼女の目前に迫る。セリスは身をひねり、間一髪でそれを回避した。
『あら……今のを避けるとは、なかなかやるじゃない』
パーオベスが剣を構え直し、挑発するように剣先を向ける。
「アウリン! 他の皆は!?」
ユークがアウリンのもとへ駆け寄り、声を上げる。
「近くにはいないわ! 急いで合流しないと!」
アウリンも状況の悪化に焦りを隠せない様子だった。
『えいっ☆』
「避けろ!」
ユークの警告にアウリンが即座に反応。ルビーのハンマーが地面を打ち砕く直前、なんとかその場を離脱した。
「……っ!」
巻き上がった土煙が徐々に晴れていく。視界が戻ると、仲間たちはばらばらに散っていた。
「くそっ……分断された……!」
戦力で劣る彼らにとって、これは致命的な展開だった。
個別に分断されたことで、連携という最大の武器さえ奪われてしまったのだ。
戦場の空気が、確実にユークたちに不利な色を帯びていく。
それでも、彼らは立ち向かうしかなかった。
今、この場所に立っているのは――彼らだけなのだから。
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ユーク(LV.25)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
備考:早く仲間たちと合流しないと……
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セリス(LV.25)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
備考:ユークが心配だけど、コイツ強い!
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アウリン(LV.26)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
備考:まずいわね……なんとか合流しないと勝ち目は無いわ。
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ヴィヴィアン(LV.26)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
備考:セリスちゃんと戦う相手を交換出来ればなんとかなるのに……
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ラルド(LV.??)
性別:女
ジョブ:諡ウ螢ォ
スキル:諡ウ縺ョ謇(譬シ髣倥?蝓コ譛ャ謚?陦薙r鄙貞セ励@縲∵?シ髣倥?謇崎?繧偵o縺壹°縺ォ蜷台ク翫&縺帙k)
備考:濃い緑の短髪をした、巨躯で筋肉質な女戦士。男物のような革の短パンに丈の短いシャツを身にまとい、腕や脚には無数の傷跡が刻まれている。
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パーオベス(LV.??)
性別:女
ジョブ:荳顔エ壼、ァ蜑」螢ォ
スキル:螟ァ蜑」縺ョ謇(螟ァ蜑」縺ョ謇崎?繧貞、ァ蟷?↓蜷台ク翫&縺帙k)
備考:茶髪を丁寧に縦ロールにまとめた貴族風の美女。高級な紫のドレスは重厚なレースと宝石で彩られ、まるで舞踏会の令嬢のよう。姿勢や所作も優雅で、常に上品さを崩さない。
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ルビー(LV.??)
性別:女
ジョブ:讒悟」ォ
スキル:讒後?謇(謌ヲ讒後?蝓コ譛ャ謚?陦薙r鄙貞セ励@縲∵姶讒後?謇崎?繧偵o縺壹°縺ォ蜷台ク翫&縺帙k)
備考:赤黒いポニーテールに金や羽根の装飾を散りばめた派手な少女。ホットパンツと露出多めのシャツにアクセサリーを重ね、目元には濃い化粧、唇は艶やかに彩られている。
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