第58話 マナトレーサー
エウレの邸宅からセリスを伴ってユークが出てくると、すぐに仲間たちが駆け寄ってきた。
「ユーク、どうだったの!?」
真っ先に声を上げたのはアウリンだった。
「エウレさんから探すための魔道具を貸してもらえたよ!」
ユークはニッコリと笑って成功をアピールする。
「やったじゃない!」
「良かったわ〜」
仲間たちが喜びを口にする。
「だけど使うのに条件を満たさなきゃいけないみたいなんだ、まずはアズリアさんの家に戻ろう」
その一言に、仲間たちは顔を見合わせ、次々と小さく頷いた。
アズリアの家に戻ってきたユークはカバンからエウレから借りた魔道具を取り出す。
「よし、うまくいくと良いけど……」
ユークが小さく呟いた。
「それで、どうやって使うの?」
ユークの持つ奇妙な形の魔道具を見つめながらアウリンが興味深そうに尋ねる。
ユークは鞄から取り出したソレは小さな金属製の箱のような魔道具だった。銀色の細い針と、魔力を感じ取るための小さな水晶球が備え付けられている。
「この『マナトレーサー』って魔道具は、個人の魔力を特定して追跡できるらしいんだ」
「個人の魔力って?」
アウリンが小首をかしげる。
「エウレさんによると、人それぞれで魔力の波? みたいなものが微妙に違ってるらしくて。それを手がかりにして魔力の持ち主を見つけるんだって」
ユークの説明はやや曖昧だったが、それでも彼なりに理解しようとしている様子だった。
「えぇ!? 人によって魔力に違いがあるなんて……そんなこと、初めて聞いたわ」
アウリンは困惑した表情をしながら腕を組んで唸っている。
「原理は分からないけどエウレさんができるって言ってたんだ、とりあえずやってみよう!」
ユークはそう告げると、家の奥へと足を進めていった。
「でも、本人がいなかったら……探しようがないんじゃないかしら〜?」
ヴィヴィアンがゆったりとした口調で不安を口にする。
「うん、それなんだけど……長い間、同じ場所で魔力を使っていたりすると、そこにその人の魔力がこびり付いていることがあるらしいんだ」
ユークは足を止めずに、後ろを振り返りながら説明を続けた。
「その場所って?」
今度はセリスが尋ねた。
ユークはゆっくりと頷いたあと、一つの扉の前で立ち止まった。
「たぶん、ここしかないと思う」
そこには「ペクトとリマの部屋」と書かれたプレートが掲げられてる部屋だった。扉の先には、窓枠ごと無残に壊された窓と、荒れた部屋の様子が広がっている。
それは、アズリアの子供たちが暮らしていた部屋だった。
部屋の中に入ったユークは、マナトレーサーを手に慎重に歩き始めた。目を凝らしながら、部屋の隅々に魔道具をかざしていく。
「うーん……今のところ、反応しないな」
眉をひそめたユークが、棚や机の周りを丁寧に調べていく。
「ねえっ! ここはどう?」
セリスが突然、ベッドを指差した。そこには淡いピンク色の毛布がかかっており、女の子らしいぬいぐるみが並んでいる。
ユークがその場所にマナトレーサーを近づけた瞬間、水晶球がかすかに光を帯びた。
「……ここだっ!」
ユークの声が高まる。
「ちゃんと毎日、練習してくれてたんだ!」
その瞳には、ほっとした安堵と嬉しさが宿っていた。
「じゃあ、これで子供たちが見つかるのね!? 今はどこにいるの?」
アウリンが食い気味に身を乗り出してくる。
「この魔力の持ち主である、リマちゃんに近づけば、マナトレーサーが反応するはずだよ。方向もある程度わかるみたいだ」
ユークは冷静に説明しながら、マナトレーサーをもう一度確認した。
「え〜っとつまり、結局……自分たちで探さなきゃいけないってこと?」
アウリンががっくりと肩を落とす。
「そういうことだね。でも、ある程度近づけばしっかり反応してくれるはずだから……」
ユークは困ったように笑みを浮かべ、仲間たちを見渡した。
「さあ、行こう。リマちゃんたちを、必ず助け出すんだ!」
気合を入れた宣言に仲間たちが力強くうなずいた。
この街のどこか――。
薄暗く広い建物の中に、いくつもの小さな檻が並んでいた。そのひとつひとつに、さらわれた子供たちが閉じ込められている。
「《光れ》」
金髪のツインテールに可愛らしい服を着た少女が、こっそりと魔法を唱えた。
「おい、リマ! そんなの今やらなくてもいいだろ」
兄のペクトが、小声で魔法の練習を始めた妹をたしなめる。
「でも、ユークお兄さんが、毎日練習しなさいって言ったもん」
リマは頬をふくらませ、むくれたように言い返した。
「だからって、一日くらいサボったって……しっ! 来る!」
ペクトが慌ててリマの口を手で塞ぐ。
コツ、コツ、と足音が近づいてくる。フード付きのローブで身を包み、顔を仮面で隠した誘拐犯が現れた。どうやら、新たな子供が連れてこられたようだ。
「やめっ! やめろよ! はなせっ!!」
連れてこられた子供が叫び、必死に抵抗する。
「やめっ! 痛っ! やめて! お願い! 痛いっ、痛いっ!」
誘拐犯は何も言わず、その子を無言で殴りつけた。やがて抵抗が止むと、空いていた檻の中に子供を放り込み、無造作に鍵をかけて去っていく。
静寂――。
冷えた空間には、しくしくと泣く声だけが響いていた。ペクトはその間ずっとリマの口を押さえ、必死に声を殺していた。周囲の子供たちも同じだ。誰も目をつけられぬよう、ひたすら息を殺しているのがわかる。
やがて誘拐犯が去ったのを確認すると、ペクトはようやくリマから手を離した。
よほど怖かったのだろう。リマは、母親に買ってもらった杖を握りしめて、ぽろぽろと涙を流しながら震えている。
「……ママ、助けて」
ペクトはそんな妹に言葉をかけてやることが出来ず、ただ無言で抱きしめる事しか出来なかった。
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ユーク(LV.22)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
備考:必ず見つけ出してみせる!
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セリス(LV.22)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
備考:窓の壊れ方が気になる。
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アウリン(LV.23)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
備考:魔道具がすごく気になる。
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ヴィヴィアン(LV.22)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
備考:街を走りまわることになるなら鎧は着てこなければよかった。
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