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第5話 思わぬ激闘


 賢者の塔ダンジョン、第八階層。


 薄暗い石造りの通路に、甲高い叫びが響き渡る。


「はぁぁぁぁっ!!」


 セリスが勢いよく槍を構え、ワーウルフに突撃した。疾風のような踏み込みと共に、彼女の槍がひらめく。


「セリス! いつもと違って一人なんだから、無茶しないでよ!」


 後方からユークが叫ぶ。しかし、セリスは「わかってる」と言いたげに片手を上げただけで、さらに踏み込んでいった。


 その姿に、ユークは大きく息を吐く。


「……ったく、相変わらず無茶するんだから」

 呆れながらも、彼は魔法の詠唱を開始する。


「《スパークライト》!」


 ユークが放った小さな閃光がワーウルフの顔面で炸裂した。突如視界を奪われた獣人は反射的に顔を背け、その隙を突いてセリスが鋭い一撃を繰り出す。


 セリスはワーウルフ二体を相手に奮戦していた。

 ワーウルフは二足歩行の狼型モンスターで、手は人間のように器用に動き武器を操る。さらに軽鎧を装備しており、防御力も侮れない。


 普段、彼らが狩場としている第九階層の敵と比べれば手強くはない。しかし、それでも単独で挑むには危険な相手だった。

 

 前のパーティーでは、前衛四人がかりで一体を倒すのに十五分はかかるほどの強敵。その理由は、ワーウルフの自己回復能力としぶとさにある。


 本来なら、セリスが二体を同時に相手取るなど無謀だった。しかし、偶然にもモンスターの配置が悪く、最初に一体と交戦しているところへ、もう一体が乱入してきたのだ。


 このままでは敗北必至だったが、ユークの支援がセリスを救っていた。


 スパークライトでワーウルフを怯ませ、攻撃を中断させる。さらに、小石を投げて別のワーウルフの視界を奪い、戦闘のペースを作る。

 そうした細かい支援の積み重ねにより、セリスは常に一対一の状況を維持できていた。


 そして、もう一人の仲間――アウリンの魔法もまた、戦況を大きく左右していた。


「《フレイムピラー》!」


 轟音と共に燃え上がる炎柱が、ワーウルフを包み込む。その一撃は確実に大ダメージを与え、戦況を優位にしていく。


 だが、何よりも重要な働きをしたのはセリスだった。


 彼女は絶妙な立ち回りでワーウルフの注意を引き続けていた。後衛のユークやアウリンに攻撃が向かないよう、巧みにヘイトをコントロールし攻撃を引き付ける。


 三人がそれぞれの役割を全うすることでようやくこのいつ崩壊してもおかしくないような危機的な状況で戦いを続けることが出来ていたのだ。


 そして――ついに。


 一体目のワーウルフが倒れ、光の粒子となって消えていく。


「やった……!」


 残るは一体。もはや勝敗は決したも同然だった。


 二体の時点で押されていたワーウルフは、孤立した途端、瞬く間に討伐される。


 ――ギリギリの死闘を潜り抜けた三人は、興奮気味にハイタッチを交わした。


「まさか五人パーティーの時より早く倒せるなんてな!」

「やったね!」

「誰も死ななくて本当に良かったわ……」


 ユークとセリスが感嘆する。しかし、アウリンの表情はどこか浮かないものだった。


「……ユーク、あなた魔法が使えたのね」


 ユークは気まずそうに目をそらし、ほほく。


「いや、えっと……その……。弱い魔法だから、本職のアウリンに見られるのが恥ずかしくてさ……」


「は?」

 アウリンの眉がピクリと動く。


「本来なら言っておくべきだった。ごめん」

 ユークは素直に謝罪したが、アウリンの表情は険しいままだった。


「スパークライトは弱い魔法じゃないわ」


「……え?」


 ユークが戸惑う。ならば、自分の実力が低いということなのか? 彼が落ち込みかけた瞬間――


 アウリンはため息混じりに言った。


「それは戦闘用の魔法じゃない、《《訓練用の魔法よ》》」


「えっ……?」


「そんなものを実戦で使うなんて、あなた正気なの!?」

 怒りをにじませた声が響く。


「ご、ごめん……」


 ユークが肩を落とすと、セリスが前に出た。


「ちょっと待ってよ! ユークはね、大金を払って流れの魔法使い様に何度も頭を下げて、ようやく教えてもらえたんだから!」


「なにそれ……」


 アウリンの怒りの矛先が変わった。


 確かに、魔法使いの中には強化術士を見下す者も多い。理由は単純だ。魔法使いが厳しい修練の果てに得る力を、強化術士はスキルという形で"与えられる"からだ。


 だが、戦闘用でない訓練魔法を、それと教えずに売りつけるなど最低の行為だ。


「……で、その金額っていくら?」


 ユークが恐る恐る答えると、アウリンの顔が引きつった。


「……は?」


 それは、ぼったくりどころではない法外な額だった。


 しかもユークは、それを支払うためにセリスから借金までしていたという。


「まあ、どうせ持っててもいつの間にか使っちゃうし、気にしてないけどね!」


 あっけらかんとしたセリスの言葉に、アウリンの怒りはさらに燃え上がる。


「……ダンジョンを出たら、その魔法使いには相応の罰と対価を支払ってもらうわ」


 彼女の声には、冷徹な決意と怒りが込められていた。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.11)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:前のPTで石ばかり投げていたおかげでいつの間にか石投げがプロ級の腕前に。

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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

セリス(LV.12)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:実はスキルとは別にナチュラルにバトルセンスが高い。

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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

アウリン(LV.15)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:10階のボスの討伐経験あり。

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