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第64話 後処理


 普段は人通りのない倉庫エリアに、今は大勢の人々が集まっていた。


「ありがとう……本当に……ありがとう……!」


 アズリアが目に涙を浮かべ、今にも崩れ落ちそうな様子でユークにすがりついている。


 事件はひとまず終息を迎え、ギルドガードの増援も現場に到着している。誘拐犯の一人、ラルドは拘束され、もう一人の犯人は、ヴィヴィアンの剣によって命を落とした。


「……なるほど、エウレ師から借りた魔道具で子供たちの居場所を探し当てたと」

 ギルドガードの男性が感心したように頷く。


「ええ、見つけるのに本当に苦労したわ。街中を走り回ったんだから……」


 アウリンは胸をはってやや得意そうにしながら、事の経緯を説明していた。


「体が大きくなってね。私なんか、一発で吹き飛ばされちゃって……」


「完全にモンスター化しても、人間の意識を残していたと……それは尋常じゃありませんね」


 セリスもまた、落ち着いた口調で戦闘の詳細を語っていた。


「動かないでね〜? ちょっとでも動いたら、その首……落ちちゃうかもしれないから」


「へっ! 抵抗なんてしねぇよ!」


 ヴィヴィアンはラルドの側に立ち、複数の隊員と共に彼女を監視し続けていた。移送の準備が整うまで、逃げ出されないように警戒している。


 ユークはというと、仲間の中で最も深い傷を負っていたため、この場で応急処置を受けていた。


(まさか、あのおじさんが子供たちを逃がすために死んでいたなんて……)


 倉庫エリアを探索していたとき、ユークたちをバカにしていたギルドガードの男。

 その彼が、子供たちを逃がすために自らを犠牲にして命を落としたと知り、ユークの胸は重く沈んでしまったのだが。


(でも、知らずとはいえ仇を討てて、本当に良かった……)


 その後で、彼の後輩だという女性隊員から事情を聞かされ、ユークの心はわずかに軽くなっていた。


 現在は、捕らえた誘拐犯を移送するための装甲馬車を待っている状態で、ユークたちもそれに同乗する形で病院へ搬送される予定となっている。


 そのため、ここで待機しているのだ。


「そういえば、今って何時なんですか?」

 ふと思い出したように、さっきまで泣き崩れていたアズリアに声をかける。


「ん? 今は……ちょうど九時だな。どうかしたか?」


 アズリアは懐から時計を取り出して確認しながら答えた。

(今から家に帰ったら、もう寝るだけになりそう……今日はアウリンの番だったけど、今夜はちょっと無理かな……)


「いや、普段ならもう家に帰って、のんびりしてる時間だったので……」

 内心を取り繕うように、ユークは苦笑いを浮かべた。


「はは、すまなかったな。ギルドからもちゃんと報奨金が出るはずだから、それで勘弁してくれ」

 アズリアが苦笑しながら、肩をすくめる。


 その瞬間だった。


「っ! みんな、下がって!!」

 ヴィヴィアンの緊迫した声が響き渡る。


 轟音とともに地面が揺れ、土埃が舞い上がった。


「うわっ——!」


 ギルドガードの隊員が吹き飛ばされ、押さえつけていたラルドが転がりながら解放される。


 そこに現れたのは、人間とは思えぬ異形だった。真っ黒な鱗に覆われた巨大な腕、全身を覆う漆黒のローブとフード、そして感情を読み取らせない仮面。


「来てくれたか……すまねぇ、リーダー。俺、しくじっちまったよ……」


 ラルドがしおらしく頭を垂れた。彼女がこんな態度を取るのは、相手がよほど特別な存在であることを物語っていた。


「……ガーネットは?」

 低く、冷えきった声がラルドに問いかける。


「……あいつは、死んだ。その……」

 ラルドが口ごもっていまう。


「いい。こんな場所で死ぬような奴は、最初から《《真の仲間じゃなかった》》ってことだ」


 仮面の男は、感情の一片も見せずに冷たく言い放った。


「っそ、そうだよな! あいつは……真の仲間じゃなかったんだよ!」

 ラルドが縋るように同意する。


 仮面の男は、ゆっくりと周囲に視線を走らせた。

「……さて、面倒なことになってるな」


 その視線の先には、武器を構えたギルドガードたちが包囲網を築いている。セリス、ヴィヴィアン、そしてユークの姿もその中にあった。


(……この声、どこかで聞いたことがある気がする……)


