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閑話 EXスキル


 ひと通りの自己紹介が終わったところで、ユークの視線がふと一点に止まった。


 肩に二本の剣を背負った、筋肉質の男──ジェット。


「……双剣士って、ちょっと珍しいですね」

 ユークは興味を隠しきれず、自然とその言葉が漏れた。


「お? 派生ジョブを見るのは初めてか?」

 ジェットが片眉を上げ、口元に楽しげな笑みを浮かべながら返す。


「いえ……前のパーティーに、大剣士と盾剣士がいたので。それと似た感じなのかなって」

 ユークは過去の仲間について、淡々とした口調で語った。

 声には特別な感情は込められていなかったが、その裏にある想いは隠しようがなかった。


「へえ、そりゃまた珍しいな。派生ジョブがそこまで揃うパーティーなんて、そうそう見かけねえぞ。普通は剣士になるはずだからな」


 ジェットは驚いたように目を細めながら、素直に感心した様子を見せた。


 そのやりとりを聞いていたアウリンが、ふと隣にいた男に視線を向ける。


「……トルマさんのジョブって剣士なんですか?」


 彼女の目は、トルマの手に握られた武器──1本の槍に向けられていた。


「言いたいことは分かるよ。これが気になるんだろ?」

 トルマは口元を少し歪めると、手にした槍を軽く持ち上げた。


「小さい頃から槍ばっか振っててさ。十歳のときにジョブが剣士に決まった時も、俺はそれを信じなかった。努力ってのは、簡単には裏切れないもんさ」


 そう語る声には、どこか遠くを見るような響きがあった。


「で、それから20年、結果は……見ての通りだよ。剣士で槍を握ったって、才能が無かったんだろうな……ジョブに合った武器を選べってのは、理にかなってるわけだ」


 トルマが後悔を滲ませる声で続けた。


「はぁ……今さら剣を一から学ぶなんて無理だろうしな。あの時、素直に剣を取ってれば俺も今頃はなぁ……」


 トルマは、小さくため息をついた。

 その声には、今もなお拭いきれない未練と、自嘲じちょうのような感情がにじんでいた。


 トルマが小さくため息をついた、その直後だった。


 少し離れた場所にいたセリスが、手にしていた探索者カードを見つめながら小さく眉をひそめた。


「ん……? あれ……?」


 カードに刻まれた何かに気づいたのだろう。彼女は小さく唸ると、じっと見つめたまま首を傾げた。


「どうしたの、セリス?」

 すぐそばにいたユークが声をかける。


「私のと、なんか違ってて……これ……スキルの欄、見て」


 差し出されたカードをユークが覗き込む。すると、確かに見慣れない文字列が刻まれていた。


「……アズリアさん。この『ストライクエッジ』ってスキル……普通のやつじゃないですよね?」


 そう問いかけたユークに、アズリアは軽く頷いた。


「ああ、それはエクストラスキルのひとつだ。知らなかったか?」


 アズリアは特に驚く様子もなく、落ち着いた声で答える。


「レベルが三十になると、ジョブに応じて新しい能力が解放されるんだ。ほとんどの場合は、今まで持っていたスキルの数値がちょっと上がるくらいなんだが……稀に、まったく新しいスキルが目覚めることがある。それがエクストラスキルだ」


「新しいスキルが……」

 ユークは純粋な驚きとともに、その言葉を繰り返す。


 セリスもカードに視線を戻しながら、呟くように言った。

「そんな力、あるんだ……」


 アズリアは微笑を浮かべながら、自分のスキルについてさらに説明を加える。


「『ストライクエッジ』は、体内の魔力を利用して斬撃を放つスキルだ。回数はそう多く使えないが、そのぶん一撃の威力は抜群だよ。下手をすれば、一撃で戦況を覆すこともできる」


「すごい……」

 セリスの唇から、感嘆の声が漏れた。


 その瞳には、アズリアへの憧れの光が宿っていた。自分も、いつかああなれるのだろうか――そんな希望が、ほんの少しだけ彼女の胸に灯った。

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