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第39話 ヴィヴィアンの盾


 ユークたちは《賢者の塔》の十四階で試練を終えると、そのまま十五階へと進んだ。


「うわぁ……」


 先頭にいたセリスが、露骨ろこつに眉をひそめて声をらす。


「十五階の敵はリザードマン。階全体が水に浸かってるって……本で読んだことあるけど、これはちょっと……」

 アウリンが肩をすくめながら説明を添える。


「思った以上に大変そうね〜」

 ヴィヴィアンは手を頬に当て、大きくため息をついた。


「ぼやいても仕方ないよ……。行こう!」

 ユークが一歩踏み出し、水の中へと躊躇ちゅうちょなく進む。


「冷たっ!」

 腰の辺りまで水に浸かった瞬間、彼は目を丸くした。


「しかも、すごく動きづらい!」


 水の抵抗が全身を押し返すようにまとわりつく。足を踏み出すたびに、体の自由が奪われていくようだった。


「さあ、来て! 速く終わらせよう!」


 水に入るのをためらう三人の少女たちを、ユークは軽くあおるように呼びかける。十五階の探索は、開始早々から出鼻をくじかれた形になった。


 彼らが水に浸かりながらダンジョンを進み始めてしばらくした頃――


「何か来る!」

 セリスが顔を上げ、緊張の声をあげる。


「でも、なんかおかしい……それに、速い!」


 いつもと違う気配に、セリスは戸惑いながらも警戒を強める。


 その瞬間、水面の奥から激しい水しぶきが立ち上がった。


「まさか……!」

 アウリンが目を見開く。


 水面に一瞬だけ浮かび上がったのは、魚のような頭部。だがすぐに水中へと姿を消す。


「アイツ、水の中を泳いでる!」

 セリスが叫ぶ。


 リザードマンは、地上を歩くのではなく水中を高速で泳ぎながら接近していた。


 そのスピードは、十四階でのケンタウロスほどではないにせよ、こちらの動きが鈍る水の中では厄介極まりない存在だった。


「ここじゃ、いつものように庇えるかどうか分からないわよ!」

 ヴィヴィアンが必死に前へ出て、盾を構える。


 しかし、その直後――


「《アイスニードル》!」


 ユークの詠唱とともに、透明な氷の槍が水底から突き出した。鋭い氷が水中を泳ぐリザードマンを貫き、その身体を水上に押し上げる。


「……え?」

 ヴィヴィアンがぽかんとした声をらした。


「いや、その……下から魔法撃ったらどうなるか試してみたかっただけなんだけど……」

 ユークが肩をすくめ、バツが悪そうにしている。


「ま、まあ……楽に突破できそうなのは助かるわね!」

 アウリンが気まずさを隠すように口を開く。


 どうやらリザードマンは、水底からの攻撃には対応していなかったらしく、思いのほかあっさりと次の階への階段にたどり着くことができた。


「どうする? このまま次も行ってみる?」

 階段を踏みしめて次の階をポータルに登録しながら、ユークが皆に問いかけた。


「まだ余裕はあるし、進んでも良いと思うわ」


「私はいいよ!」


「私も大丈夫よ〜」


 三人が頷いたことで、ユークたちは十六階へと足を踏み入れる。


 その瞬間――


「暑っつ!」

 ユークが声を上げた。


「うわ……何これ……」

 アウリンが額の汗をぬぐいながら顔をしかめる。


「ヴィヴィアン、大丈夫?」


「ううん、まだ平気だけど……これ以上はさすがにキツイわ〜」


 十六階は、入口の時点で既に体温が上昇するほどの熱気に満ちていた。


「ここの敵はヘルハウンド。炎を吐くモンスターだって聞いたけど……これはちょっと予想以上ね」

 アウリンが息苦しそうに言った。


「一旦戻ろう。十五階で水を浴びて服を冷やそう」


 ユークの提案で、彼らは十五階へと引き返し、水を頭から浴びた。


「う〜、気持ち悪い……」


「我慢しなさい。ヴィヴィアンが一番辛つらいんだから!」

 アウリンがぴしゃりと言い放つ。


「うぅ……布が水を吸って、すごく重いわ〜」


 鎧をまとうヴィヴィアンは、鎧と体の間に詰め込んだ布が水を吸い、ずっしりと体にのしかかっていた。


「大丈夫? 無理しないで、一度戻っても……」

 ユークが心配そうに尋ねる。


「大丈夫よ。前の鎧と同じくらいの重さに戻っただけだもの」

 ヴィヴィアンは微笑み、安心させるように言った。


「そっか……。よし、じゃあ進もう!」


 ユークたちは再び十六階に挑み、汗を流しながらも前へと進んでいく。


「敵っ!」

 セリスの鋭い声が響いた。


 姿を現したのは、黒く光る毛並みを持つ大型の獣――ヘルハウンド。


 地を蹴って駆け寄ってきたそれは、一定の距離まで迫るとぴたりと止まり、口を大きく開いた。


 次の瞬間、炎の塊が空中を駆ける。


「任せて!」


 ヴィヴィアンが一歩前へ出る。火球が彼女の盾に当たったその瞬間、炎はきりのように消え去った。


「そんなの、効かないわよ!」


 驚いたように身を引いたヘルハウンドを狙って、ユークとアウリンが同時に魔法を放つ。


「《アイスボルト》!」


「《アイスアロー》!」


 冷気を帯びた魔法が直撃し、動きが鈍ったところへ――


「やあっ!」

 セリスが跳びかかり、鋭い槍がとどめを刺す。


 ヘルハウンドはあっけなく消滅した。


「ふふっ。本来一番対策が必要なヘルハウンドの火球攻撃が効かないと本当に楽ね♪」


 アウリンが口元に笑みを浮かべる。


「前から聞いてはいたけど……本当にすごいね、その盾って」


 ユークが感心したようにヴィヴィアンの盾を見つめる。


「うふふ、当然でしょ。これはおじいちゃんから貰った大切な盾なんだから~」


 彼女は誇らしげに盾を見せる。その表面は美しい装飾に彩られていた。


「この盾は“アンチマジックメタル”で作られてるの。大抵の攻撃じゃ傷一つつかないし、魔法だって完全に無効化できるのよ!」


 普段はおっとりしているヴィヴィアンだが、この時ばかりは得意げに語った。


「今まで魔法系の攻撃をしてくるモンスターが出てこなかったから……この子の本当の力、ずっと見せる機会がなかったの。でも、ようやくお披露目できて嬉しいわ~」


「うわぁ……」


 無効化という言葉のインパクトに、魔法が主な攻撃手段である自分の立場を思わず意識してしまう。


 もしこの金属で全身を覆った敵が現れたら、自分の攻撃はまったく通用しないかもしれない――そんな不安が胸をよぎった。


「気持ちは分かるけど安心して。この金属は鎧には向かないから、アンチマジックメタルのフルプレートなんてありえないわよ」


 その何気ない一言に、ユークは安心したようにふっと息を吐いた。


「そっか……」


 そのまま一行は探索を再開した。だが、火球による攻撃を封殺されたヘルハウンドはまるで相手にならない。


「よしっ! この調子でどんどん進んで行こう!」


 ユークの声に、仲間たちは力強く頷いた。


 ◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.20)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:そうは言っても対策自体は何か考えておかないと……

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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

セリス(LV.20)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:下着までびちょびちょで最悪。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

アウリン(LV.20)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:十六階は得意な炎熱系魔法が効きにくいから苦手。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ヴィヴィアン(LV.20)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

備考:水に浸かりながらのタンクをしなくてすんで本当に良かった。

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