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第66話 反撃準備


 馬車に揺られながら、ユークたちはようやく自宅へと戻ってきた。街灯の淡い光が、彼らを迎えるように道を照らしている。


「ふう……やっと帰ってこられた」

 ユークはため息を吐いて、小さく呟く。


 それを聞いたセリスが、すぐにユークの隣に寄ってきた。


「ユーク、本当に病院に行かなくていいの? まだ痛むんじゃ……」

 セリスは心配そうな表情でユークを見つめる


 だが。ユークは小さく笑って、首を横に振った。


「平気だよ。もうだいぶ治ってるそうだから……たぶん、レベルアップのおかげで回復が早くなったんだと思う」


 実際、戦闘直後に比べると、ユークの全身を蝕んでいた痛みはほとんど無くなっている。


「レベルアップすると体が少しだけ治癒するのよ。でも、あれだけの怪我がもう治ってしまうなんて……一度ギルドに行って、レベルを調べてもらった方がいいかもしれないわね」


 アウリンが少し呆れたように、けれどどこか感心したような表情で呟いた。


「そうだね、明日にでも行ってみるよ」

 ユークが小さく笑う。


 そんな二人を眺めながら、兜を外したヴィヴィアンが肩にかかった髪の毛を弄りながら溜息を吐いた。

「私も今日は疲れちゃったわ……」


 彼女の、普段なら桜色の絹糸のように(つや)めくその髪も、今は疲労のせいか、どこか色褪せて見える。


「よし! 参加するかどうかは明日考えるとして、今日はもう寝てしまおう!」

 ユークが宣言すると、他の三人もすぐに賛成の声を上げた。


 軽く夕食を食べて、そのまま別れ、部屋へと戻ったユークは、服も着替えずに自室のベッドに倒れ込んだ。


 よほど疲れていたのだろう、彼の意識は急速に暗闇へと沈んでいく。


 こうして、ユークたちの一日はようやく幕を下ろしたのだった。


 しかしその裏で、まだ眠ることを許されない者たちがいる。



 倉庫エリアでは、ギルドガードの現場指揮官であるダイアスが、次々に部下から報告を受けていた。


「そうか……倉庫からは何も見つからなかったか……」


 報告を聞いても、彼はそれを予想していたようで、あまり落胆した様子はない。


「あそこは、もともと一時的な保管場所のようだったからな。ついでに何か手がかりが拾えればと思ったが……そう都合よくはいかないか」


 現状、上がってくる報告は、どれも(かんば)しいものではなかった。じりじりと苛立ちが募り、無意識に舌打ちが漏れる。


 そんな中、マナトレーサーを任せていた部下が、慌てた様子で駆け込んできた。

「隊長! 魔力の痕跡を発見しました!」


「何っ! よくやった!」

 ダイアスは立ち上がり、喜びの声を上げる。


「これもユーク君やアウリン君のおかげだな。後で礼でも持っていかせるか……」


 ダイアスは、部下の案内で痕跡があったという場所へ向かう。


 その場所は、子どもたちが囚われていた倉庫のすぐ近く、大通りの中央付近だった。


「ふむ、ここか……」

 ダイアスは通りを見回す。


 地面の状態から、この大通りは昼間であれば輸送用の馬車が多く通っていることが見て取れる。


「なるほど、だから夜になるまで待っていたのか……」


 ダイアスは煙草の煙を吐き出しながら空を仰ぐ。夜空に浮かぶ星々が、静かに瞬いていた。


(後はアズリアのやつが、エウレ師に話を通してくれればなんとかなりそうだな。頼むぞ、時間との勝負なんだ……)



