第32話 簡単で、報酬もいい仕事
決行当日の朝。
住宅地にある空き家の一室に、ユークたちの姿があった。
「ここで合ってるよな……」
ユークはそわそわしながら、誰にともなく呟いた。
「合ってるわよ、いいから落ち着きなさい」
アウリンが小さく肩をすくめながら、少し呆れた様子で返す。
「うふふ、ユーク君ってば、初々しくてかわいいわね。こういうの、初めてだったりする?」
ヴィヴィアンは頬をほんのり染めて微笑んだ。
「ユークには、私がついてるから大丈夫だよ」
そう言いながら、セリスは愛用の槍を油が染みた布で丁寧に拭っていた。
その時、不意にドアが叩かれる。
全員が動きを止めた。
「私だ。入るぞ」
ドア越しに落ち着いた声が響き、それと同時に扉が静かに開かれる。
現れたのは、長身の女性──アズリアだった。
その背後には、無言で立つ二人の部下の姿もあった。
ユークたちはすぐに警戒を解き、構えていた武器を静かに下ろす。
とりわけユークは、目に見えて肩から力が抜けた。どうやら、かなり緊張していたらしい。
「今日は……よろしくお願いします、アズリアさん」
彼が礼を述べると、アズリアは無言で小さく頷いた。
「こちらこそ。では、まずステータスの確認から始めようか」
アズリアの落ち着いた声が室内に響く。
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アズリア(LV.30)
性別:女
ジョブ:剣士
スキル:剣の才(剣の才能をわずかに向上させる)
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ジェット(LV.28)
性別:男
ジョブ:双剣士
スキル:双剣の才(双剣の基本技術を習得し、双剣の才能をわずかに向上させる)
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トルマ(LV.26)
性別:男
ジョブ:剣士
スキル:剣の才(剣の基本技術を習得し、剣の才能を向上させる)
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全員が各自の探索者カードを取り出し、互いの情報を確認していく。戦闘準備はすでに整っていたが、こうした確認のひと手間が生死を分けるのだ。
「さて、今回の作戦の目標はこの家だ」
そう言いながら、アズリアは床に一枚の地図を広げた。紙には今いる位置と、作戦の目標となる屋敷の場所が赤い印で示されている。
「次にこれが、その屋敷の内部図だ。君たちは突入班ではないが、頭に入れておいてくれ」
彼女が取り出したのは詳しく描かれた家屋の設計図だった。手際の良さと準備の丁寧さに、ユークは内心で感嘆する。
「確認だが、突入は我々三人が行う。君たちの仕事は裏口での足止めだ。中の連中が逃げないように、しっかり抑えてくれ」
ユークたちは無言で頷いた。
「よし、準備は万全だな。――行くぞ!」
アズリアの声が合図となり、一行は屋敷へと向かった。
目標の屋敷、裏口前。
ユークたちは、事前の指示どおり屋敷の裏手に陣取る。
「アズリアさんたち……大丈夫かな」
ユークがぽつりと呟く。緊張が声に滲んでいた。
「平気よ。あの人たちだってプロなんだから」
アウリンが肩をすくめながら答える。
「うん……」
それでも不安が拭えないのは、ユークがこういった依頼が初めてだからだろうか。
同時刻、屋敷正面。
アズリアの部下、ジェットが無言で扉のノッカーを叩く。しかし、屋敷の中からの応答はない。
「……返事なし。突入する」
短く指示を出すアズリア。
「了解!」
ジェットが両手の双剣を交差させ、重厚な扉を切り裂いた。開いた隙間から、トルマが真っ先に踏み込む。
屋敷の中には、探索者崩れのチンピラたちが数人、武器を構えて待ち構えていた。
「き、来やがったぞ! やっちまえ!」
だが、その動きに連携は無い。トルマは洗練された動きで次々と敵を無力化していく。
「ふん、真面目に探索者やってりゃよかったものを」
その言葉を皮肉のように吐いた瞬間、死角から飛んできた刃が彼を狙う。しかし――
「おいおい、油断すんなって」
ジェットが素早く割り込み、相手を叩き伏せた。
「ぼやくなよ、ジェット。効率的な連携ってやつだ」
軽口を交わしながらも、二人の連携はスムーズなものだった。何度もこうした任務をこなしてきた二人にとってこのくらい朝飯前だ。
「終わったようだな」
アズリアが静かに呟く。
「隊長は……」
ジェットが振り返ると、アズリアはすでに別ルートの制圧を終えていた。
「当然。もう片付けたさ」
彼女は少しだけ微笑みながらそう言った。
「ヒュゥ……やっぱすげえや、隊長は」
「俺たちが居る意味を、忘れそうになるな」
捕らえられた敵はレベル15程度の雑魚とはいえ、殺さずに制圧するその手腕は、アズリアたちの優れた技量を物語っていた。
再び裏口。
「始まった……!」
家の中から荒事の気配が漏れ始め、ユークの表情が引き締まる。
「ユーク、わかってるわね?」
「もちろん!」
今回は強化魔法を使わない。それは全員で決めたことだった。
強化術は範囲効果。ダンジョンの中なら味方全員を強化できるが、外では敵をも強化してしまうリスクがある。だからこそ、今は魔力の温存を優先することにしたのだ。
「……来ないね」
セリスがぽつりと呟いた時、状況が急転する。
裏口の扉が勢いよく開かれ、三人の男が飛び出してくる。
「うわっ!」
ユークたちに気づいた男たちは一瞬たじろぐ。しかし、相手が若者だとわかると態度を一変させた。
「へ、へへへ。なんだよ、ガキじゃねぇか」
「女もいるぜ。へっへっ」
「バカ、今はそんな余裕ねぇよ!」
男たちが騒ぎ立てる中、ユークたちはむしろ冷静だった。
「邪魔だ、どけっ!」
男たちが突進してくる。
「はっ!」
セリスが槍の柄で一人を狙うが、紙一重で避けられてしまう。
「な、なんだこいつ!? マジかよ……」
ユークは冷静に判断した。
(こいつら……見た目通りのザコじゃない!)
