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第65話 “出口”


「くそっ……! 本当ならヤツを尋問して、子供たちの居場所を吐かせるはずだったのに!」

 アズリアが悔しげに叫んだ。


「えっ? 子供たちは今回、救出したんじゃ……?」

 ユークが困惑の表情を浮かべながら振り向く。


「今回見つかったのは、今日さらわれた子たちだけだ」

 低く、重い声が間を割った。


「これまでに、もっと多くの子供たちが誘拐されていて、その子達はいまだに見つかってはいない」

 アウリンと話していたギルドガードの男性が説明してくれる。


「ええっと……」


「おっと、自己紹介がまだだったな。俺の名前はダイアス。アズリアと同じく、ギルドガードの隊長をしている」


 ダイアスは、腰まで伸ばした長い黒髪の三十代男性だ。細身で、若い女性に人気が出そうな雰囲気の中年だった。


「これまでどうやって、あれだけの人数を誰にも気づかれずに誘拐していたのか、ずっと分からなかったが……」

 ダイアスは周囲を見渡し、低くつぶやく。


「今回ようやくその答えが見えてきた」


「へっ?」

 ユークが分からず、間の抜けた声を上げる。


「ユーク、転移魔法よ。私達が《賢者の塔》に行くときにいつも使ってるでしょ?」

 横からアウリンが助け舟を出す。


「ああっ!」

 ようやく理解したらしく、ユークが目を見開いた。


「少人数ずつ誘拐して、どこかの拠点に集めた後、転移魔法で一気に本拠地へ送る……」

 ダイアスの声には怒りがにじんでいた。


「見つからないはずだ。まさか、賊ごときが転移魔法を使うなんて、誰も思わなかったからな」

 怒りに震え、ダイアスは拳を固く握りしめる。


 その(かたわ)らで、アウリンがしゃがみ込み、手にしたマナトレーサーをいじっていた。


「うーん……やっぱりダメね」

 すぐに立ち上がり、眉をひそめる。


「どうしたの、アウリン?」

 ユークが不思議そうに声をかけた。


「転移魔法の痕跡(こんせき)をマナトレーサーで記録すれば、敵の本拠地が特定できるかもって思ったの……」

 アウリンはマナトレーサーをいじりながら答える。


「なるほど……その手が……!」

 ダイアスが言いかけたが、アウリンが首を横に振った。


「だけどダメね。いろんな攻撃魔法の魔力が混ざっちゃって、判別できそうにないわ……」

 アウリンが残念そうに呟く。


「そうか……。仕方ない……となれば、倉庫の所有者を調べてみるか……」

 ダイアスはすぐに思考を切り替え、次の手段を考え始めた。


「……すまない。私が魔法での攻撃を指示したから……」

 アズリアが顔を青ざめさせながら落ち込んでいる。


「いや、あの場では君の判断は間違っていなかった。間違ってはいない……が……」

 ダイアスが黙り込む。


「ま、まあ。あの時点では転移魔法のことは分からなかったから……」

 アウリンもフォローを入れる。


 そのとき、ユークがぽつりと口を開いた。


「ねえ、カル……いや、あの仮面の男って、どうやってここに来たんだろう……?」


 (あご)に手を当てながら、ユークが問いかける。


「どうやって……とは?」

 ダイアスが首を傾げて問い返す。ユークの言葉の意図をつかみかねていた。


「入り口があるなら、出口もあるんじゃないかと思って」

 ユークの言っている意味が分からず、ダイアスは首をかしげる。


「なるほど! 確かにそうね!」

 だがアウリンは意味を理解したようで、顔がぱっと明るくなった。


「どういうことかね?」

 ダイアスがアウリンに問いかける。


「私たちがいつも探索している《賢者の塔》は、入るときのポータルの場所と、出るときに飛ばされる場所が違うの。仮面の男が使ったのが敵の拠点への“入り口”だとしたら、“出口”もあるかもしれないってことよ!」


 アウリンの口調には確信がこもっていた。ダイアスはその言葉を噛みしめるように繰り返す。


「ふむ。この倉庫エリアは普段と違って我々(ギルドガード)が多く巡回しているというのに、不意打ちされるまで接近に気づかなかった……となると。すぐ近くにその“出口”とやらがある可能性が高い……か」


 思案に沈むダイアス。その眉間には深いしわが刻まれていた。


「おい! 呆けてる場合か! 今すぐ部下をエウレ師のところに向かわせろ!」


 青い顔で、頭を(かか)えて(うな)っているアズリアの背中を、バシンと叩くダイアス。


「うわぁ! な、なな、何だ!?」


「聞いてなかったのか……アウリン君、悪いが彼女にもう一度説明してやってくれ。それと、これは一時的に借りさせてもらう」


 ダイアスはマナトレーサーを手に取り、ユークに見せる。


「エウレ師には私から話しておこう。何か言われたら、“ギルドガードが強制的に接収した”とでも言っておいてくれ。もう行って構わないぞ。迎えも来たようだしな……」


 ダイアスが視線を向けた先――道の奥に装甲馬車が止まっていた。ギルドガードの隊員が走っていき、馬車から降りた人物と何事か話し込んでいる。


 恐らく、移送予定だった誘拐犯に逃げられてしまったことを説明しているのだろう。


 その言葉に甘えて、帰ろうとするユークだったが。


「あっ、待ってくれ! 誘拐犯のアジトの襲撃に参加したいのであれば、襲撃の実行日までにギルドに来てくれ! 受付には話を通しておく!」

 アズリアが声を張り上げた。


「待て、アズリア。彼らはもう十分働いた。これ以上関わらせるのは私としては反対だ!」

 ダイアスが鋭い眼差しでアズリアを(いさ)める。


「え? 私は、ここまで来て最後の最後に除け者にされるのは嫌かなって思っただけなんだが……」

 アズリアが困惑しながら話す。


「なに……?」

 それを聞いて、ダイアスも困惑してしまう。


 お互いに困惑したまま黙ってしまう二人。


「え〜っと……仲間と相談してから、決めたいと思います」

 ユークが一歩前に出て、空気を和ませるように提案した。


「…そうだな。それがいい。もし参加するのなら、私からも推薦しておこう」

 ダイアスが静かに頷く。


「わかった。参加してくれるならよろしく頼む」

 アズリアが手をひらひらと軽く振る。


 二人に別れを告げてから、仲間たちを集めて馬車へと向かう。


 こうして。ようやくユークは、波乱に満ちた今日という日を終えることができたのだった。



◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.22)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:ようやく家に帰れる……

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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

セリス(LV.22)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:とりあえず、黙ってユークの後ろで控えていた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

アウリン(LV.23)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:後でエウレさんの工房に向かう必要があるわね……

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ヴィヴィアン(LV.22)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

備考:一応、万が一に備えて周囲を警戒中。

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アズリア(LV.30)

性別:女

ジョブ:剣士

スキル:剣の才(剣の才能をわずかに向上させる)

EXスキル:≪ストライクエッジ≫

備考:今夜は完全に徹夜だな。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ダイアス(LV.??)

性別:男

ジョブ:??

スキル:??

備考:とりあえずエウレ師にはこの魔道具を量産して貰うとしよう。

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