第44話 セリスVSジオード
「よしっ! 女、約束どおり稽古をつけてやる。庭に出ろ!」
そう言って、自分の武器を持って庭に出ていくジオード。
「わかった!」
セリスも同じく武器を手に取り、彼の後を追う。
庭に出たセリスとジオード。二人の武器の刃先には、しっかりと厚手の布が巻かれていた。
「いい? セリス。布が巻いてあるからって、絶対に怪我をしないわけじゃないの。ちょっとでも危ないと思ったら、ちゃんと棄権してね」
セリスに心配そうに声をかけるアウリン。
「うん、大丈夫」
武器の様子を確かめながら、セリスはアウリンに答えた。
「おーい、アウリン! お兄ちゃんのことも心配してくれていいんだぞ?」
ジオードが遠くから抗議の声を上げる。だが、アウリンは振り向きもせず、淡々とセリスに向けて続けた。
「殿下はあれで卓越した剣の達人よ。決して油断しないで!」
アウリンはセリスの目を真っ直ぐに見つめ、念を押す。
「わかった!」
セリスが力強く頷いた。
「お〜い!」
ジオードの声は、むなしく虚空へと消えていった。
「審判は私とヴィヴィアンが務めます。試合中は、審判の判断に必ず従うこと!」
アウリンとヴィヴィアンが、セリスとジオードの間に立って宣言する。
「では、始め!」
アウリンが開始を宣言し、二人から距離を取った。
「やあああああぁ!」
開始の合図と同時に、セリスがジオードに向かって突撃する。
「ふむ……」
ジオードはその全力の突きを軽くいなす。
「……なるほど。踏み込みは良い、狙いも悪くない。思い切りもある」
その後もセリスは攻撃を繰り出し続けるが、どれも軽く弾かれてしまう。
「だが……」
ジオードが初めて攻撃の構えを取る。
「動きが、素直すぎるな」
ジオードの一撃を受け、セリスは吹き飛ばされる。
「くっ……!」
かろうじて体勢を立て直すセリス。
「もう一回!」
彼女の瞳には、まだ諦めの色はなかった。
「ふっ、いいだろう。何度でも相手してやる」
ジオードがどこか楽しげに笑みを浮かべ、剣を構え直す。勝者の余裕がそこにはあった。
「セリス、大丈夫かな……」
庭の片隅で、その様子を見守っていたユークは、緊張した面持ちでつぶやいた。
その時、彼の隣に人影が腰を下ろす。
「少し、よろしいですか、ユーク殿」
静かな声に振り返ると、そこにはジルバの姿があった。
「あ、はい」
突然のことにユークは少し面食らいながらも、慌てて返事をする。
「大したものですな、セリス殿は……」
ジルバは視線を戦場に向けたまま、ゆったりとした口調で語り始めた。
「そう……ですか? 殿下にやられっぱなしのように見えるんですけど……」
ユークはセリスが転がされる場面を思い出し、首をかしげる。
「ユーク殿は、ジョブが与えられる条件をご存じですか?」
視線を動かさぬまま、ジルバが問いかける。
「えっ? たしか……十歳までにした行動と、才能、だったと思いますけど」
アウリンに聞いた知識を思い返しながら、ユークは答えた。
「なるほど。よく勉強されているようだ。しかし……一般には知られていないもう一つの要素があるのですよ」
ジルバの声は穏やかだが、その言葉には重みがあった。
「もう一つの……要素?」
ユークは聞いたことのない話に驚いた
「はい。もう一つの要素とは――血筋です」
落ち着いた口調で、ジルバは話を続けた。
「上級剣士や騎士など、“上位ジョブ”と呼ばれる職業は、どれほどの才能を持っていても、血筋という条件を満たさなければ決して得ることはできません」
淡々と語り続けるジルバ。
「そして、王家の血筋に受け継がれているのは“剣士系の上級ジョブ”。ジオード様は、まさにその血の結晶といえるでしょうな」
「剣士系のジョブ……? あれ……?」
ユークは小さく呟きながら、ある違和感に気づいた。
アウリンのジョブは剣士系ではない。では、王家の血を引いているという話は――
(王家の血筋に宿る才能が剣士系のジョブだとすれば、アウリンは……?)