警戒心が走る。三人と四人が対峙し、緊張が高まっていく。
「くそっ……! こんなとこで止まってられるかぁ!」
男たちが武器を構え、一斉に襲いかかってきた。
セリスは冷静に槍で突く。
「だからそれはきかねぇんだよ!!」
三人はそれをギリギリでかわす、言葉ほどの余裕は無いが自身を強く見せるのも弱者の戦法だ。
だが所詮はそこまでだった。
「《アイスアロー》!」
「《アイスボルト》!」
ユークとアウリンの放った冷気の魔法が、避けた先に置かれるようにして放たれ、二人の男を凍らせて動きを止める。
「お、俺だけでも逃げっ……」
残る一人が逃げようとしたその瞬間、横から飛び出したヴィヴィアンの盾が男の顔面を盾で打ち据えた。
「ぐふぁあああっ?!!」
「んー? これで終わったかな?」
ユークがホッとして小さくため息を吐く。
「気を抜かないの! 次も来るかもしれないわよ!」
「あ、ああ!」
アウリンの叱責にユークは気を引き締め直した。
そのとき、家の裏口から軽やかな拍手が響く。
「なかなかやるじゃないか」
現れたのはアズリア。彼女はユークたちの戦闘を見届けていたようだった。
「見てたんですか……!?」
ユークが驚いた顔を向ける。
「ピンチになったら援護するつもりだったさ。でも、必要無かったみたいだからな」
「三人だけで捕縛完了か……これは追加報酬を期待していいぞ」
ジェットとトルマが冗談めかして言う。
「お前たち、さっさとこいつら縛って運べ」
アズリアの一声で、任務は終盤へと向かう。
庭には、すでに十五人ほどの男たちが縛られていた。皆、泣き言や言い訳を口にしながら地面に転がっている。
「ちっ……あんなヤツの口車に乗らなきゃ、こんなことには……」
ふと、ジェットが一人の男の言葉に反応する。
「あんなヤツ? 誰のことだ?」
「……顔に、大きな火傷の痕がある男だ……あいつさえいなければ……!」
男の声が急に震え始めた。次の瞬間――
「う、うああああああああっ!!」
叫びとともに、男に《《新たな右手》》が出現し、鋭い爪でジェットの腹部を貫いた。
「なっ――!」
ジェットの背中から、血に濡れたツメが突き出る。
「ジェットさん!!」
ユークの絶叫が、夜に響き渡った。
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ユーク(LV.18)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
備考:衝撃の瞬間を目撃してしまった。
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セリス(LV.18)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
備考:初撃を避けられて驚いた、格下だと侮っていたのは確かだったが。
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アウリン(LV.18)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
備考:炎以外の魔法は得意で無いだけで使えない訳ではない。
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ヴィヴィアン(LV.18)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
備考:いやらしい目で見られたから、ついムカついて思いっきり殴ってしまった。
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アズリア(LV.30)
性別:女
ジョブ:剣士
スキル:剣の才(剣の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪ストライクエッジ≫
備考:冒険より安定を選んだ女、まだ剣の腕は錆びついてはいない。
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ジェット(LV.28)
性別:男
ジョブ:双剣士
スキル:双剣の才(双剣の基本技術を習得し、双剣の才能をわずかに向上させる)
備考:普段はチームのムードメーカー。
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トルマ(LV.26)
性別:男
ジョブ:剣士
スキル:剣の才(剣の基本技術を習得し、剣の才能を向上させる)
備考:使用武器は槍。
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