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第35話 莫大な報酬


治療院、アズリアの病室


 アズリアの病室には、初老の男性がひとり静かに足を踏み入れていた。


 彼は緑色の髪を短く整え、口元には整えられた髭をたくわえている。

 灰色のスーツの下に隠されたその体には、年齢を感じさせぬほどの鍛錬の跡がにじんでいた。


「今回のことは……本当に、残念だったな。アズリア君」

 低く、穏やかな声が室内に響く。


 ベッドに横たわっていたアズリアは、視線を上げることなく、その声に応じた。


「……ラルド所長。私のせいです。私の判断が……ジェットを……」


 震える声で言葉をぐアズリアの瞳には、深い後悔と自責の色がにじんでいた。


「君の責任ではないよ。これは誰にも予測できなかったことだ。」


 ラルドは静かにそう告げ、彼女の心に寄り添(よりそ)うようなまなざしを向けた。


 しかし、アズリアはラルドのなぐさめを受け入れず、唇を固く結ぶ。


「……何かわかったことは、あるんですか?」


 感情を押し殺した声音こわねだった。ラルドは少しの間だけ黙り込んだあと、うなずいて口を開いた。


「君の現場以外でも、同じようなことがいくつか発生していた。どこも《賢者の塔》では出現しないモンスターばかりだ。君の場所ほどのものは出現しなかったがそれでもかなりの被害を受けた」


「……そんな……」

 アズリアは声を失い、毛布を握る指に力が入る。


「出現したモンスターはどれも、物理攻撃への極端な耐性を持っていた。そして、変身していた者たちは──倒されたあと、人間の姿に戻っている。現在、調査班が調べているが……どうやら肉体には、魔道具化の痕跡こんせきがあったらしい」