思考が深く沈んでいきそうになる。その瞬間だった。
「ユーク殿!」
ジルバの鋭い声が、思考の霧を断ち切った。
「っは、はい!」
慌てて姿勢を正すユーク。
ジルバはようやくユークの方を見て、真剣な眼差しで言った。
「アウリン殿は、確かに王家の血筋を引いておられます。それは間違いありません」
「それって……」
ユークの声が震える。だが、ジルバは静かにうなずいた。
「王家の者は、代々“赤い髪”を特徴としております。しかし、アウリン殿の母君は――彼女と同じ、“青い髪”をしておられました」
「青い髪……」
ユークは、アウリンの笑顔を思い浮かべる。
「ジオード様は、アウリン殿を“家族”として認めておられます。しかし……他の方々がそうかと言えば、残念ながらそうではありません」
「アウリン……」
その立場を思うと、胸が痛んだ。知らず、手が握りしめられていた。
ふと視線を模擬戦に向けると、セリスが肩で息をしていた。槍を杖のように地面に突き、息を整えている。
「はぁ、はぁ……っ」
だが、妙なことに気づいた。対面するジオードの額にも、同じように汗がにじんでいたのだ。
「……まて。お前、なんかさっきより強くなってないか?」
「まだっ! まだ!」
セリスの戦意は、まったく衰えていないようだ。
「くそっ、早まったか!」
文句を言いながらも、律儀にセリスの相手をするジオード。
その様子を眺めながら、ジルバはぽつりと呟いた。
「アウリン殿がヴィヴィアン以外の者と共に暮らしていると聞いたときは、耳を疑いましたよ」
「え?」
ユークは驚いて聞き返す。
「ユーク殿。あなたは間違いなく、アウリン殿から信頼されています。自信を持って下さい」
「俺が……信頼されてる……?」
その言葉の重みに、ユークは目を見開いた。
「どうか、少しだけ待っていただけませんか? 彼女も、おそらく“恐れているだけ”なのです」
そう言って、ジルバはユークの目をまっすぐに見つめる。
「……ええ、もちろん。アウリンは、俺にとって大切な仲間ですから」
ジルバに負けない眼差しで見返すユーク。
「ふふふ。……これは、おせっかいでしたかな」
ジルバは表情を崩し、いつもの好々爺の顔に戻る。
「いえ、アウリンのことを気にかけてくれて、ありがとうございます」
ユークの声も、どこか柔らかくなっていた。
そのとき、ジルバが目を細めて言った。
「おやおや……模擬戦の風向きが、どうやら変わってきたようですよ」
再び視線を向けると、ジオードが膝をついていた。手を抑え、汗だくになっている。
「くっそ……まさか、お前もあの爺と同類か! なんで俺の周りはこんなんばっかなんだよ!」
どこか情けない声でぼやくジオード。
そしてその前に、無言で歩を進めるセリスがいた。槍を手に、まるで処刑人のような気配を放っている。
「まっ、待て! 俺はいま武器を失ってるんだぞ!」
慌てて弁明するジオード。
「……私、ユークを痛くしたこと、忘れてないから」
セリスは冷たい目でジオードを見下ろし、どんよりとしたオーラをまとっている。
「し、審判! しんぱーん!!」
焦った声でアウリンに助けを求めるジオード。
だが、アウリンは親指を首にあてるポーズをしながら、冷たい笑みを浮かべて言った。
「やっちゃっていいわよ、セリス」
その声に続いて、ヴィヴィアンが涼しい顔で言い放つ。
「続行よ〜」
模擬戦の続行が、無慈悲に告げられた。
「くそっ! 審判まで敵か! 味方がいないっ!」
絶望し、吐き捨てるジオード。
「じゃ、やるね?」
「やっ、やめっ……ぎゃあああああああ!」
セリスにボコボコにされるジオード。
それを見て、ユークが小声でジルバに尋ねた。
「あれ……止めなくていいんですか?」
「セリス殿も、やりすぎるつもりはないようですし。これもいい機会です。殿下は、最近調子に乗っておられましたから」
ジルバは鋭い視線をジオードに向けながら、静かに言い放った。
「うわぁ……」
ユークは思わず声を漏らした。
(……貴族様も、大変なんだな)
そう思いながら、ユークとジルバは静かに、ジオードがボコボコにされる光景を見守っていた。
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ユーク(LV.20)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
備考:信頼されていなかったわけじゃ無いんだな、と思えた。
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セリス(LV.20)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
備考:やっとボコボコにできる!
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アウリン(LV.20)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
備考:少し悪ノリが過ぎたかも。
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ヴィヴィアン(LV.20)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
備考:何だか面白いことになってるわね。
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ジオード(LV.??)
性別:男
ジョブ:剣聖
スキル:??
備考:ほんの少し油断しただけだ! 本気であればあんな小娘に……
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ジルバ(LV.??)
性別:男
ジョブ:剣士
スキル:剣の才(剣の基本技術を習得し、剣の才能をわずかに向上させる)
備考:相手を甘く見るのが悪い。
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シリカ(LV.??)
性別:女
ジョブ:??
スキル:??
備考:……眠い。
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