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「お前は用済み」と追放されたけど、俺のことが大好きな幼馴染も一緒に抜けたせいで元パーティの戦力が崩壊した件  作者: 荒火鬼 勝利


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第249話 カルミアの贖罪


“大賢者”が築いたとされる《賢者の塔》。その塔が暴走し、街全体が結界に包まれていた。


 静かな混乱が広がる中、街外れの廃墟に作られた秘密基地だけは、いつもと変わらぬ静けさを保っている。


 そこでペクトとリマは――

 黒い触手の塊となった元探索者、カルミアと遊んでいた。


「お兄ちゃん、ヌルちゃん今日つやつやしてるよ?」

「ほんとだ! なんか気持ちいいな!」

 カルミアは心の中で舌打ちする。


(ちっ……馬鹿が。俺はペットじゃねぇ。あの博士のクソ野郎、こんな呪いを遺しやがって)

 しかし反論する術はどこにもない。


 かつて裕福な商家を継ぐはずだった男は、今はただの子供の遊び相手になり果てていた。


(……だが)

 街全体の魔力濃度が異常に高まっていることに、カルミアは気づく。


(何が起きてやがる……街そのものがダンジョン化してるみてぇだ)


 そんな中、リマのお腹がなった。


「そろそろお昼じゃない?」

「じゃあ、いったん帰るか」

 子供たちが帰ろうとしたその瞬間――


 賢者の塔の方角から、凄まじい咆哮と衝撃が響く。

 スタンピード開始の合図だった。


 外の喧騒は、すぐに秘密基地へも届く。


「ひっ……な、なに!?」

 リマが震え、ペクトが庇うように抱き寄せる。


「なんか……あったのかも……」

 リマをなだめるように、ペクトが落ち着いた声を出す。


「すこし、ここで様子をみよう」

 その言葉にリマも頷いた。


 秘密基地には隠しておいたお菓子があり、昼食代わりにそれを食べて二人はお腹を満たした。

 だが、外の騒ぎは収まるどころかどんどん激しくなっていく。


 抱き合って震えるペクトとリマ。

 その時――家の扉を引っかくような音が聞こえた。


「ペクト! なにか外にいる!」

 リマが悲鳴を上げる。


「だ、大丈夫だよ。鍵も閉めたし……」

 ペクトも扉を恐る恐る見つめた。


 ――ガリッ、ガッ!!


「きゃあっ!」

「うわあっ!」

 引っ搔くような音と共に、薄い木の扉が軋む。


「こわいよ……ペクト……」

 ガリガリと何かを削る音が続き、リマは強く兄に抱きついた。


「大丈夫、大丈夫だから……!」

 ペクトは逃げ道がないか周囲を見るが、窓は板で塞がれ、出口はその扉のみ。


(……どうしよう。逃げられない……!)

 音が鳴り続ける扉を注視するペクト。


 やがて音が止んだ。


(あ、あきらめた……?)

 ペクトがそっと立ち上がり、扉へ向かおうとしたその時。


「まってよぉ、ペクトぉ」

 妹に服を掴まれ、一歩が踏み出せない。


「ちょ、リマ……手、離して……」

 妹の手をそっとはがそうとした瞬間――


 ――バキバキバキッ!!


「きゃああああ!!」

「うわあああ!!」

 破砕音と共に扉が破られた。


「ひっ! なんだあいつ!」

 現れたのは、自分たちと同じくらいの背丈の緑色のモンスター――ゴブリンだった。


「ギ……?」

 錆びた剣を握り、涎を垂らしながら子供たちを交互に見回す。


「ギギギ……ギッ!」

 にたりと笑い、ゆっくりと中へ踏み込んでくる。


「く、来るな! 来るなよぉ!」

 ペクトは腰を抜かし、リマをかばいながら震えた。


 その光景を見た瞬間、カルミアの胸に冷たい痛みが走る。


(……今の俺じゃ、あんな雑魚にも勝てねぇ。逃げれば生き延びられる……だが)

 怯える二人の姿が目に焼きつく。


(本当に見捨てるのか?)

