第48話 初めての告白、初めてのキス
「……アウリン」
「……ユーク」
ふたりは向かい合ったまま、静かに名前を呼び合った。
その距離は、指先が触れ合いそうなほど近い。
互いの呼吸が、まるで重なるように感じられる。
だが――。
「ダメっ!」
アウリンが突然、ユークの胸を両手で押し返した。
「!?」
思わぬ反応に、ユークは目を丸くする。
「ゴメンっ! ユーク! ……だけど、雰囲気に流されてキスなんて……そんなの私らしくないわ!」
唇を震わせながら、アウリンがひとりで訴える。
「えっ……アウリン……?」
戸惑いながら、ユークがそっと声をかける。
「ユーク!」
突然、アウリンが大きな声で名を呼ぶ。
「はっ、はいっ!」
あまりの勢いに、ユークは思わず背筋を正した。
「私は、ユークのことが好き!」
アウリンの表情は真剣だった。まっすぐな瞳でユークを見つめ、ためらいなく言葉を続ける。
「だから……ユーク、私のものになりなさい!」
「え、ええっ!?」
想像もしていなかった言葉に、ユークは目を見開いたまま固まった。
「その代わり、私もユークのものになってあげるわ!」
アウリンは頬を染めながらも、誇らしげに胸を張って言い切った。
「…………」
あまりの出来事に、ユークは言葉を失ってしまう。
「……えっと、その……ユークも……私のこと、好きよね?」
返事がないことに不安を感じたのか、さっきまでの勢いはどこへやら、アウリンは途端にしおらしくなり、か細い声でユークに問いかける。
上目遣いでじっと見つめてくるその瞳には、どこか不安そうな色が浮かんでいた。
「ふふっ」
その仕草があまりにも可愛らしくて、ユークは思わず微笑んでしまう。
「な、なによ! なんで笑うのよ!?」
照れと怒りが混ざったような声を上げて、アウリンは顔を真っ赤にして怒鳴る。
「アウリンっ!」
「きゃっ!?」
その瞬間、ユークはアウリンを強く抱きしめた。
「俺も、アウリンが好きだ! 付き合ってくれないか?」
真っ直ぐに目を見て、ユークは告白する。
「……いいに決まってるでしょ!」
顔を真っ赤にしながら、アウリンは勢いよくユークにキスをした。
「んむっ……!」
ユークは一瞬驚いたものの、すぐにその背に手を回し、抱きしめ返す。
気持ちを確かめるように、唇が重なり合う。
「んっ……ちゅ……ん……」
まるでお返しのように、熱のこもったキスを重ねるユーク。
ふたりはしばらくのあいだ、キスの応酬を繰り返すのだった。
キスを終え、少し冷静さを取り戻して照れているユークと、満足げな表情を浮かべるアウリン。
ふと気づけば、日は落ちてすっかり夜の色に染まっていた。
「えっと……その……俺たちって、もう恋人ってことで……いいんだよね?」
ユークは照れくさそうに頬をかきながら尋ねた。
「……そうね」
アウリンは真面目な顔つきで、小さくうなずいた。
「セリスたちには……何て言おうか……」
仲間たちの顔を思い浮かべながら、ユークがぽつりと呟く。
すると。
「それなんだけど――」
アウリンはユークの目をまっすぐに見て、凛とした声で続けた。
「セリスたちにこのことを打ち明けるタイミングとか内容は、すべて私に任せてくれないかしら……」
アウリンは、いつになく真剣な眼差しをユークに向けた。
その目は、いつもの快活な光をひそめ、何か覚悟を決めたかのように見えた。
「え……? 別に、いいけど……」
突然の申し出にユークは少し戸惑ったものの、反対する理由も見つからず、素直に頷いた。
しかし内心では、そこまで深刻に考えることなのか、と小さく首をかしげる。
「……ありがと。絶対、悪いようにはしないから」
ユークにはその一言が、やけに耳に残っていた。いったいどういう意味なのだろうか──。
二人は家に入り、1階へと向かう。
そこにはすでに、彼らを待つ人々の姿があった。
「……戻ったか」
最初に声をかけてきたのは、ジオードだった。
彼の、静かに落ち着いた声が室内に響く。
リビングには全員が揃っていた。
空気に少しの緊張と、そして別れの予感が漂っている。
「では、俺たちはこれで失礼する。世話になったな」
ジオードが立ち上がりながら、簡潔にそう告げる。
その動きに合わせて、ジルバとシリカも席を立った。
「皆様、本当にご迷惑をおかけしました」
ジルバがにこやかに頭を下げる。
「みなさん、これで失礼しますね!」
シリカは明るく手を振って笑った。
「もうちょっといてもらってもよかったのに〜……」
ヴィヴィアンが名残惜しそうに声を漏らす。
「じゃあね」
セリスは淡々と、しかし無駄のない口調で別れを告げた。
「え〜っと、ジオードさん。待たせてしまったみたいですみませんでした……」
ユークが少し気まずそうに頭を下げると、ジオードがゆっくりと近づいてきた。
「ユーク。貴様に、言っておきたいことがある」
「っ……!」
その声は威圧的ではないものの、どこか重みを帯びていた。
また何かされるのではないかと、ユークは無意識に身構える。
