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第31話 アズリアからの依頼


 ユークたちが新しい家に引っ越してから、数日が経った。


 その日も探索を終えた彼らは、ギルドへ立ち寄っていた。

 取得した魔石を清算し、報酬を受け取る。いつもの流れで手続きを終えたところで、珍しく受付の女性がユークに声をかけてきた。


「ユークさん、ギルドガードの方から伝言があります。『時間がある時にギルドガード本部に来てくれ』とのことです」


「ギルドガード本部に? 何の用だろう……」


 ユークは眉をひそめたが、心当たりがない。ひとまず仲間たちに事情を説明し、今日はここで解散することにした。


「わかったわ。じゃあ、また後でね」

「ユーク君、気をつけるのよ~」


「私は一緒に行くから!」


 二人に軽く手を振り、ユークとセリスはギルドを後にした。


 ギルドガード本部は、探索者ギルドの近くにある背の高い建物だ。


 探索者ギルドの利権や秩序を守る為なら誰であろうと容赦なく取り締まるその姿勢から、一部の探索者たちには「犬小屋」と揶揄やゆされることもあるが、街の治安を維持する重要な拠点であることに変わりはない。


 扉をくぐると、内部は騒然そうぜんとしていた。


 ギルドガードたちは統一された意匠いしょうの革鎧を身にまとい、慌ただしく動き回っている。


 書類を抱えて走る者、声を張り上げて報告する者、剣の手入れをしながら険しい表情を浮かべる者――どうやらただ事ではない雰囲気だ。


(なんか、すごく忙しそうだな……)


 ユークは邪魔にならないよう壁際に立ち、周囲の様子をうかがう。そして、すぐに目当ての人物を見つけた。


 くすんだ金髪をショートカットに整えた女性――アズリアだ。


 彼女は部下たちに次々と指示を飛ばし、現場を仕切っていた。その動きには一切の迷いがなく、鋭い眼光が張り詰めた空気をさらに際立たせている。


「アズリアさん!」


 ユークが声をかけながら近づくと、アズリアもすぐに気付いたようで、手短に部下に指示を出した後、手招きした。


「待ってたぞ、ユーク。こっちへ来い」


 そう言って、アズリアは彼を自室へ案内する。室内に入ると、外の騒がしさが一気に遠のいた。


「さて……と。この前は助かったよ。ありがとう」


 この前というのは、アズリアの子供たちに魔法を教えてほしいという依頼のことだろう。


「いえ。リマちゃんはちゃんと魔法の練習、やってますか?」

 魔法の適性があった女の子のことを思い出してユークが尋ねる。


「ああ。毎日見せつけてきて鬱陶しいくらいさ」

 そう言うアズリアの口元には、かすかに笑みが浮かんでいた。


「その、ペクト君の方は……?」

 ユークが最も気にしていたのは、魔法の適性がないと分かってしまった少年のことだった。


「フッ! あいつはもう元気いっぱいだよ。今度は最強の剣士になるとかぬかしてな、元気に部屋の中でおもちゃの剣を振り回してるよ」


 その言葉に、ユークはほっと胸をなでおろした。


「さて、ユーク。これを受け取れ」


 そう言ってアズリアが差し出したのは、一枚の依頼書だった。

 ユークが手に取ると、後ろからセリスものぞき込んでくる。そこにはこう書かれていた。


『ギルドガード支援任務』


「これは?」

 ユークは目を上げ、アズリアを見つめる。


「前に言っただろう? 埋め合わせはするとな。それがコレだ」


 アズリアは頬杖ほおずえをつきながら、唇をつり上げる。


「ギルドガードでは、街のゴミ共の一斉摘発を準備していてな。だが、残念ながら人員が若干足りないんだ」

 そう言って、彼女は深くため息をついた。


「そのため、後詰ごずめを信頼できる探索者に任せようということになってな。無論、この依頼のことはトップシークレットだ」

 意味深な視線を送るアズリア。


(なるほど……外部に漏らしたらギルドガードから、もしかしたら探索者ギルドそのものからの信頼を失うってことか……)

 ユークは瞬時に状況を把握する。


「どうする? この依頼を受けるか?」


(こんなの、受ける以外の選択肢なんてないじゃないか……)


「受けますよ。ありがとうございます、アズリアさん」

 ユークは内心を悟られないよう、ぺこりと頭を下げた。


「そうか! 受けてくれるか! これで私も肩の荷が降りたよ」

 アズリアの表情が満足そうに緩む。


(面倒なことになっちゃったな……アウリンにどう説明しよう)


 アズリアに挨拶をして、ユークとセリスはギルドガード本部を後にした。


 新しい家へ向かいながら、ユークはどうやってアウリンに報告すればいいのか、頭を悩ませるのだった。



 リビングには、ユークたち四人がテーブルを囲んで座っていた。

 少し緊張した面持ちのユークは、アズリアから受け取った依頼について、一から説明し始めた。


「はぁ……面倒なことになったわね」

 アウリンが不機嫌そうにため息をつく。


「……ごめん」

 ユークは申し訳なさそうにうつむいた。


「ユークのせいじゃないわ。それより――それ、見せてくれる?」

 アウリンが手を伸ばすと、ユークは素直に依頼書を手渡す。


「ふーん……なるほどね。美味しい依頼ではあるのね」

 アウリンはじっくりと目を通し、納得したように頷くと、今度はヴィヴィアンへと渡した。


「うん。依頼報酬は一人800ルーン。仕事は突入部隊の後詰ごずめ、つまり、メインの戦闘はギルドガードがやってくれる」

 ユークが淡々《たんたん》と依頼の概要がいようを説明する。


「私たちの役目は、裏口から逃げようとする敵の足止め。もし倒せれば追加報酬あり、と」

 アウリンが補足すると、ヴィヴィアンが依頼書を手に取り、ゆっくりと目を通した。


「確かに割のいい依頼ね〜。こんな高額報酬、そうそうないわ」

 感心したように呟きながら、今度はセリスに手渡す。


 セリスは軽く依頼書を確認すると、あまり深く読むことなく、ユークに手渡した。


「じゃあ、全員参加ってことでいい?」

 ユークが仲間たちを見回して確認する。


「いいわ」

「うん」

「オッケーよ〜」

 全員の了承が取れたのを確認し、ユークは席を立つ。


「じゃあ、ギルドガード本部に行って、正式に参加の報告をしてくる」

 それを聞いて、三人は頷いた。


 こうして、ユークたちはギルドガードの大規模作戦に参加することが決まったのだった。



◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.17)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:儲かる依頼なのは間違いないけど……

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セリス(LV.17)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:人を相手にするのは久しぶり。

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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

アウリン(LV.17)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:面倒事だけどギルドの信頼が得られると思えば……

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ヴィヴィアン(LV.17)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

備考:これでもコネにつながるから。コネは大事よ?

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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

アズリア(LV.??)

性別:女

ジョブ:??

スキル:??

備考:楽で、儲かる依頼だろ?

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