 自分に問いかける。


(……ユークを追い出した時、あいつもこんな顔してたな)

 胸が痛んだ。


 いや、痛んだのではない。

 悔いが刺していたのだ。


(英雄が……子供を見捨てるわけねぇだろ)

 カルミアは決断する。ペクトの肌へ触手を伸ばし、自らの体を融合させた。


『おい! 聞け、ペクト』

 脳内に直接声が響く。


「ひっ……!? だ、誰……!」

 周囲を見回すペクトに、カルミアは怒鳴るように続ける。


『誰でもいい! 妹を助けたければ立て! 立ち向かうんだ!』

 ペクトは震えながらも、リマを抱く腕に力を込めた。


「……う、うん!」

 立ち上がったペクトを、カルミアは触手で包み込む。


「う、うわっ! なに!?」


『黙ってろ! この俺が力を貸す!』

 カルミアは黒い“生体鎧”へと変化し、ペクトの全身を覆った。


「これは……?」

 かぎ爪のついた両手を不思議そうに見つめるペクト。


『戦え、ペクト。お前にはもう、その力がある』

 その声が響くと同時に、カルミアの記憶や知識が、激流のようにペクトへ流れ込んだ。


 触手としての融合捕食能力を応用し、自身の戦闘技術を少年へ継承したのだ。


「――わかった。やってやる!」

 木剣を構えた瞬間、ペクトの重心が変わった。


 武人の構えだった。


 突然の変化に、ゴブリンは警戒して足を止める。


『いいか?お前の得物は木剣だ、あんななまくらでも正面から打ち合ったら負ける。攻撃を避けて戦うんだ!』


「うん! わかった!」

 ペクトはその声に頷き、じりじりとゴブリンと距離を詰め始めた。


 気迫を帯びたその動きに、ゴブリンが一歩後ずさる。


 だが背後に震えるリマがいると気づくと、ゴブリンは嗜虐的に口を歪め、錆びた剣を振りかぶった。


「ギギギッ!」


『来るぞ!』


「うんっ!」

 突撃するゴブリンへ、ペクトも前へ飛び込んだ。


「はあぁぁぁぁっ!!」


 ――斬ッ!