「お前っ!」
ジオードに近づかれたユークを守るため、セリスが槍を手に一歩踏み出そうとするが。
「は〜い、殿下も真面目モードみたいだから、い〜ったん落ち着きましょうね〜」
そんなセリスを後ろから抱きしめるようにして、セリスの動きを止める。
「むぐっ! んーんー……!」
口を押さえられながらも、もごもごと抵抗するセリス。
「アウリンを……妹を頼む」
ジオードはそう言って、深く頭を下げた。
「ほう……」
ジルバが意味深に目を細める。
「な、なにやってるんですか、殿下っ!?」
シリカが慌てて叫んだ。
だがジオードは顔を上げると、二人を見据える。
「王子としての俺が頭を下げるのは確かに問題かもしれん。だが今の俺は、ただのジオードだ。それならば問題なかろう?」
鋭い目でジルバとシリカに言い放つジオード。
「……分かりました。必ず、アウリンを幸せにします」
思わずそう口にしたユークは、自分でも驚いてしまう。
慌てて振り返ると、セリスがうつむいたまま、表情を見せようとしなかった。
「そうか。お前も……色々と苦労しそうだが、まあ頑張れ」
「……?」
ジオードは、ちらりとセリスに目を向けながら、意味ありげにそう言った。
「……アウリン。俺たちは《賢者の塔》を少しだけ見てから帰国する。これを今生の別れにするつもりはないが……元気でな」
ジオードは最後に、アウリンに別れの言葉を告げた。
「……はい。殿下も、お元気で……」
アウリンも静かに、しかししっかりと応じる。
ジオードは、寂しげに口角を上げると、片手を軽く挙げて玄関へと向かった。
そして玄関の扉に手をかけた、そのとき──
「……またねっ! お兄ちゃん!」
アウリンが思い切って、叫んだ。
その声に、ジオードの肩がぴくりと揺れる。
「くっ……ふふっ……フハハハハッ! ユークよ! ゴルド王国に来たときは、俺のところに寄るがいい! お前では想像もつかぬ歓待を見せてやろう!」
感情を爆発させたような大声と共に、満面の笑みを浮かべたジオードが振り返る。
「初めて会った時は、済まなかったな。また会おう」
そう言って、今度こそ扉の向こうへと姿を消した。
シリカが軽く頭を下げてから、静かに扉を閉める。
リビングの空気が、すぅっと静かに落ち着いていく。
ほんの少しの間だったが──いなくなってみると、どこか寂しさを感じてしまうユークだった。
「じゃあ、俺たちも……」
夕食にしようと声をかけようとしたユークだったが、その言葉は口に出ることなく止まる。
振り返ったその先——そこにいたセリスは、見たこともないほどの黒い雰囲気をまとっていた。
「……ねえ? どういうこと? 説明して??」
その低く、恐ろしく冷たい声に、ユークは思わず背筋を凍らせた──。
◆◆◆
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ユーク(LV.20)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
備考:何か分かんないけどヤバい。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
セリス(LV.20)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
備考:私のほうが先に好きだったのに。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
アウリン(LV.20)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
備考:覚悟は決めた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ヴィヴィアン(LV.20)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
備考:どうしようかしら……
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ジオード(LV.??)
性別:男
ジョブ:剣聖
スキル:??
備考:抗って見せろよ、ユーク。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ジルバ(LV.??)
性別:男
ジョブ:剣士
スキル:剣の才(剣の基本技術を習得し、剣の才能をわずかに向上させる)
備考:若者の成長は良いものですな。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
シリカ(LV.??)
性別:女
ジョブ:??
スキル:??
備考:国に報告しなくて良いのかなぁ……
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




