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第69話 迷いの館


「ダンジョン……?」

 ユークがアウリンの言葉を繰り返す。


「ええ。もともとあったものを利用したのか、自分で作ったのかは分からないけど……」

 アウリンが辺りを観察しながら答えた。


「人工的に作られたとしても、簡易的な自然ダンジョンに近いものだと思うわ」


「自然ダンジョンって? そもそも、ダンジョンって作るのにすごく手間がかかるんじゃなかったっけ?」

 ユークは首を傾げながら、純粋な疑問をぶつける。


「自然ダンジョンっていうのはね、人工じゃなくて自然発生するダンジョンのことよ。大量の魔力が一つの場所に集まると“魔力溜まり”になるの。その魔力で周囲の空間や生き物が複製されて、ダンジョンが形成されるのよ」


「……空間を複製する? 場所じゃなくて?」

 その言い方にひっかかったユークが問い返す。


「そう。空間ごと複製されるから、ダンジョンの中は外から見るよりもずっと広くなっているのよ」

 アウリンの説明に、ユークは嫌な予感を覚える。


「じゃあ……もしかして、ここも」


「そう。ここも、もう建物の外観どおりの広さじゃないわ。アズリアさんや他のチームが、無事に誘拐犯のもとにたどり着けるかどうか……」

 アウリンは視線を落とし、小さくため息をついた。


「だったら、ダンジョンの探索経験がある俺たちが頑張らなきゃいけないのか……」

 ユークは周囲を見回しながら、わずかに口を引き結ぶ。


 だがアウリンは、首を横に振ってユークの言葉を否定した。

「それはどうかしらね……」


「……え?」

 予想外の返答に、ユークは思わず聞き返す。


「《賢者の塔》っていうのは、人工ダンジョンとしては完成度がすごく高いの。各階層に出るモンスターは一種類だけだし、空間がねじれてるなんてこともない。正直、あれはダンジョンとしてはかなり難易度は低めなのよ」


「空間が……ねじれる?」

 聞きなれない単語に、ユークの目がまた困惑を帯びる。


「うーん……たとえば、この廊下をまっすぐ進んでるつもりでも、気づいたらスタート地点に戻ってる……みたいな感じね。空間がつながりを変えてしまうの」

 アウリンが例を挙げるが、その場の誰もがすぐには理解できず、微妙な空気が漂う。


「ん〜……セリス、その燭台(しょくだい)にあるロウソクを取ってくれない?」


「わかった!」


 セリスは槍を(たく)みに操り、燭台(しょくだい)のロウソクを切り落とすと、器用にそれをキャッチし、アウリンに放り投げた。


 アウリンはそれを受け取ると、皆の視線を集めながら言う。


「このロウソク、普通に投げればそのまま飛んで落ちるはずよね? だけど、空間がねじれてる場合は途中で消え──」

 そう言いながら、彼女は勢いよくロウソクを投げつけた。


 次の瞬間──


「痛っ!」

「……えっ?」

 ユークが悲鳴をあげて、状況が飲み込めずにアウリンは目を丸くする。


 アウリンが投げたロウソクは確かに前方に向かって投げられたはずだった。しかしそれはなぜか途中で消え、ユークの後頭部にぶつかった。


「こ、こうなるのよ……」


 予想外の展開にうろたえつつも、アウリンは指を上に突き立て、腰に手を当てながら言い切った。


「……なるほど」

 ユークは頭を押さえながら、ため息をついた。


「えっ? じゃあ、先に進めないんじゃないかしら……?」

 ヴィヴィアンが不安げに眉をひそめる。


 その声音(こわね)には普段のおっとりした調子はなく、真剣な焦りが(にじ)んでいた。


「……そうね」

 アウリンが壁へ歩み寄り、(てのひら)をそっと当てる。慎重に、ゆっくりと壁をなぞるように手を滑らせていく。


 そして、ある地点で彼女の手が、すっと壁の中へと吸い込まれた。


「ここよ。道があるわ」

 そのまま壁に手を差し込んだ状態で、彼女は振り返りユークたちを呼んだ。


「うわぁ……」

「前途多難ね……」

 その様子を見た、ユークとヴィヴィアンがため息まじりに呟く。


「すごい、ほらユーク! 手が壁に埋まってる!」


 セリスが無邪気に壁に手を差し入れてはしゃぐのを見ながら、ユークはこのダンジョンの探索が一筋縄ではいかないことを、あらためて思い知らされるのだった。



【???】


 そこは、かつての持ち主がダンスパーティーを開いていたのだろうか。場違いなほどに広く、豪奢(ごうしゃ)な空間だった。


 だが、その美しさを台無しにするものがあった。


 部屋の壁際には、やけに頑丈そうな(おり)がいくつも並んでおり、その中には、それぞれひとりずつ子供が閉じ込められていた。


 どの(おり)も異様に大きく、子供一人を入れるにはあまりにも過剰だった。


「……どうやら、侵入者が来たようだね」


 部屋の中央で、一枚の机に眠らされた状態で、拘束された子供を前に手を動かしていた白衣の男が、淡々と告げた。


「敵か?」

 その隣で警戒の色を浮かべるカルミアが、鋭い声で問い返す。


「かなりの人数が一度に入ってきている。迷って偶然来た、という規模じゃないよ」


 金髪を肩まで伸ばし、白衣を着た男──この場所を仕切る“博士”と呼ばれる男は、手を止めることなく言葉を続けた。


「チッ……どうやってここを突き止めたんだ?」

 カルミアが苛立ちを隠さずに舌打ちする。


「それは分からないが、大半の連中は途中で迷って力尽きてくれるだろう。だけどなかには偶然ここまで辿り着いてしまう者もいるかもしれない。だから、ここに通じるルートには彼女たちを配置して、到達した侵入者を排除しておいてくれ」


「必要ない。俺が直接出向いて、皆殺しにしてやる」

 カルミアが不敵に笑いながら言い放つ。


 だが――


「ダメだ。君は僕の護衛だ。万が一、侵入者がすり抜けて来られたら困るからね」

 博士が即座に否定した。


「……チッ、わかった。ラルドたちに指示しておく」

 不服そうに顔をしかめながらも、カルミアはそれ以上反論せず部屋を出ていった。


「頼んだよ。僕は練習の続きをしているから」

 博士は再び机の上の子供に意識を戻す。そして、静かに独り言を()らした。


「成功率は上がってきている。でも……失敗は許されないからね。あるだけ、練習に使い切ってしまおう」


 博士は不敵に笑いながら再び手を動かす。その顔に、罪悪感や良心の呵責(かしゃく)は一切見受けられなかった。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.25)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:アウリンがいなかったらここで詰んでたな……

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セリス(LV.25)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:こんな感じなんだ。これなら私にも見つけられそう。

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アウリン(LV.26)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:私がしっかりしないといけないわね。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ヴィヴィアン(LV.26)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

備考:他のチームの人たちは大丈夫かしら?

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