「ま……魔道具化? それって……人間を、ですか……?」

 アズリアの声が震えた。


「その通りだ」

 ラルドは淡々と答えたが、その言葉の重みは異常な現実を物語っていた。


「で、でも……そんなこと、本当に……可能なんですか?」


「……不可能だ。少なくとも理論上は。過去の実験でも証明されている。だが……」


 ラルドは言葉を切り、壁を見つめる。


「何かが、起きている。この街で。敵の目的も、正体も……全くなにも分かっていない」


 アズリアは目を伏せたまま、唇をかみしめた。


「アズリア君。治り次第、君にも動いてもらう」


「……はい」

 その返事は、震えながらもどこか決意のこもった声だった。




自宅・リビング


「退院おめでとう〜!!」


 部屋中に明るい声が響きわたる。ユーク、セリス、アウリンの三人が、揃って手を上げてヴィヴィアンを出迎えていた。


 現在、自宅のリビングでは、ヴィヴィアンの退院を祝うちょっとしたパーティーが開かれていた。


「ありがとう〜。これで、ようやく病院食とお別れできるわ〜」


 そう言って、ヴィヴィアンは涙を浮かべながら笑った。その表情からは、病院生活のつらさがにじみ出ていた。


「とにかく、無事に戻ってこられてよかったよ……後遺症とかも無いみたいだしさ」

 ユークが安堵したように言葉をかける。


「そうね……でも、鎧はもうダメみたい。修理するより買い換えた方がいいって言われちゃったわ」

 ヴィヴィアンが少し寂しそうに肩をすくめる。


「まぁ、10階層の頃からずっと使ってたから……」

 自身の槍の件を思い出してか、セリスが気まずそうに言葉をかけた。


「ふふっ、セリスにそう言われちゃったらお終いねっ!」

 アウリンが笑いながら茶化すと、セリスはむぅと唇を尖らせて、何も言い返せずに黙ってしまった。


「さあ座って! 料理をたくさん用意したんだから!」

 ユークが雰囲気を変えるように声を張り上げると、ヴィヴィアンの目がぱっと輝いた。


「わぁ……!」

 テーブルには街中を駆け回って集めた、さまざまな料理がずらりと並んでいた。


「それに、お風呂もちゃんと沸かしておいたよ! 頑張って、井戸から水くんできたんだから!」

 セリスが胸を張って言う。


 この家の風呂は広いのはいいが、その分、必要な水の量も多く。

 準備の為、庭にある井戸との往復に時間がかかってしまっていた。

 そのため。面倒になり公衆浴場に行くこともそれなりに多かった。


「もう……至れり尽くせりね〜。最高のお祝いだわ〜」

 ヴィヴィアンが心から嬉しそうに笑い、その場がさらに温かな空気に包まれた。


 こうして、楽しい食事会が幕を開けた。




「もう食べられないわ〜……」


 食後、椅子の背もたれに体重を預けながら、ヴィヴィアンが満足そうにお腹をさすっている。


 そのときだった。


 ドアをノックする音が、静かに響いた。


「……誰か来た?」

 ユークが耳を澄ませながらつぶやく。


「あっ、そうだ! パーティーメンバー全員に話があるから、今日来るって言ってたんだわ!」


 アウリンが思い出したように声を上げると、すぐさま玄関に向かった。

「今行きまーす!」


 扉を開けた先にいたのは、一人の若い女性だった。


 深い緑の長髪を丁寧に整え、きっちりとしたスーツを着こなしている。スカートは短めだが、どこか清潔感と知性を感じさせる姿だった。


「申し訳ありません。お祝いの最中でしたか?」


 礼儀正しく頭を下げる彼女に、ユークがすぐに応じる。


「いえ、大丈夫です。ちょうど終わったところなので」


「それは良かったです。改めまして──私は探索者ギルドのセラフィと申します」

 女性は微笑みを浮かべながら名乗った。


「こちらこそ、よろしくお願いします」

 ユークたちも立ち上がって丁寧に挨拶を返す。


「まずは、こちらを」

 そう言って、セラフィが差し出したのは、ずっしりと重そうな袋だった。


 ユークが恐る恐る袋を開けると、中には大量の金貨がぎっしりと詰まっていた。


「うわあ……」

「すごい……」

 驚きと感嘆の声が上がる。


「あの、これは……?」

 ユークが戸惑いながら尋ねると、セラフィは静かに答えた。


「はい。今回の依頼に対する報酬となります」


「こ、こんなに……!?」


 思わず声を上げたユークに、セラフィは淡々とした口調で続けた。


「ギルドガードだけでは抑えきれなかったほどの相手でした。あなた方がいなければ、被害はもっと広がっていたでしょう。これは、正当な報酬です」

 淡々と続けるセラフィ。


「良かった、これで新しい鎧を買えそうだわ~」

 報酬の入った袋を見てヴィヴィアンの顔がぱっと明るくなる。


 その様子を見たユークが、どこか穏やかな声で続けた。


「うん、ヴィヴィアンの鎧がいくらするか分からないから。まずはそれを新調してから、残りをみんなで分けようか」


「えっ、いいの? 私の分で買おうと思ってたのに……」


 ヴィヴィアンは首をかしげ、少し申し訳なさそうにユークを見つめる。


 しかし、ユークは軽く笑って首を振った。


「パーティーでの戦闘で壊れたものだし。パーティーの資金で修理しようってみんなで決めてたんだ」

 その言葉に、アウリンとセリスが同時にうなずく。


「ありがとう、みんな……本当に、いい仲間をもったわ~」


 その温かいやりとりを見守っていたセラフィが、ふいに口を開いた。


「ちなみに、ヴィヴィアン様の鎧の代金については、報酬とは別にギルドでご用意させていただきます」


「えぇっ!?」

 その場にいた全員が、思わず声を上げてしまう。


 セラフィはそんな驚きにも動じず、静かに言葉を継いだ。


「他の皆様の装備に関しても、今回の戦闘で負った修理の費用に関してはすべてギルドが負担いたします。報酬とは別枠で支払いますので、ご安心ください」


 まるで用意された原稿を読み上げているかのように、淡々とした口調。


 ユークは目を瞬かせながら、思わず疑問を口にした。

「……そこまでしてくれる理由って、何なんですか?」


「ユーク様たちのように、格上の敵と真正面から渡り合えるパーティーは、現状そう多くはありません。ですので――ギルドとしては、今のうちに関係を築いておきたいのです。できれば、良好な形で」


「……?」

 ユークは小さく首をかしげた。まさか自分たちが、ギルドにとってそこまでの存在になっているとは思っていなかったからだ。


 その様子を見て、セラフィはわずかに目を細め、やわらかな声で言葉を重ねた。


「今後。ギルドから直接、依頼をお願いすることがあると思います。そのときの窓口は、私が担当させていただく予定です」


 そして、彼女は深々と頭を下げた。

「どうか、今後ともよろしくお願いいたします」


 その一連の動きに、ユークだけでなく、傍らにいた仲間たち――セリスやアウリンも、自然と息を飲んだ。


 まさか自分たちが、ギルドの“協力パーティー”として見られているなど、これまで想像すらしたことがなかった。


「なんか……すごいことになっちゃったな」

 ぽつりと漏れたユークの言葉は、誰に向けるでもなく宙に漂った。


 その声に応えるように、セラフィが顔を上げ、しっかりとユークの目を見据える。


「それだけ、今回のことでギルドから信頼された、ということですよ」

 穏やかな微笑みとともに、セラフィはそう言い切る。


 突然の展開に、戸惑いながらも、ユークの胸にはじんわりとした誇らしさが広がっていった。


 自分たちは、確かに認められている。あの日追放された自分が――今、誰かに期待されている。


 その事実が、何よりも温かかった。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.20)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:誰かに必要とされたい、認められたい。彼の追放された時の心の傷は深い。

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セリス(LV.20)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:もっと強くならなければ。

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アウリン(LV.20)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:炎耐性を持つモンスターへの対策の必要性を痛感した。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ヴィヴィアン(LV.20)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

備考:もっと良い鎧を用意しなきゃ。

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アズリア(LV.30)

性別:女

ジョブ:剣士

スキル:剣の才(剣の才能をわずかに向上させる)

スキル2:≪ストライクエッジ≫

備考:部下を一人失い、もう一人も治るには時間がかかる。

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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ラルド(LV.??)

性別:男

ジョブ:??

スキル:??

備考:ギルドガードのトップ。

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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

セラフィ(LV.??)

性別:女

ジョブ:??

スキル:??

備考:実はかなりのエリートの女性。

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