第25話 これがレベルアップの仕組みよ!
翌日、探索者ギルドにて
アウリンは首をかしげながらユークを見た。
「それで? 今日はなんでギルド集合なの?」
ユークたち四人は、《賢者の塔》へ向かう前に探索者ギルドに立ち寄っていた。昨日の探索の反省も兼ねてのことだ。
ユークは腕を組みながら頷いた。
「昨日、十一階で結構苦戦したでしょ? だから考えたんだ。まず十一階でレベルを上げられるだけ上げてから、次の階に進もうって」
アウリンは納得したように頷く。
「なるほど、確かに。でも、それならなんでギルドに?」
「まず、今のレベルを確認しておこうと思ってさ。もしかしたら、もうレベル16まで上がってるかもしれないし」
ユークがそう言うと、アウリンは半ば呆れたように肩をすくめた。
「さすがにそれはないと思うけど……まぁ、確認して損はないわね」
こうして、ユークたちはギルドに手数料60ルーンを支払い、レベルを測定してもらった。
そして結果は——
ユーク レベル14 → 15
セリス レベル14 → 15
アウリン レベル15 → 変化なし
ヴィヴィアン レベル15 → 変化なし
ユークは測定結果を見てぽつりとつぶやく。
「俺とセリスは上がってたけど……」
アウリンも苦笑しながらヴィヴィアンを見た。
「私たちは案の定、上がってなかったわね」
「よし、確認もできたし、十一階に行こう!」
ユークが気合を入れるように拳を握りしめる。
こうして、彼らは再び《賢者の塔》の十一階へと挑むのだった。
《賢者の塔》十一階
「《フレイムアロー》!」
ユークが炎の矢を放つ。しかし——
「ギチチッ!」
攻撃を受けたソルジャーアントは、まるで効いていなかった。
「くそっ……外したっ!」
ユークが歯噛みする。昨日のようにソルジャーアントの装甲の隙間を『フレイムアロー』で狙い打っているのだが、なかなか上手くいかない。
「始末するねっ!」
セリスが駆け抜け、鋭い一閃でソルジャーアントの首を斬り落とすと胴体が崩れ落ちる。
アウリンは腕を組みながら首を傾げた。
「うーん、中々うまくいかないわね……」
ヴィヴィアンは昨日の戦闘を思い出しながら、顔を青ざめさせて呟いた。
「昨日は本当に危なかったのね〜」
そんなヴィヴィアンの肩を、セリスがポンと叩く。
「ドンマイ!」
ユークはため息をついて三人を見る。
「はぁ……もう時間じゃない? 入口に戻って昼にしようか」
アウリンが時計を取り出して確認する。
「確かに、そろそろ12時だわ」
すると、ヴィヴィアンが驚いたように目を瞬かせた。
「え〜、ユーク君、なんで時間がわかったの〜?」
ユークは軽く笑いながら答える。
「昔、丁稚をやってたから。時間くらい体感で分からないと怒られるんだ」
「丁稚?」
ヴィヴィアンが首を傾げる。
「うん、商人のもとで住み込みで働く下働きのことだよ」
「ユーク君って商人だったのね〜」
「いや、商人ではないかな……」
そんな会話をしながら、ユークたちは入口に戻り、昼食をとることにした。
食事を終えた後、ユークとアウリンは恒例になっている魔法の勉強会を始める。
アウリンが拳を握りしめ、気合を入れた。
「昨日はできなかったから、今日はビシビシいくわよ!」
ユークも真剣な表情で頷く。
「はいっ! 先生!」
その様子を、干し肉をかじりながら眺めるセリスと、兜を外したヴィヴィアンが見ていた。
ふと、セリスがヴィヴィアンに声をかける。
「ねぇ」
「なあに?」
「私たちって今、レベル上げしてるじゃない?」
「そうね〜」
「レベルって、何なのかな?」
「ええ〜? レベルはレベルじゃない?」
ヴィヴィアンが困ったような顔をする。
すると、アウリンが鋭くこちらを振り向いた。
「何? 聞こえたわよ! レベルが何か知りたいのね!!」
彼女は弾むような足取りでセリスたちのもとへ駆け寄ると、自信満々に指を立てて説明を始めた。
「自分より格上の相手を倒すと、その相手の魂の力が少しだけ自分に流れ込むの。魂は水みたいに、高いところから低いところに流れる性質があるのよ。それで魂が強くなって、結果として肉体も強くなる。これがレベルアップの仕組みよ!」
「なんで魂が強くなると、肉体も強くなるの?」
セリスが首をかしげながら問いかける。
