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第43話 『剣聖』


「違うわ!」

「そのとおりだ!」

 アウリンとジオードの声が、同時に部屋に響き渡る。


「えっと……」

 ユークは困ったように目を泳がせ、隣に立つジルバへ助けを求めるように視線を送った。


「色々あるのですよ。その件については、アウリン殿から直接お聞きください。私が説明して良いことではありませんので」

 ジルバは穏やかな口調でそう告げると、それ以上は語らず、口をつぐんだ。


「ユーク。今まで黙ってて……ごめん。ちゃんと話すから。だから……今は、少しだけ時間をちょうだい」

 アウリンは申し訳なさそうに視線を伏せ、(しぼ)り出すように言う。


「うん、わかった。無理にじゃなくていい。話したくなったときで構わないよ」

 ユークは優しく頷き、彼女の心に寄り添うように答えた。


「ありがとう……」

 アウリンが小さく礼を言うと、テーブルの空気がシンとなる。


 そんな静けさを破ったのは、セリスだった。

「でも、なんで王子様がこんなところにいるの? 王子様って、お城で兵士の人たちに守られてるんじゃないの?」


 セリスは首を傾げながら、不思議そうに問いかける。


「ああ、それはですね……」

 ジルバが返答しようとしたそのとき。


「ふっ! よくぞ聞いてくれた! それはな、この俺が特別だからだ!」

 ジオードは胸を張り、どこか芝居がかった動きでポーズを取る。


「特別?」

 セリスが首をかしげた。


「そうだ! この俺のジョブは、近接系の中でも最強と称される『剣聖』なのだからな!」


「剣……聖?」

 聞き慣れないジョブに、ユークは思わず目を丸くする。


「それって、強いの?」

 セリスは特に気にした様子もなく、素直(すなお)に聞き返した。


「ああっ! もちろん……」

 ジオードが自信たっぷりに答えようとしたその時。


「そうですねえ。ジョブが『剣士』である私に、一撃も入れられない程度には、強いのでしょうな」

 ジルバが静かに言葉を挟んだ。


「え……? 弱い……?」

 セリスが怪訝(けげん)そうに首を傾げる。


「ち、違うっ! 勘違いするな! 俺が弱いんじゃない! (じい)がバケモノなだけだ!」

 ジオードは絶叫するように言い放つ。視線が一斉にジルバへ向いた。


「コイツはな、平民の出ながら爵位(しゃくい)を得て、王家の指南役(しなんやく)にまで登りつめた怪物なんだぞ! そんなヤツと俺を比べるな!」


 ジルバは、静かに微笑んでいる。


「そうだな、そこのお前!」

 ジオードはセリスを指さしながら叫ぶ。


「今からこの俺が直々に稽古(けいこ)をつけてやる! その身で俺の強さを思い知るがいい! フハハハハハハハハハッ!」

 そう言って高笑いするジオード。


「ちょっと!」

 アウリンが慌てて立ち上がる。


「わかった!」

 だがセリスは笑顔で即答した。


「よしっ! ならば今すぐ――」

 意気込んで立ち上がったジオードを、ジルバが冷静に制止する。


「坊っちゃん。ここへ来た本来の目的を、お忘れではありませんか?」


「えっ? アウリンに会いに来たんじゃないの?」

 セリスが小首を傾げ、不思議そうな表情を浮かべた。


「そのとおりだ! ……が、目的はそれだけではなくてな」

 ジオードは笑いながらセリスの言葉を肯定するが、急に真剣な表情に変わる。


「アウリン!」

 姿勢を正したジオードが、今までとは打って変わった高圧的な口調でアウリンを呼ぶ。


「っ! はい、殿下!」

 アウリンも緊張した面持ちで姿勢を正し、きちんと答える。


「ヴォルフ師が姿を消した。なにか、思い当たることはないか?」

 ジオードが問いかけると、アウリンとヴィヴィアンが驚きの表情を浮かべた。


「師匠が!?」

「おじいちゃんが!?」


 ヴィヴィアンの言葉に、今度はユークとセリスが反応する。

「「おじいちゃん!?」」


「あっ……それも話してなかったわね。前に話した私の師匠(注1)は、ヴィヴィアンの祖父(そふ)なのよ」


 アウリンが気まずそうに視線を()らす。


「なんだ、何も知らされていなかったのか」

 ジオードの辛辣(しんらつ)な一言に、ユークの胸がチクリと痛んだ。


「殿下!」

 アウリンが責めるように声を上げる。


「すまん、言いすぎた」

 ジオードは軽く首を振り、すぐに口を閉ざした。


「お二人の様子からすると、本当に何も聞かされていなかったようですな」

 ジルバが小さくため息をつく。


「ヴォルフ師のもとにいたとき、何か気になることはなかったか? どんな些細(ささい)なことでも構わん」

 何かを思案しながら、ジオードがふたりに問いかける。


 アウリンは首を横に振った。

「ごめんなさい。特に思い当たることはないわ」


 ヴィヴィアンも申し訳なさそうに口を開く。

「私も……何も」


「ふむ……アウリンたちが知らないとなると、自ら姿を隠した線は薄いか。しかし……」

 ジオードは腕を組み、考え込む。


「そもそも、ここに来るように言ってきたのが師匠なのに……何やってるのよ……」

 アウリンが大きくため息をつき、愚痴をこぼした。


「なにっ!」

 ジオードが驚きの声を上げる。


「私も、アウリンちゃんについていくように、おじいちゃんに言われてついてきたのよ〜」

 ヴィヴィアンも経緯(けいい)を補足する。


 その様子を見て、ジオードはしばし沈黙し、やがて目を閉じて小さくうなずいた。

「……そうか。わかった。これ以上の情報はもう得られそうには無いな。仕方がない、今はこれで良しとしよう」


 そして、急に声の調子を変えてジルバの方に振り返る。


(じい)! これでここでの仕事は終わりでいいな?」


 ジルバはため息をつきながら、無言でうなずいた。


 その様子を了承と受け取ったジオードは、すぐさまセリスの方を向く。


「よしっ! 女、約束どおり稽古(けいこ)をつけてやる。庭に出ろ!」

 そう言い放つと、自らの武器を手にして庭へと向かっていった。


「わかった!」

 セリスもまた愛用の槍を手に取り、庭へと向かう。


 こうして、戦いの鐘は静かに鳴った。



注1:アウリンの師匠は第3話「初戦闘」のダンジョン解説、第11話「努力の価値」の会話の中に登場。


 ◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.20)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:いろいろ黙っていられたのは、けっこうショック。

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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

セリス(LV.20)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:摸擬戦の名目でぶん殴ってやる!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

アウリン(LV.20)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:あの人実力だけは本物だからセリスが心配。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ヴィヴィアン(LV.20)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

備考:アウリンと一緒に行く代わりに祖父が大切にしていた盾をぶんどっていった女。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ジオード(LV.??)

性別:男

ジョブ:剣聖

スキル:??

備考:現在、王家唯一の剣聖持ち。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ジルバ(LV.??)

性別:男

ジョブ:剣士

スキル:剣の才(剣の基本技術を習得し、剣の才能をわずかに向上させる)

備考:農夫の息子から王国最強の剣士にまで成り上がった男。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

シリカ(LV.??)

性別:女

ジョブ:??

スキル:??

備考:王宮のメイドなのでそれなりのランクの貴族の三女。

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