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第27話 新しい武器


《賢者の塔》十三階を探索し始めて三日が経った。

 しかし、進展はなく、彼らは探索者ギルドの借りた部屋で頭を抱えていた。


「う〜ん……だいぶ足止めされてるな」

 ユークは腕を組み、難しい顔でため息をつく。


「ちょっとよろしくないわね……」

 アウリンも同じく険しい表情を浮かべ、ユークの言葉にうなずいた。


「ごめん、私のせいで……」

 セリスが肩を落とし、申し訳なさそうに呟く。


「セリスちゃんのせいじゃないわ! むしろ私たちがどれだけセリスちゃんに頼ってたか、思い知ったわ……」

 ヴィヴィアンが優しくセリスの手を取り、慰めるように微笑んだ。


 足止めされている原因は明白めいはくだった。

 これまでセリスは一人で敵を一体仕留められるほどの活躍を見せていた。


 だが、この階層ではそれができていない。

 セリスが十分に動けないことで戦力が足りず、攻略が停滞していたのだ。


「別のメンバーを入れる? もうマッチングの凍結は解除されてたわよね?」

 アウリンが提案する。


「いや、生半可なやつを入れても戦力にならないと思う。むしろ足手まといになるかも……」

 ユークは冷静に判断し、首を横に振った。


「じゃあ、どうするのよ!」

 アウリンが苛立ちを隠せず、ユークに詰め寄る。


「あまりいい空気じゃないわね〜」

 ヴィヴィアンが困ったようにほほに手を当て、肩をすくめた。


「……私がもっとちゃんとやれてれば」

 セリスが手元の槍を布で磨きながら、ぽつりと呟く。


「そんなこと——んん?」

 ヴィヴィアンがセリスを励まそうとした矢先、何かに気づいたように目を細めた。


「ねえ、セリスちゃん。その槍って、予備の武器かしら?」

 一縷いちるの望みをかけて問いかける。


「……? いつも使ってるやつだけど?」

 セリスが不思議そうに首を傾げた。


「……そう」

 ヴィヴィアンは顔を両手で覆い、その場でがっくりと項垂れる。


「ど、どうしたの!? 大丈夫!?」

 セリスが慌ててヴィヴィアンに駆け寄った。


「ねえ、ユーク君。最近、武器を新調したのっていつくらいかしら?」

 ヴィヴィアンは気を取り直し、ユークに尋ねる。


「え? 十階を突破してからだから……十日とおかくらい前かな」

 ユークが首を傾げつつ答えた。


「セリスちゃんは?」

 答えを聞くのが怖いと思いつつも、ヴィヴィアンはセリスに視線を向ける。


「ん〜?……ずっと買い替えてはないけど……」

 セリスは少し考えた後、あっさりとそう答えた。


「はぁ!?」

「ええ!?」

「やっぱり……」

 ユーク、アウリン、ヴィヴィアンの三人が驚愕の表情を浮かべる。


「あっ、でもちゃんと研いではいるよ?」

 セリスが慌ててフォローを入れるが、三人の驚きは収まらない。


「セリスの武器を買い替えましょう!」

 アウリンが勢いよく立ち上がった。


「え?」


「賛成。すぐ行こう」

 ユークも頷く。


「ええ?」


「私の行きつけのお店があるわ。そこに行きましょう!」

 ヴィヴィアンが優雅に微笑みながら提案する。


「なんで???」

 セリスが戸惑うも、三人は彼女の手を引き、半ば強引に武器屋へと向かった。


「コレなんか良いんじゃない?」

 アウリンが二股の槍を手に取り、セリスに見せる。


「これは?」

 ユークも別の槍を手に取った。


「セリスちゃんはどんなのがいいの?」

 ヴィヴィアンが微笑みながら尋ねる。


 しかし、セリスの反応はどこか気乗りしない。

 しばらく悩んだ末、彼女はぽつりと呟いた。


「わたしは……この槍が好きなんだけど……」


 三人は顔を見合わせ、困惑した。

 そんな時、カウンターから店主が声をかけてくる。

「おうっ! アンタらどんな武器を探してんだ?」

 店主はがさつな口調の若い女性だった。


 ユークが事情を説明すると、店主は顎に手を当て、じっくりと考え込む。

「あ〜なるほど。ちょっとその槍、貸してみな」


 店主が手を差し出す。


「……はい」

 セリスは少しためらったが、ユークに肩を叩かれ、そっと愛用の槍を差し出した。


「へぇ、よく手入れされてるじゃないか。安価な量産品だけど、しっかり使い込まれてるいい槍だ」

 店主は槍のバランスを確かめながら、感心したように言う。


「でもな、この槍……悲鳴を上げてるよ。最近、刃こぼれが多いんじゃないか?」


「うん……毎回研いでもらってるけど……」

 セリスが小さく頷く。


「だろうね。明らかにアンタの技量にも、戦ってるモンスターのランクにも見合っていない。アンタの技術で、無理矢理使ってる状態だよ」


 店主はため息混じりに肩をすくめると、奥の棚へと向かった。そして、そこから一本の槍を持ってくる。


「こいつは地の底、光の届かない場所から掘り出された『冥鋼』でできた槍さ。見た目は無骨だが、不思議なことに戦うほどに刃が鋭くなるらしい。お前さんが長く戦場に立つつもりなら、この槍ほど頼れる相棒はないだろうね」