 ペクトの突きが、ゴブリンの喉を貫いた。

 相手の斬撃を紙一重で避け、最短距離で木剣を突き刺したのだ。


 血の泡を吹きながら倒れるゴブリン。


 カルミアが培った剣技が、少年の小さな体を通して鮮やかに再現されていた。


「すご……っ!」

 思わず声を上げるペクト。


『調子に乗るな。おそらく避難先はギルドだ。急ぐぞ』

 冷たく言い放ち、カルミアは次の行動を指示する。


「わかった! 行こう、リマ!」

 手を差し出すペクト。しかし、リマは怯えた目で兄を見つめた。


「え……ペクト、なの?」


「ああ、俺だよ! ヌルちゃんが力を貸してくれたんだ!」

 妹の視線に少し胸を刺されながらも、ペクトは明るい声を作った。


「……うん」

 リマはペクトの手を掴んで立ち上がる。


 二人は秘密基地の入口へ向かった。


「ちょっと待ってて。俺が先に見るから」


 周囲を確認し――


「大丈夫みたいだ! 行こう!」

 ペクトたちは走り出した。


『おい、アレを拾え』


「え?……ひっ!」

 カルミアが示したのは、ギルドガードの死体。そのそばにショートソードが落ちていた。


「これって……」

 ペクトは自分の背丈ほどもある剣を、おそるおそる拾い上げる。


『モンスターと相討ちになったんだろうな。木剣よりマシだ。持ち替えろ』

 木剣を捨て、初めて本物の剣を手にしたペクト。


「これが……本物の剣……」

 鋭い刃を見つめ、喉が鳴った。



 ◆◆◆



「ピギャッ!」

 突然飛び出したジャイアントラット――ペクトの身長を超える巨大なネズミを、ペクトは一閃で切り伏せた。


『よし。その剣の扱いにも慣れてきたな』


「うん。でも……なんで街の中にモンスターが……」


『さぁな。今大事なのは理由じゃなく、生き延びることだ』


「……わかった」

 完全には納得できなかったが、ペクトは頷いた。


 悲鳴と怒号が絶え間なく響く街を、リマをかばいながら進み、ギルドまで半分ほどの距離に来たときだった。


「ねえ、ペクト。なんか声が聞こえるよ!」

 リマの言葉に、ペクトは耳を澄ます。


 遠くで多くの悲鳴と金属音が混じっていた。


「……ほんとだ! あっちだ!」

 ペクトはリマの手を引き、駆け出した。


『おい! 戻れ! 行くな!』

 カルミアの制止を振り切り、たどり着いた先は小さな教会。


 扉に体当たりするグレイウルフの群れと、外で噛み殺されている剣士の死体。


 避難してきた市民が追い詰められていた。


「助ける……ッ!」

 ペクトは恐怖を押し殺し、群れに飛び込む。


『ああもう! 囲まれるな! 必ず一対一に持ち込め!』

 カルミアが怒鳴るように指示する。


 ペクトは走り回りながら一匹ずつ切り捨て、短時間で群れを壊滅させた。


「もういいよ! リマ!」

 安全を確認してから妹を呼ぶ。


 教会の中には大勢の避難者がいた。

 戦える者はおらず、わずかな戦士も外で無残な姿になっている。


 避難者の中にはペクトと同じくらいの子供もいた。


「ねえ。この人たちも……ギルドに連れていけないかな?」


 ペクトの問いに――


『無理だ。この人数じゃ隠れきれねぇ』

 あまりに冷たい答えが返ってきた。


「そんな……じゃあ、この人たちは……」

 ペクトは悲しそうに目を伏せた。


『諦めろ。どうしようもねぇことなんて、世の中にはいくらでもある』

 カルミアの声は淡々としていた。


「……そっか」

 力なく肩を落とし、のろのろと振り返る。


「リマ、もう――」

 その言葉が、途中で止まった。


 避難してきた子どもたちと、笑顔で遊ぶリマの姿が目に入ったからだ。


 楽しそうに笑うリマ。

 怯えながらも、その笑顔に救われている他の子どもたち。


 その光景を見て、ペクトはぎゅっと拳を握りしめた。


『……ペクト?』

 カルミアが問いかける。


「……俺が守る」


『あ!?』

 ペクトは振り返り、強い眼差しで叫んだ。


「俺がこの人たちを――守るよ!」


『バカ言うな! できるわけねぇだろ!』

 カルミアが怒鳴る。


「でも、この人たちを放っておけないよ!」

 必死の反論にカルミアが言葉を詰まらせた、その時――


「ねぇ! また来たよ!」

 リマの声にペクトが表へ出ると、今度はゴブリンの群れが様子を伺っていた。


「やろう! ヌルちゃん!」

 剣を構え、ゴブリンたちを睨みつけるペクト。


『くそっ……しかたねぇ! 俺の指示には従えよ!?』

 こうしてペクトは教会に留まり、ギルドへ逃げられなかった人々を守ることになった。


 断続的に襲ってくるモンスターたちを倒し続け、ペクトは教会を死守する。


 ――だが、終わりは唐突に訪れた。


 教会を囲う壁が崩れ落ち、

 その隙間から筋肉の塊のような巨体――ワーウルフが姿を現す。


「……っ!」

 ペクトは絶句した。


(だめだ! あんなの、今の俺じゃ勝てねぇ!)

 カルミアは一瞬で判断する。


(なら――)


『ペクト! 今から俺が剣に取り付く。俺ごと奴の胸に投げつけろ!』

 生体鎧が解除され、カルミアの体が黒い触手となってショートソードへと集まっていく。


「えっ!? そんなの無理だよ!!」

 鎧を失い、不安そうに叫ぶペクト。


『泣き言は聞かねぇ! 生きたけりゃ、やるしかねぇんだ!!』

 怒鳴るような叱咤が響く。


「……う、うんっ! いけぇぇぇぇ!!」

 ペクトは力いっぱい剣を投げつけた。


 ショートソードはワーウルフの胸へ突き刺さり――

 その表面に、薄く伸びたカルミア(触手)が広がっていく。


(くっ……レベルが高い……! ――けど。俺は……ドラゴンすら支配したことがあるんだ! この程度のモンスターに!!)

