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第62話 完全変化


「はははははは! こんなもんかよ、探索者ってやつは!」


 ローブとフードで全身を(おお)い、仮面で顔を隠した巨体の女、ラルドが(わら)いながらヴィヴィアンとセリスを(あざけ)る。


 二人はその強烈な猛攻に押され、完全に守勢(しゅせい)に回っていた。


「《フレイムボルト》!」

 不意に、鋭い魔法の声が戦場に響く。


 炎の矢がラルドの死角から放たれ、その頭部に直撃する。


「あ゛あ゛ぁ?」

 ラルドが眉をひそめ、怒りのままに振り返る。


「頭に直撃して死なないのか……どれだけレベルが上なんだ、あいつ」


 呆れたようにぼやきながら、ユークがセリスたちのもとへ駆け寄る。


「痛ってぇじゃねぇかあああああ!!」

 怒号と共に、ラルドがユークめがけて拳を振りかぶった。


「させないわ!」

 その拳を、ヴィヴィアンが構えた盾で受け止める。


「どけええええっ!」

 ラルドは猿のような毛むくじゃらの腕で、まるで獣のようにヴィヴィアンの盾を滅多打ちにする。

 容赦のないその猛打(もうだ)が、金属越しに重く響いた。


「《フレイムレーザー》!」

 その瞬間、ユークの魔法が再び(ひらめ)く。


 ユークによって速度を強化された炎の魔法がラルドの仮面の隙間を正確に突き、片目に命中した。


「があああああっ!」


 ラルドが顔を押さえて苦悶(くもん)の声を上げる。

「てめ゛え゛! 許さ゛……」


 血走った目でユークを(にら)みつけるラルド。その一瞬の隙を、セリスが見逃すはずがなかった。


「せやっ!」

 鋭く踏み込み、彼女の槍がラルドの腕を関節から切り裂いた。


「ぎゃああああああああっ!!」

 断ち切られた腕から血が噴き出し、ラルドが絶叫する。


「関節なら斬れる……よかった」

 セリスはそう呟くと、ユークの隣に並び立ち、再び槍を構えた。


「セリス! 追撃を――!」

 ユークが言い切る前に、ラルドは地面を蹴って大きく後方へ飛び退く。


「くっ……!」

 悔しそうに歯噛(はが)みするユーク。


 その視線の先で、ラルドの断たれた腕が光の粒子となって消え、それが集まって再び腕として形成されていく――。


 次の瞬間にはまるで何事もなかったかのように、彼女の元々のものであろう《《人間の腕》》が再生されていた。


「……!? 腕が……元に戻った……?」

 ユークが目を見開く。仲間たちも、異常な光景に言葉を失っている。


「てめぇら……俺を本気で怒らせやがって……いいぜ。そんなに死にたいなら殺してやるよ!! 《完全変化》!」

 ラルドの低い声が、怒りと興奮を混ぜたように響く。


 その体が、再び変貌(へんぼう)を始めた。


 まず腕が膨れ上がり、再び人間の腕が毛むくじゃらの猿の腕へと変わっていく。

 続いて足も猿のような獣のそれへと変化し、身長が一気に跳ね上がった。


 そして――彼女の体躯そのものが巨大な毛むくじゃらの巨躯へと変わっていく。


 身に着けていたローブは前掛けのように垂れ下がり、顔を隠していた仮面も地面に落ちて砕け散った。


 (あらわ)わになった顔は、もはや人間のものではなかった。


『……はは。久しぶりだな、この感覚』

 ラルドは完全に猿型のモンスターへと変貌(へんぼう)しながらも、笑っている。


「モンスターに……変化した……?」

 ユークの脳裏に、過去に戦ったブレイズベアの姿がよぎる。


 だが、それとは決定的に違っている部分があった。


 この敵には――まだ人間としての“意識”が残っている。


「ヴィヴィアン、防御に回って! セリス、一瞬でいい、動きを止めてくれ!」


 冷静に指示を飛ばすユーク。すでに詠唱に入りながら、ラルドの動きを見極める。


 完全変化したラルドの動きは、部分変化していたときと比べて思ったほど速くはなっていなかった。


(これなら……なんとかなるか……?)