 店主がカウンターに置いたそれは、パッと見たところセリスの愛用の槍と大きな違いはなかった。


 装飾もなく、どちらかというと地味な見た目をしている。しかし、ただの槍ではないことは、言葉の端々から伝わってきた。


「持ってみてもいい?」


 セリスが慎重に尋ねると、店主は頷く。


「いいぞ」


 セリスはそっと槍を手に取り、ゆっくりと刀身を指でなぞった。指先に伝わる金属の冷たさと、ほんのわずかに感じる鋭さに、思わず息をのむ。


「……すごい」

 思わず零れた言葉とともに、セリスの瞳がきらめく。


「これって、いくらなんですか?」

 そばで様子を見ていたユークが尋ねる。


「そうだね、長らく売れてなかったからね。二万ルーンでいいよ」


「二万か……」

 ユークは腕を組んで考え込む。確かに高額だが、店に並ぶ武器を見ても、それより高価なものはいくらでもある。

 それに、ヴィヴィアンが何も言っていない以上、相場としては妥当なのだろう。


 セリスは少しの間、槍を見つめていたが、やがてゆっくりと店主に返した。

「……はい」


「買わないのかい?」

 不思議そうに尋ねる店主に、セリスは小さな声で答える。


「……お金ない……」


「じゃあ、仕方ないね。いくらなら出せる?」


「…………千ルーン」

 セリスは俯きながら、申し訳なさそうに呟いた。


「「ええ!?」 」

 ユークとアウリンの声が重なる。


「ちょっと待ちなさいよ。なんでそれしかないの?」


 確かに、ここ一年は九階で足踏みしていたとはいえ、それなりに収入はあったはずだ。二万ルーンなら、決して手の届かない額ではない。


「わかんない……」

 セリスは困ったように目をそらした。


「流石に千ルーンじゃ、今と大して変わらない量産品しかないが……」

 店主が渋い顔をする。


 アウリンがユークの方を見た。


「たぶん、普段の買い食いとか無駄遣いが多かったんだと思う。宿代も俺が出してるし、本来なら俺より収入は多いはずなんだけど……」

 ユークはこめかみを押さえながらため息をつく。


「ええ……」

 アウリンも思わず絶句した。


「どうしようかしら……」

 ヴィヴィアンも困った様子で首を傾ける。


 そのとき、ユークが決断したように顔を上げた。

「俺が出すよ。預けてる金を全部合わせれば、それくらいはギリギリあったはず……」


「そういうことなら私も出すわ。少ししか出せないけど」

 アウリンも続ける。


「それなら私も……」

 ヴィヴィアンが言いかけたところで、アウリンが手を振って止めた。


「あんたは無理しなくていいわよ。ずっと収入がなかったんだし」


「そう……? じゃあ、ごめんなさい」


「みんな……ありがとう……」

 セリスは涙を浮かべながら感謝の言葉を口にする。


 しかし、ユークは容赦なかった。

「ただし、これからはセリスの報酬は一旦俺が預かって、毎回使っていい金額をお小遣いとして渡します!」


「そんな……!」

 セリスは衝撃を受けた顔で固まる。


「まあ、仕方ないわね」

 アウリンが納得したように頷く。


「こればっかりは、弁護しきれないわ〜」

 ヴィヴィアンも小さく首を左右に振った。


「というわけで、最初の槍を買いたいんですけど」


 ユークが店主に申し出ると、店主は苦笑しながら槍を差し出してきた。


「あんたも大変だな……」


 領収書と共に槍を受け取ったユークは、それをセリスに手渡す。


「わあああ……!」

 セリスの瞳が輝き、新しい槍を抱きしめるように見つめた。


 こうして、セリスは新たな武器を手に入れることになったのだった。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.16)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:これで貯蓄はほぼなくなった。

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セリス(LV.16)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:元愛用の槍は大切にしまってある。

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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

アウリン(LV.17)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:ヴィヴィアンが復帰するまで二人分の生活費を払っていたからそこまで貯蓄は無い。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ヴィヴィアン(LV.17)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

備考:全身鎧のメンテナンスに結構金がかかる。

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