第53話 変わりゆく心を受け入れて
「ふむ……そう言えば、さっき会ったときも何か考え込んでいたな。話してみろ。意外と話すことで整理がつくかもしれんぞ?」
ジオードの言葉に、ユークはしばらく考え込んだあと、重い口を開いた。
「実はセリスと……あ、セリスは俺の昔からの知り合いで、年はそんなに変わらないんですけど……姉みたいに思ってて……」
ユークはぽつりぽつりと語り出す。
「昨日、セリスと、その……男女の関係になったんですけど、それ以来、彼女の胸とかお尻とかについ、目がいってしまうんです……」
伏し目がちに言うユーク。
「別にいいんじゃないか? 魅力的な女性に目が行くのは、男として当然のことだと思うぞ?」
ジオードは軽く笑いながら答える。
「でも……なんか、嫌で……」
「……ふむ?」
歯切れの悪いユークに、ジオードは小さく首を傾げた。少し間を置き、慎重に言葉を選びながら口を開く。
「なるほどな。お前は、その娘との関係が、変わった事を認めてしまうのが怖いのかもしれんな……」
ジオードは軽く顎に手を当て、思案するように続けた。
「変わってしまったと認めれば、もう元には戻れない気がして……いや、実際、戻れはしない。変わったものは、どれだけ目をそらしても、二度と元には戻らんのに、な」
自嘲するように笑いながら、ジオードは肩をすくめた。
ユークは、はっと息を呑む。
「……認めるのが、怖い……」
自分の中の感情に初めて触れたように、震える声で呟いた。
ジオードは、懐かしむような目で彼を見つめ、ふと口元に苦笑を浮かべる。
「その点、俺はそういうことには詳しいぞ? 育ての親だった人間も、今では俺に頭を下げて敬語で話すし、共に育った乳兄弟は俺の家臣となり忠誠を誓われた。昔みたいに馬鹿を言い合うことも、もうできないんだからな」
かすかに寂しさをにじませながら、ジオードは続けた。
「……どうやって、それを受け入れたんですか……?」
ユークが、俯きながら問いかける。
ジオードは一瞬、目を閉じると、静かに答えた。
「乗り越えることなど、できんさ。ただ、時間をかけて……慣れていくしかないんだよ、俺達にはな」
重みのある言葉が、ユークの胸に静かに落ちる。
「幸い、お前はその娘……セリスのことが嫌いではないのだろう?」
穏やかな笑みを向けながら、ジオードが尋ねた。
「はい……それは……」
ユークは戸惑いながらも、はっきりと頷く。
「だったら、お前もセリスを“愛する努力”をしてやればいい。胸や尻に目がいくことに罪悪感なんて感じる必要はないんだ。好きな女を性的に見てしまうのは、男として自然なことだ。むしろ、相手もそれを望んでいるのかもしれんぞ?」
ジオードが優しい声色で諭す。
「セリスが……望んでいる……」
ユークは、昨日、獣のように襲いかかってきたセリスの姿を思い出していた。
「そっか……」
そして、腑に落ちたようにため息をつくと、ユークの顔が晴れやかになっていく。
「ふっ……悩みは晴れたようだな……」
ジオードは満足げに目を細めて笑った。
「……ありがとうございます、ジオード様」
ユークがお礼を言うと、ジオードは困った顔に変わる。
「……なあ、様づけはやめてくれないか? 堅苦しくってたまらん」
「えっ、でも……」
返答に困るユーク。
「……そうだな。呼び捨て……は難しいだろうから、さん付けでどうだ?」
親しげに笑いかけるジオード。
「……分かりました。ありがとうございます、ジオードさん!」
少し照れたようにうなずくユークに、ジオードはふっと目を細めた。
ジオードは再びグラスを傾け、赤いワインを静かに口に運ぶ。
そして、話についていけずに置物のようになっていた店の女の子に目を向けた。
「おっと、身内だけで盛り上がってしまってスマンな……」
ぽかんとしていた女の子に、ジオードが話題を振る。
「……そうだな、何か面白い話でも聞かせてくれないか?」
「面白い話、ですか〜? う〜ん……あっ、そうだっ!」
ぱっと表情を明るくすると、彼女は少し声を潜めた。
「最近、この辺で誘拐事件が多いみたいなんですよ。特に、小さな子どもが狙われるとか……怖いですねぇ」
「ほう……」
ジオードは興味深そうに頷いた。
「子ども……」
ユークの脳裏にふとよぎったのは、かつてギルドガードの女性、アズリアからの依頼で魔法を教えた事のある二人の子どもたちの姿。
(大丈夫、かな……あの子たち)
セリスに対する気持ちに一応の整理をつけたユークだったが、不穏な話を聞いてしまった彼は、浮かれた空気の中でただ一人、硬い表情を見せていた。
女性キャストに見送られながら、店を出るユークとジオード。
「本当に払ってもらっちゃって良かったんですか?」
ユークが申し訳なさそうに尋ねた。
「ふっ。気にするな、少なくともお前よりは稼いでいるぞ、この俺は」
得意げに肩をすくめ、ジオードはユークの頭に手をぽんと乗せる。
「これからどうするんだ? ユーク」
ジオードは少しだけ声を和らげ、軽い調子で尋ねた。
「そうですね……まずは家に帰って、アウリンとセリスと話をしてみます」
考えながら答えるユーク。
「……そうか。それがいいかもしれんな」
ほんのわずかに笑みを深めながら、ジオードは納得したように頷いた。
「今日はありがとうございました、ジオードさん!」
そう言って頭を下げるユーク。
「なに、義理の弟になるかもしれんのだから、これくらいはな」
冗談めかして言いながらも、その声にはどこか温かさが滲んでいた。
「ジオードさん……」
ユークの目には、尊敬と憧れが入り混じった光が宿る。
「ユーク! アウリンをないがしろにしたら容赦せんぞ!」
ジオードは冗談めかしながらも、鋭い眼光でユークを睨んだ。
「はいっ! もちろん! 二人とも俺の恋人ですから!」
ユークもジオードの目をまっすぐに見て、ハッキリと断言する。
「ふっ。さらばだ!」
にやりと笑い、ジオードは背を向けて手を振りながら歩き出す。
ユークは、その背中が見えなくなるまで見送った後、心に新たな決意を秘め、ユークは静かに一歩を踏み出した。
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ユーク(LV.20)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
備考:俺もいつかあんなかっこいい人に……
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ジオード(LV.??)
性別:男
ジョブ:剣聖
スキル:??
備考:家臣である乳兄弟はうるさいから城に置いて来た。
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