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第57話 捜索依頼


「済まない……取り乱してしまって……」


 アズリアは、ユーク達の説得により先ほどまでの様子が嘘のように、今は落ち着きを取り戻していた。


「お茶です」

 静かに告げながら、セリスがアズリアの前に紅茶のカップをそっと置く。


「……ありがとう」

 アズリアはかすれた声で礼を言い、紅茶を口にするが、その指先は微かに震えている。


 セリスも席に着くと、ようやくアズリアは口を開いた。


「昨日、私が家に帰ったら、子供達がいなくなっていたんだ……」

 アズリアは震える手をギュッと握りしめる。


「家の窓は壊されていた……。すぐに辺りを探し回ったが、一晩探しても何も見つからなかった。おそらく……子供達は、さらわれてしまったのだと思う……」


 彼女の言葉には、すぐに泣き崩れてしまいそうな、そんな危うさを感じさせた。


「ギルドガードには、もう依頼を?」

 アウリンの問いかけに、アズリアは小さくうなずく。


「ああ……もちろん頼んだ。だがここ最近、同様の事件が多発していてな、未だ行方不明になった子供達は見つかっていない、私の子供達だけ都合よく見つかるなんてことは――望み薄だろうな……」


 アズリアの言葉が一瞬、詰まる。


「くそっ! 何で私は家から出さなければ大丈夫だと思い込んでいたんだ!」


 アズリアがテーブルを叩く。

 空気が重くなり、誰も声を出せなかった。


「私はギルドガードだ……。自分の子供だけ特別扱いはできない……それでも母親として、あの子達のために何かしてあげたいんだ……」


 アズリアは苦しげに唇を噛み、テーブルに両手をついて深々と頭を下げた。


「今日は休みだったが、明日にはまた現場に戻らなければならない……。だから、お願いだ。私の代わりに、子どもたちを探してもらえないだろうか!」


 彼女も、まさかユークたちになら見つけられるとは思っている訳では無い。


 だがそれでも。彼女は、(わら)にもすがる思いで、子ども達の捜索をユークたちに依頼していた。


「お金なら、いくらでも出す。借金してでも払う。もし見つけてくれたら、謝礼も約束する……。だから……お願い、どうか……」


 ユークは何も言えなかった。

 ギルドガードが本気で探しても見つけられないものを、自分たちが見つけられるのか――

 その不安が、ユークの口を縫い止めていたのだ。


 しかし、その沈黙を破ったのは、アウリンだった。


「分かったわ。見つけられる保証はないけど……その依頼、受けても構わないわよ」


「えっ?」


 ユークが思わず声を漏らす。


 だが、アズリアはそんな彼を気にも留めず、涙をこぼしながら何度も頭を下げた。


「ありがとう……ありがとう……!」


 涙とともに感謝の言葉を繰り返しながら、アズリアは家を後にした。


 静かになったリビングで、ユークがアウリンに問いかける。

「……どういうこと?」


 アウリンは、ひょいと肩をすくめて言った。


「あのまま放っておいても、絶対に帰らなかったでしょ? なら、とりあえず引き受けたほうが話が進むじゃない」


「それは……まあ、確かに」


 アウリンの言葉を、ユークは納得せざるを得なかった。


 だが、引き受けるだけ引き受けて何もできなかったとしたら、それは不誠実ではないか――


 その心情を率直に口にすると、アウリンは不敵な笑みを浮かべて言った。


「……当てなら、あるわよ」


「は?」


 ユークが驚きに目を丸くすると、アウリンは胸を張って自信満々に言い放つ。


「まずは、明日ね!」


 その日は簡単な夕食をとると、皆早めに床についた。



 そして翌朝。


 ユークたちはアズリアの家を訪れていた。

 窓は中からではなく、外側から壊された跡がそのまま残っている。


 片付ける暇もなかったのだろう。

 アズリアはすでに仕事に出ており、家には誰もいなかった。


 ユークたちは一通り調べてみたが、結局、手がかりは何も見つからない。


 まあ、ギルドガードが調査して何も見つけられなかったのだから、ユークたちに見つけられるわけがないのも当然だった。


「それで、“当て”って何なの?」

 ユークが尋ねると、アウリンは口元を上げて言った。


「ふふん。私たちには、頼れる“コネ”がいるじゃない」


 アウリンに言われて向かったのは――魔道具の研究者にして、今はユークのスキルの研究もしている人物、エウレの邸宅だった。


 エウレの工房は、所狭しと魔道具の数々が並び、異質な雰囲気を(かも)し出していた。


 その工房の奥。薬品の瓶や実験器具が整然と並ぶ棚の前で、一人の少女が背を向けて作業をしている。


 紫の髪が肩口で揺れると同時に、彼女は静かに振り返った。黒地に金の刺繍が施されたドレスのスカートがふわりと広がり深いスリットの隙間から、白く(なめ)らかな生足がちらりと覗く。


「今日も依頼を受けに来てくれた……のではないようだね……」


 淡い期待が裏切られたのか、エウレはほんのわずかに口を尖らせた。その表情は子供のようでいて、どこか底知れぬ知性の光を宿している。


 ユークは肩を竦め、少し気まずそうに笑った。

「悪いね、今回はちょっと……頼みがあってさ」


「ふむ。それは珍しい。君が頼みごとをしてくるなんて」


 その言葉に、エウレの目がわずかに細まった。だが、怒るでも呆れるでもなく、彼女は興味を抱いたように一歩近づいてくる。


「それで……今日は何の用だね?」


「うん、実は……」

 ユークはアズリアから聞いた話――子供がいなくなっていること、それが少し前から続いていること――をすべて説明した。


「君の作った魔道具で、行方不明になった子供を探すことはできないかな?」


 ユークが問いかけるが、エウレの反応は(かんば)しくはなかった。


「う〜ん。探査用の魔道具は確かにいくつかあるが、その情報だけではな……」


「頼むよ……俺、あの子たちには魔法を教えたことがあって。だから、できれば見つけてあげたいんだ」


 ユークが真剣な表情で言うと、エウレは興味を示したように首をかしげる。


「ほう? 魔法を教えた、と。ちなみに、魔法の適性はあったのかね?」


「うん……女の子のほうに適性があった。だから、毎日練習するように言っておいたんだけど……」


 ユークが説明すると、エウレはニヤリと笑った。


「なるほど。それならば、無くはないぞ?」


「えっ!? あるの?」


 ぽつりと呟いたその言葉に、ユークの目が大きく見開かれる。


「だが、使用条件があってな。君の“弟子”が勤勉であることを祈るのだな」


 そう言って、エウレは棚の奥からひとつの魔道具を取り出す。


(もしかしたら……本当に、何とかなるかもしれない)


 ユークは胸の奥に、小さな希望の灯がともるのを感じていた。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.22)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:あの子たち……無事だといいけど……

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セリス(LV.22)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:子供を連れ去るなんて許せない!

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アウリン(LV.23)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:この依頼を成功させればギルドガードからの評価も更に上がるわ!

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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ヴィヴィアン(LV.22)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

備考:人さらいなんて怖いわ……

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