第29話 強敵
ユークたちはポータルをくぐり、十四階へと転移した。
「ここが十四階か……」
ユークは周囲を見渡す。いつもと変わらない石造りの迷路。だが、どこか違和感を覚える。
(この階のモンスターはケンタウロスのはずだけど……)
警戒しながら進んでいくと、仲間たちも同じ異変に気がついた。
「ねえ、なんだかやけに直線が長くないか?」
ユークが首を傾げながら問いかける。
「言われてみれば……確かに妙ね。なんでかしら?」
アウリンも周囲を見回し、疑問を口にする。
その時、遠くから甲高い馬のいななきが響いた。
「……来るわよ!」
それに気付いたアウリンが素早く身構え、仲間たちに警告する。
次の瞬間、重たい蹄の音が床を叩き、その響きがどんどん近づいてきた。
「来た!」
セリスが素早く槍を構える。
迷路の奥から姿を現したのは、下半身が馬、上半身が人間のモンスター。
鋭い視線でこちらを睨みつけながら、手にした長槍を構え、猛スピードで突撃してくる。
「こいっ!」
セリスが前に出ようとするが、その前にヴィヴィアンが盾を構えて飛び出した。
「待って! ここは私が防ぐわ!」
ヴィヴィアンの声と同時に、ケンタウロスの突撃が直撃した。
金属と金属がぶつかる鈍い音が響き、ヴィヴィアンの足がわずかに後退する。
しかし、彼女は歯を食いしばりながら耐え抜いた。
ケンタウロスの槍は弾かれ、大きく軌道が逸れる。そのままユークたちの横を駆け抜け、反対側へと走り去った。
「また来る!」
セリスの警告に、全員が次の動きに備える。
すぐにケンタウロスが方向を変え、再び突進してきた。その動きを見計らい、ユークとアウリンが魔法を唱える。
「《フレイムランス》!」
「《アイスボルト》!」
アウリンの炎の槍がケンタウロスへと向かうが、敵は素早く弓を構え、矢で迎撃して自爆させる。
ユークの氷の弾も軽々と避けられた。
「速い……!」
ユークが悔しげに唇を噛む。
ケンタウロスは距離を取りながら、弓を引き絞った。その矢が放たれる瞬間――。
「《エアーウォール》!」
アウリンが咄嗟に風の障壁を作り出し、矢を逸らす。
「簡単にはやらせないわよ!!」
ユークは即座に作戦を考える。
「正面からは厳しいか。なら……アウリンは壁を! セリスはその上に。ヴィヴィアンは隙をつくって!」
「わかったわ!」
「んっ!」
「任せてっ!」
アウリンは素早く後方へと下がる。それを察知したケンタウロスが進路を変え、再び突撃しようとして来る。
「来なさい!」
ヴィヴィアンが盾を構え、正面から迎え撃つ構えをとった。
勢いをつけて突進してくるケンタウロス。激突まで、あと数瞬。
「《ストーンウォール》!」
アウリンの魔法が地面に発動し、厚い石の壁がせり上がる。
突如現れた障害物に、ケンタウロスは急ブレーキをかける。壁への激突こそ避けたものの、完全に速度が落ちてしまった。
「今よ、セリス!」
「やあああっ!」
アウリンの掛け声と同時に、ストーンウォールの上にいたセリスが跳躍。ケンタウロスの頭上から鋭く槍を繰り出す。
「《解除》!」
セリスが跳ぶと同時にアウリンが壁を消す。
「はあああっ!」
ヴィヴィアンが盾を構えたまま突進。馬の部分に体当たりし、ケンタウロスの体勢を崩した。
ぐらついたその瞬間、セリスの槍が一直線に振り下ろされ、ケンタウロスの肩口へと深々と突き刺さった。
「ギャッ!」
苦痛の叫びが響き、ケンタウロスの体が大きく仰け反る。
その瞬間、ユークが魔法の詠唱を終え、彼の杖の先から炎の槍が放たれた。
「《フレイムランス》!」
炎の槍は一直線に飛んでケンタウロスの胸を貫く。
「ギ……ギィィ……!」
ケンタウロスが苦悶の声を上げて膝を折った。
次の瞬間、炎の槍が爆発を起こし、轟音とともに火の粉が舞い散った。
だが、ヴィヴィアンがすでに盾を構えていた。仲間たちを庇うように前へと出て、爆風をその身で受け止める。
「……無事?」
ヴィヴィアンが後ろを振り返る。
「ああ、大丈夫だ」
ユークが息を整えながら答える。セリスとアウリンも無傷で、ほっとした表情を浮かべていた。
「この階層、思ってたより手強いわね……」
アウリンが眉をひそめる。
「うん、もう疲れた……」
セリスがぐったりとした声を漏らした。
「少し休憩したら、先に進もう」
ユークは周囲を見渡し、仲間に怪我がないことを確認すると、静かにため息をついた。
だが、この階層は彼らにとって想像以上の難関だった。
通路はどこまでも真っすぐで、曲がり角すらない。おかげで何度もケンタウロスの群れに襲撃され、戦いが長引いた。
「はぁ……やっと終わりだ……」
ようやく次の階への階段を見つけたユークが、心底疲れたように呟いた。
「思ってたよりキツかったわね……」
アウリンが肩を揉みながら苦笑する。
「手が痺れちゃったわ~」
ヴィヴィアンは手をぶらぶらと振りながら、力なく笑っている。
「すごく疲れた……」
セリスもぐったりとした様子だ。
傷こそ負っていないが、彼らの表情には明らかな疲労が滲んでいる。階段にたどり着いたころには、もう昼を過ぎていた。
「もう疲れちゃったし……今日は帰ろうか」
ユークが提案すると、全員が頷く。
だが、そのとき――
「その……疲れてるところ悪いんだけど……」
アウリンが何か言いたそうに、もじもじと指を絡ませた。
「戻ったら、話したいことがあるの……」
三人は顔を見合わせる。アウリンがこんなふうに言いにくそうにするのは珍しい。
「……何の話?」
ユークが慎重に尋ねると、アウリンは少しだけためらった後、意を決したように言った。
「私たちで、一緒に家を借りてみない?」
その言葉に、ユークたちは驚きの表情を浮かべるのだった。
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ユーク(LV.16)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
備考:その発想は無かった。
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セリス(LV.16)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
備考:ユークと一緒の部屋ならどこでも別に。
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アウリン(LV.17)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
備考:良いタイミングで無いのは分かってる。
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ヴィヴィアン(LV.17)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
備考:アウリンから何も聞かされていなかった。
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