 その頃、エウレの邸宅では。


「だーかーらー! なんで私がそんなことをしなければならないのだ!」

 寝間着姿のエウレが、不機嫌そうに床をにらみつけている。


「お願いです、どうか……どうか……」

 そこでは、アズリアが部下と共に、額を床に付けて土下座をしていた。


「……あの魔道具は、作るのがなかなか面倒くさいんだぞ!? それをいくつも作れだと? しかも今すぐに!?」

 エウレは顔を真っ赤にしながら怒鳴るが、それでもアズリアの額は床から離れない。


「子どもたちの命がかかっているんです! だから、どうか……!」

 床に頭を付けたまま懇願するアズリア。


「はあ〜もうっ! うっとうしい!」

 イライラした様子のエウレが床に物を叩きつける。


「お願いします!」

 それでもアズリアは決して頭を上げなかった。


 ついには耳を塞ぎたくなったエウレが、深々とため息をつく。

「……ったく、もう。わかったよ、わかった! やるよ! やれば良いんだろ?」


「本当ですかっ!?」

 アズリアが嬉しそうな表情で顔を上げる。


「ただし、特急料金で割高になるからな? ……くそっ!」


 エウレがついに折れると、アズリアは心の底からの安堵を浮かべ、深々と頭を下げた。



翌日。

 朝の陽射しが差し込むリビングには、いつもよりも少し遅く起きたユークたちが集まっていた。


 テーブルには簡単な朝食が並べられ、湯気が立ち上っている。


「……それで、昨日の話だけど。どうする?」

 静かに、けれど真剣な声で問いかけるユーク。


 アウリンが勢いよく手を挙げた。表情は明るく、迷いはない。


「私は賛成! ギルドガード付きで安全に稼げるチャンスなんて、滅多にないんだから!」


 セリスは腕を組み、小さく首を傾ける。


「私は……ユークがいいって言うなら、どっちでもいいよ」

 その口調はいつものように淡々としていて、ユークに対する信頼が(にじ)んでいた。


 一方で、ヴィヴィアンは唇に指を当てて小さく(うな)る。


「ん〜……。私は、やめた方がいいと思うわ」


 消極的な意見だったが、軽く口にしたわけではない。彼女なりに考えた末の結論なのだろう。


 アウリンは身を乗り出し、ヴィヴィアンをじっと見つめた。


「ちょっと待って! ギルドガードのサポート付きで、安全に信頼を稼げるチャンスなのよ? やらない理由なんてある?」


 だがヴィヴィアンは、それでも首を横に振る。


「でも、そう上手くいくとは限らないじゃない? 危険を(おか)す価値が本当にあるのか、もっと真剣に考えるべきだと思うの……」


 そして、二人の視線が一斉にユークへと向けられる。

「ユークは、どう思う?」


 アウリンの瞳が真っすぐに彼を見つめる。


「ユーク君は、わかってくれるわよね?」

 ヴィヴィアンもまた、静かに彼の判断を待っていた。


 二人に迫られて、ユークは考え込んでしまう。

(正直、ヴィヴィアンの気持ちの方が分かる。だけど……カルミア……あの仮面の男は本当にお前なのか……?)

 カルミアのことを、ユークはまだ仲間に話せずにいた


(もし……あれが本当に、カルミアなんだとしたら……)

 ユークは黙ったまま拳をギュッと握る。


(ごめん、ヴィヴィアン……)


「……俺は、受けるべきだと思う。乗りかけた船だからな。最後まで、やり遂げたい」


 静かに、しかし決意を込めて口にしたその言葉に、部屋の空気が少し変わった。


 ヴィヴィアンはほんの一瞬、寂しげに目を伏せた後、すぐに顔を上げ、笑顔を作る。


「そう……わかったわ。なら、私たちは急いで武具を修理してくるわね」


 立ち上がった彼女は、隣に座っていたセリスの手を取った。

「行くわよ、セリスちゃん!」


 セリスはそんな彼女に引っ張られたまま、少し困ったように笑う。

「私は、ユークの側にいたいんだけど〜」


「いいから! さっさと行くわよ!」

 ヴィヴィアンに引っ張られ、セリスは仕方なさそうに立ち上がった。


「じゃあ、行ってくるね、ユーク」


「うん。気をつけて」


 二人を見送ったユークの隣で、アウリンが立ち上がる。


「さて。私たちも行くわよ」


「行くって……どこに?」


 ユークが首をかしげると、アウリンは胸を張って答えた。


「決まってるでしょ。エウレさんのところよ!」


 だが彼女は知らなかった。

 今、エウレはギルドガードの依頼でデスマーチ中であり、とても機嫌が悪いことを――


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.22)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:カルミアの事も、ちゃんとみんなに言わないとな……

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

セリス(LV.22)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:ユークと一緒にいたかったのに〜

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

アウリン(LV.23)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:彼女に作って貰いたいものがあるの。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ヴィヴィアン(LV.22)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

備考:う~ん。急ぐなら応急処置が関の山ね……

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アズリア(LV.30)

性別:女

ジョブ:剣士

スキル:剣の才(剣の才能をわずかに向上させる)

EXスキル:≪ストライクエッジ≫

備考:後は数が出来しだい人海戦術で……

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ダイアス(LV.??)

性別:男

ジョブ:??

スキル:??

備考:頼むから、念のため拠点を変えようなんて考えてくれるなよ。

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