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第50話 ふたりきりの夜、セリスの決意


 騒動も一段落したユークたちは、あらかじめ買っておいた夕食を楽しんでいた。


 セリスだけはすでに食べ終えていたが、どこか落ち着かない様子で椅子の上で足を揺らしている。


「ふぅ……ごちそうさま」


 ユークが食事を終えると、セリスがすかさず声をかけてきた。


「ユーク! 私の部屋に行こっ!」


「どうしたの? 急に」


 不思議そうに目を丸くするユークに、セリスはじれったそうに身を乗り出した。


「いいから! ほら、早くっ!」


 セリスの勢いに押されるようにして、ユークはやれやれといった様子で彼女の後をついていく。


 その様子をアウリンとヴィヴィアンが見守っていた。


「……ほんとに、(ゆず)ってよかったの?」


 ヴィヴィアンが心配そうに尋ねると、アウリンはお茶を一口飲みながら、どこか寂しげに言った。


「いいのよ。最初に好きになったのはセリスだし、私じゃ無理やり押し倒すなんて無理だしね」


「ああ……」

 ヴィヴィアンが納得したように頷く。


 近接職として鍛えているセリスに対し、ユークが力で(まさ)るのは難しいだろう。


「うまくいくといいわね〜」

 ヴィヴィアンが優しく微笑む。


「そうね……次は私だから、本当にうまくいってほしいわ」


 彼女の視線は、ユークとセリスが姿を消した階段の先に向けられていた。



セリスの部屋。

 整ったベッドの端に、二人は並んで腰掛けていた。


 セリスは顔を真っ赤にし、もじもじしながらユークの様子を伺っている。


「どうしたの、セリス?」

 ユークが首をかしげると、セリスはぴくりと肩を震わせた。


「ひゃっ!? な、なんでもないっ!」

 慌てた様子で返事をしながら、目を泳がせている。


「……こうして二人でゆっくり話すの、久しぶりだね」


 ユークが優しく微笑むと、セリスは小さくこくりと頷いた。


「う、うん……」


 もじもじと視線を落としながら、アウリンから渡された袋を両手でぎゅっと握りしめているセリス。


 そのまま、二人はしばらく会話を続けた。もっとも、ユークが一方的に話し、セリスはうなずいたり、時おり短く返すだけだったが。


 やがて会話も落ち着き、ふと沈黙が訪れる。


「……じゃあ、そろそろ部屋に戻るよ」

 ユークはそう言いながら、ゆっくりと立ち上がろうとした。


「ま、待って……!」


 (すそ)を引かれ、ユークは驚いたように振り返る。


「どうしたの? まだ何かある?」


「あ……ううん……その、なんでもない……」


 小さくうつむき、消え入りそうな声で答えるセリス。

 長年、こういうチャンスを逃してきたのは伊達(だて)ではないのだ。


「そっか……じゃあ、おやすみ、セリス」


「あっ……」


 ユークが再び立ち上がろうとしたとき、セリスが手にしていた袋が床に(すべ)り落ちた。


「ん?」

 ユークが振り返る


 セリスはその袋を見つめながら、心の中でアウリンとの会話を思い出していた。


 ――「でもね……仕方ないじゃない。あなたの方がずっと長く一緒にいたのに、それでもそういう関係にならなかったんだもの」


 セリスは拳を握りしめ、立ち上がった。

「ユーク!」


 彼女の叫びに、ユークが素直に応じて振り返る。

「え、なに?」


 相変わらずどこかのんきな顔をしている彼の腕を、セリスはぎゅっと掴んだ。


 そして――


「はああああああっ!!」


 まるで戦闘のときのようなセリスの叫びと共に、ユークの体をベッドに向かって押し倒す。

「え? え? な、なに?」


 気がつけばユークは仰向けに寝かされていた。

 セリスは顔を真っ赤にしたまま、その上に(おお)いかぶさってくる。


「ど、どうしたのさ? 今日のセリス、なんか……様子が変だよ?」


 ユークは戸惑いながらも、その瞳でセリスを真っ直ぐに見上げた。


 しかしセリスの目は、今や完全に《《獲物を狙う捕食者》》のそれだった。


「……っ!」

 セリスの目を見た瞬間、なぜか背筋に冷たいものを感じるユーク。


 無言のまま、セリスはひとつ、またひとつと、静かに衣服を脱いでいく。


 やがて何も身に着けていない彼女の姿が、ユークの目の前に現れた。


 そんな彼女を見ても、あまり反応を見せないユークに少しだけ傷つきながらも、セリスは勢いよくユークの服に手をかけていく。


「ちょっと、セリス。やっぱりなんか変だってば!」