 仮面の男を見つめながら、ユークが記憶の糸を手繰り寄せる。


「これだけの兵に囲まれて、逃げ切れるとでも思っているのか!」

 アズリアが鋭く叫んだ。


 そのとき、仮面の男とユークの視線がぶつかる。


「っ! お前は、ユーク……?」

 驚愕に目を見開き、男が呟いた。


 その言葉を聞き、ユークの口が、勝手に動いてしまう。


「……カルミア、なのか?」


 その名を口にした瞬間——


「かかれっ!!」


 アズリアの号令が響き渡り、無数の矢と魔法の光がラルドと仮面の男を目がけて放たれる。


 ——その一瞬、ユークは見た気がした。


(……笑った……?)


 光に包まれる直前、仮面の男が小さく……ほんのわずかに、口元を緩めて笑ったように。



「くそっ……馬鹿な……逃げられただと……?」

 苛立ちを隠せないアズリアの叫びが響く。


 煙がゆっくりと晴れていくと、そこには、誰一人として残っていなかった。


 攻撃は死体が跡形も無くなるようなものではない。


つまり――逃げられたということだ。


 怒りに震えるアズリアを横目に、ユークは冷静に考えていた。


(あいつが……カルミアのわけがない)


 もしそうだとすれば、カルミアは明確な犯罪――それも子供の誘拐に加担していることになる。ユークは、それだけは信じたくなかったのだ。


 ユークは複雑な表情で、ただ静かに呟く。


「……違うよな、カルミア」


 視線を夜空へと向ける。だが、厚い雲が空を覆い、月の姿は隠されてしまっていた。



──どこかの施設にて。


「帰ったぜ、博士」


「おや? 戻ったか、カルミア君。ずいぶん遅かったじゃないか」


 金髪を肩まで伸ばし、白衣を着た男が、不敵な笑みを浮かべて出迎えた。

「ああ、ギルドガードとちょっと揉めてな……」


「ふむ、君たちだけかね?」

 博士と呼ばれた男が、疑いの目をカルミアに向ける。


「ガーネットは死んだ。子供も逃げられたらしい」

 カルミアは感情のこもらない声でそう告げた。


「そうか……彼女が死ぬとはな。まあ、仕方ない。切り替えていこう。幸い、必要数は確保できたからね。これならクライアントにもいい報告ができそうだよ」

 そう言ってため息を吐いた後、笑顔を浮かべる博士。


 その言葉に、カルミアの眉がわずかに動く。


「あいつらの方は成功したのか。それなら、あとで褒めてやらないとな」


「そうしてくれ。僕はさっそく実験に取りかかるとしよう」


 博士はそれだけを言い残し、奥の部屋へと消えていった。


(ユーク……あれほどお前を憎んでいたはずなのに。実際に目の前にしても、不思議と何も感じなかった……だが)


 ――彼は口元をわずかに緩めると、静かに言葉を紡いだ。


「俺の前に立ち塞がるのなら――容赦はしない」


 カルミアはその言葉とともに、黒い鱗の生えた巨腕を粒子のように散らし、元の姿へと戻す。

 そして、一歩、博士が消えた方向へと歩みを進める。


 冷たい床に足音を響かせながら、その姿が闇へと溶けていった。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.22)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:カルミアなのか……?

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セリス(LV.22)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:ユークのようすが何か変……

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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

アウリン(LV.23)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:転移した……?

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ヴィヴィアン(LV.22)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

備考:大惨事ね……

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ラルド(LV.??)

性別:女

ジョブ:諡ウ螢ォ

スキル:諡ウ縺ョ謇(譬シ髣倥?蝓コ譛ャ謚?陦薙r鄙貞セ励@縲∵?シ髣倥?謇崎?繧偵o縺壹°縺ォ蜷台ク翫&縺帙k)

備考:カルミアの真の仲間の1人。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

カルミア(LV.??)

性別:男

ジョブ:荳顔エ壼殴螢ォ

スキル:蜑」縺ョ謇(蜑」縺ョ蝓コ譛ャ謚?陦薙r鄙貞セ励@縲∝殴縺ョ謇崎?繧貞髄荳翫&縺帙k)

備考:フードやローブが黒いのは彼の趣味。

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