「『健全な肉体は健全な精神に宿る』って言葉は知ってる?」
「聞いたことがあるわ〜」
ヴィヴィアンがのんびりと答えた。
「魂と肉体は密接に関係していて、肉体が魂に影響を与えるように、魂も肉体に影響を与えるの。だから魂が強くなると、それに引っ張られるようにして肉体も強くなるのよ」
「でも、ダンジョンのモンスターに魂なんてあるの?」
セリスの素朴な疑問に、アウリンは嬉しそうに笑う。
「良い質問ね! セリス、召喚魔法って知ってる?」
「知らない〜」
「召喚魔法っていうのはね、魔力でモンスターの肉体を作って、そこに本物の魂を入れる魔法なの」
「へえ〜」
セリスは興味深そうに頷いた。
「ダンジョンにいるモンスターも、基本的には同じ原理で生まれてるのよ?」
アウリンは得意げに笑った。
その時——
「アウリーン! 授業の途中なんだけど〜!」
ユークの声が響く。
「あっ、ごめーん! 今戻るわ!」
アウリンは慌てて駆け戻っていく。その後ろ姿を見送りながら、セリスがぽつりと呟いた。
「アウリンって昔からこうなの?」
「そうね~ 昔から説明したがりな子だったわ~」
ヴィヴィアンが微笑みながら答える。
こうして、昼休憩の時間はあっという間に過ぎていった。
午後の狩りも順調に進み、四人は手際よくモンスターを討伐していった。しかし、ユークの挑戦は結局、数回しか成功することは無かった。
日が暮れ始めた頃、一行は狩りを終え、ギルドへ戻る。
「これが今日の分ね」
ギルドで精算を終え、ユークが報酬を分ける。昨日よりも少しだけ少なかったが、それでも十分な額だ。
「まあ、昨日よりは減るわよね」
「それでも結構多いよ」
「私、こんなにもらっちゃっていいのかしら〜」
三人がそれぞれの感想を口にする。
「で、こっちが前に受けた依頼の分」
そう言って、ユークは金貨が十枚——つまり1000ルーンが入った袋を三人に差し出す。
「ええ!?」
「こんなに!?」
「ちょっと! 本当にいいの?」
三人が驚きの声を上げる。
「アウリンがいなかったら、昨日は途中で帰ってたかもしれないし。それに、四人で受けた依頼なんだから、四等分するのが当然だと思う」
ユークは当たり前のような顔で言う。
「そう……なら、ありがたくもらっておくわ」
アウリンは金貨を見つめ、少し考え込んでから納得したように頷いた。
それぞれ報酬を受け取り、一息ついたところで、ユークは新しい提案を持ちかける。
「お金はかかるけどさ、これからは毎回ギルドでレベルを確認してもらわない?」
三人は顔を見合わせ、すぐに頷く。
「うん、それがいいわね。レベルが上がったかどうか、すぐに分かるし」
「成長が目に見えると、やる気も出るわよね〜」
「私もいいよ!」
こうして、ユークたちは定期的にレベル確認をすることを決めた。
しかし結局、この日は誰のレベルも上がってはいなかった。
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ユーク(LV.15)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
備考:やはりセリスのようにはいかない。
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セリス(LV.15)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
備考:何で出来ないのかわからない。
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アウリン(LV.15)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
備考:まあ、強力な魔法でごり押しすればいいから……
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ヴィヴィアン(LV.15)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
備考:素早い敵は苦手。
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