 そう思った矢先――


『ぶち殺すッ!!』

 ラルドが咆哮と共に巨大な拳を振りかぶる。


「来なさい!」

 ヴィヴィアンが盾を構え、正面から受け止めようとした。


「えっ――」


 だが、次の瞬間。


「きゃああああああああ!!」


「ヴィヴィアン!?」

「ヴィヴィアンッ!!」

 仲間たちの叫びが交錯する。


 ヴィヴィアンの体は、盾ごと凄まじい勢いで吹き飛ばされ、地面を転がっていった。


「はぁああああっ!」

 ヴィヴィアンが攻撃を防ごうとしたその一瞬。セリスはすでに突撃の体勢に入っていた。勢いを止める暇もなく、狙いを定めて槍を振るう。


『邪魔だ』

 ラルドの目がセリスを捉える。平然とした態度のまま、その巨腕が横に()がれる。


「ぐっ……!」

 セリスの攻撃は、まるで風を切るだけのように軽く避けられた。


 そして次の瞬間、彼女の体はラルドの平手(ひらて)()()えられ、弾き飛ばされる。


「あああああぁぁぁっ!!」

 苦痛の悲鳴が空気を裂き、セリスの身体が地面を転がりながら遠くへと吹き飛ばされていってしまう。


「《フレイムランス》!」

 その隙を突き、ユークが詠唱を終えた魔法を放つ。今の彼にとっては、最も高威力の呪文だった。


 だが。


『効かねぇなあ』

 ラルドは一歩も動じず、炎の槍をあざ笑うように避けると、そのままユークへと歩み寄る。


「……ダメか……っ、うっ!」

 ユークの体が宙に浮く。ラルドの巨大な手が彼を難なく掴み上げていた。


『捕まえたぜぇ。散々好き勝手してくれたなぁ?』

 ラルドはいやらしい笑みを浮かべると、猿のモンスターの顔を不気味に歪ませた。


『てめぇは一息じゃ殺さねぇ。徹底的に痛めつけてから、ゆっくり殺してやるよ』

 ユークを握り潰さぬよう慎重に持ち上げると、ラルドの胸の高さまで運ぶ。


『ん〜、まずは俺がやられたみてぇに……そうだな、腕の一本でもねじ切ってやるか』

 もう片方の手がユークの腕へと伸びかけた、そのときだった。


『……ん? なにブツブツ言ってやがる。命乞いか?』

 ユークが何かを呟いていることに気づき、ラルドは顔を近づけて耳を傾ける。


 その瞬間――


「《ストーンウォール》」


『は?』

 ラルドが戸惑(とまど)った声を()らした直後、ユークを握る手の内側から石の壁が出現する。


 狭い空間に無理やり出現した壁は、ラルドの指を押し広げ、ユークの体がその隙間から地面へと(すべ)り落ちた。


『あっ、てめっ!』

 ラルドが手を伸ばし、再び掴もうとする。


「ユーク!」

 駆け寄ったセリスが、間一髪でユークを抱きかかえ、その腕の中に収めた。


「げほっ、ごほっ……っ、い、今だ、アウリン!」

 咳き込みながらも、セリスに抱きかかえられたユークが叫ぶ。


 その言葉を合図に、彼らが時間を稼いでいる間、詠唱を続けていたアウリンの魔法が解き放たれた。


 アウリンが右手で杖を高く掲げると、そこに赤熱(せきねつ)の槍が姿を現す。


「——《プロミネンス・ジャベリン》!」


 燃え上がる炎をまとった魔槍が、空を裂くようにしてラルドへと放たれる。


『チッ、その程度……!』

 ラルドが跳躍(ちょうやく)し、避けようとする。しかし魔槍はまるで生きているかのように軌道を変え、獲物を狙って追いかける。


『ぐっ……しまっ!』


「《ストーンウォール》!」

 ユークが咄嗟(とっさ)に魔法を唱え、セリスと自分を(おお)うように巨大な石の壁を出現させる。


 次の瞬間、灼熱(しゃくねつ)の槍がラルドの胸を貫いた。


 燃え広がる炎が、ラルドの全身を包み込む。


 猛烈な熱が空気を歪ませ、地面の土が焼かれて硬化していく。まるでそれは、溶けたガラスのような光沢を帯びていた。


『あ゛あ゛あ゛あ゛ぁッ!! あ゛ずい゛! あ゛ずい゛! あ゛あ゛あ!!』


 ラルドの苦悶(くもん)の声が倉庫街の一角に響き渡る。

 炎に包まれた巨体がのたうち回り、しかしその全身を、炎が容赦なく呑み込んでいく。


 やがて炎が収まり、煙が晴れる。


 そこには、黒く焼け焦げ、炭化して骨まで(あらわ)わになったラルドの亡骸(なきがら)が、崩れ落ちるように地に伏していた。



◆◆◆


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ユーク(LV.22)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:全身が痛い、折れてるかも……

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セリス(LV.22)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:ユークが無事でよかった。

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アウリン(LV.23)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:ずっと隠れて詠唱してたけど気が気じゃ無かったわ。

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ヴィヴィアン(LV.22)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

備考:ユーク君を守れなかった、騎士として恥ずかしいわ……

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ラルド(LV.??)

性別:女

ジョブ:諡ウ螢ォ

スキル:諡ウ縺ョ謇(譬シ髣倥?蝓コ譛ャ謚?陦薙r鄙貞セ励@縲∵?シ髣倥?謇崎?繧偵o縺壹°縺ォ蜷台ク翫&縺帙k)

備考:返事がない。ただの屍のようだ。

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