 必死の抵抗も虚しく、ユークは上半身をあっという間に脱がされてしまう。


 セリスはその意外としっかりした胸板にそっと手を当て、柔らかく撫でるように触れた。


「セリス、くすぐったいって……もう……」


 観念したように呟きながら、ユークはそのまま大人しくなる。


 そして、セリスの手がズボンへと伸びた瞬間――


「ちょっ、待って! それはダメだって!」


 顔を真っ赤にしながら、ユークはようやく本気で抵抗の声をあげた。

 しかし、力の差は明らかで、あっという間に脱がされてしまう。


 両手足を押さえつけられ、布の一枚も身にまとえない状態で身悶(みもだ)えるユーク。


 セリスは、その姿をじっと見つめた。


「……かわいい」

 ぽつりと、(つぶや)く。


「かわいいはひどい!?」

 その“かわいい”が意味するところに、ユークは大きなショックを受ける。


「でも……全然、大きくならない……なんで……?」

 セリスは小首をかしげる。


 そして、ふと何かを思いついたようにぱっと顔を輝かせた。


「……もしかして、()めたら大きくなるかも!」


 そう口にすると、彼女は布団の中へと静かに潜り込んでいった。


「えっ!? ちょっ、セリス!? なにして――あ、や、やめ……っ、セリ……!」


 未知の感覚に襲われ、ユークは息を詰まらせる。

 背筋が震え、声にならない声が喉の奥から溢れていく。


「や、め……っ、ああああ〜〜〜……」


 その声が、部屋中に響き渡った。



翌朝。


 朝の光の中、ユークはベッドの中でゆっくりと身じろぎながら、ぼんやりとまぶたを開く。


「……うーん……」


 眠気と心地よさの間で揺れるように、軽く伸びをしようとした瞬間だった。肘に、ふわりとした何かが触れる。


(……え?)


 目を凝らして隣を見ると、そこには穏やかな寝息を立てるセリスの姿があった。


 金色の長い髪が枕の上にふわりと広がり、めくれたシーツの隙間からは、ちらりと素肌が覗いている。


 鎖骨から胸元へと続く柔らかな曲線が、呼吸に合わせて静かに上下していた。


(……っ、そ、そうだ。昨日は、セリスと――)


 昨夜の出来事が脳裏を駆け抜け、ユークはみるみる顔を赤く染めた。これまで何度も見てきた寝顔のはずなのに、今日は妙にドキドキしてしまう。


「ん……ユーク……」

 寝言のように、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。


(セリスって、こんなに可愛かったっけ?)

 普段と変わりない彼女の顔が、今はまるで別人のように可愛く見える。


 ユークは、眠っている彼女を起こさないように、そっと手を伸ばし、セリスの髪を指先でなぞった。


(はあ……アウリンになんて言おう……)


 昨日の様子からして、アウリンはすでに察しているのかもしれない。だが、いざ彼女と顔を合わせることを想像すると、途端に胃が痛くなってくる。


 ユークは、まだ眠るセリスの横顔を見つめながら、静かに朝の光の中で思い悩むのだった。



◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.20)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:大人の階段を上ってしまった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

セリス(LV.20)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:すごくよかった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

アウリン(LV.20)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:貸しを作るために譲ったが、内心では割り切れていない。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ヴィヴィアン(LV.20)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

備考:セリスからどんな感じだったかは聞いておきたい。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



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