 限界を超え、カルミアはワーウルフの神経に侵入し、強引に乗っ取った。


 次の瞬間――

 紅かったワーウルフの瞳が“青”に変わる。


『ここは一歩も通さねえぜ!』

 青い瞳を持つワーウルフは、教会を守るように立ちふさがった。


 しかし、モンスターの襲来は止まらない。


 ワーウルフとなったカルミアは、次々と押し寄せる魔物に立ち向かった。


 一体を剣で両断すれば、すぐに別のグレイウルフが背中へ飛びかかり、爪が肉を裂いた。


 鋭い痛みが走り、血が滴り落ちる。

 呼吸は荒く、視界がじわりと赤黒く滲んだ。


(……ちっ。もう脚が……持たねぇ……!)


 それでもカルミアは、迫るオークの腕を掴み、咆哮をあげながら頭突きを叩き込んだ。

 鈍い衝撃とともにオークが吹き飛び、土煙が舞う。


 胸の奥が大きく脈打つ。

 肋骨が折れたのがわかった。


 それでも足を止めない。

 教会の扉の向こうには、震えるペクトとリマがいる。


(守れなかったら……俺にはもう……何も残らねぇ……!)

 背後からゴブリンの群れが襲いかかった。


 カルミアは振り返りざまに剣を振るい、数体をまとめて切り裂いた。

 しかし反撃の衝撃で、脚ががくりと沈む。


「……っ!」

 膝が割れたような激痛が走る。


 呼吸が荒く、口の端から血が垂れた。


(……限界が近い。けど、倒れるのは……あの二人を守り切ってからだ……!)

 ワーウルフの身体はすでにボロボロだった。


 筋肉は裂け、毛は血と泥で固まり、片腕は痙攣して動かない。


 それでもカルミアは、まだ立った。


 そして――


 建物の影から姿を現したのはワーウルフよりも遥かに格上の怪物、ヘルハウンド。


(これが……最後か)

 ペクトとリマが扉の隙間から心配そうに見つめている。


 カルミアは無事な方の腕を上げて応え、青い瞳を強く輝かせた。


『来いよ……教えてやる……! ――本当のモンスター(怪物)ってやつをなぁ!!』

 咆哮とともに、カルミアはヘルハウンドへ突撃した。



 ◆◆◆



 夕暮れ。


 賢者の塔の光が消え、街を覆っていた結界も静かに消えていく。


 正気を取り戻したモンスターたちは、一匹、また一匹と塔へ戻っていった。


 ――その静まり返った街の片隅、小さな教会の前で。


 大型の黒い獣――青い瞳のヘルハウンドが、力尽きて倒れていた。


体は無数の傷と噛み跡で崩れ、周囲には砕け散ったモンスターの残骸が広がっている。


 ペクトとリマは、息を呑みながらそのそばへ駆け寄っていく。


「……ヌルちゃん?」

「お願い……目を開けて……」

 獣の青かった瞳は、もう光を失いかけていた。


『ば……馬鹿野郎……泣くな……』

 かすかに口が動く。


「ヌルちゃん……!! ヌルちゃん……っ!!!」

 ペクトは泣きじゃくりながら叫ぶ。


 その声を聞きながら、カルミアの瞳が――静かに閉じた。


 彼は知らない。


 ユークが魔獣を倒し、この街を救ったことも。

 誰にも褒められず、誰にも知られず。

 ただ一度だけ、正しいことをして――


 最後に、かすれた声が漏れた。


『……ユーク……すま……な……』

 カルミアの体から力が抜け、完全な静寂が訪れた。


 街の片隅で起きたこの小さな戦いは、誰にも語られることなく幕を閉じた。


 ただ――

 少年と少女の胸の中だけに、名もなき英雄の記憶が残った。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ペクト

性別:男

備考:カルミアの戦いの経験と技術は、彼が死んだあともペクトに引き継がれた。あと母親であるアズリアにものすごく怒られた。

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リマ

性別:女

備考:この時の経験から、よりいっそう魔法の練習に熱心になった。あと母親であるアズリアにものすごく怒られた。

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カルミア(LV.13)

性別:男

ジョブ:上級剣士

スキル:剣の扁i剣の基本??術を習得し、剣の才??を向上させる?j

備考:英雄になりたくて探索者なった男は、最後の最後に子供たち二人の英雄になることができた。

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