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第24話 《賢者の塔》十一階


 ユークたちはついに《賢者の塔》の十一階へと足を踏み入れた。


「う〜ん。見た目が変わらないから、全然新鮮味がないな……」

 相変わらず石造りの迷路のようなダンジョンを見渡し、ユークがぼやく。


「まあ、外観を変える必要もないしね」

 アウリンが軽く返す。


「なんで?」

 セリスが不思議そうに首をかしげる。


「こういう人造迷宮は、最低限の構造を作って使い回すことが多いのよ。余計なコストをかけないためにね」

 アウリンが片目をつぶって説明する。


「人造迷宮?」

 今度はユークが質問する。


「あっ、人造迷宮っていうのはね……」

 アウリンが説明しようとするが——


「ちょっと! みんな! 敵が来てるわよ! 戦闘に集中してっ!」

 ヴィヴィアンが鋭い声を上げた。


「えっ?」

「あっ!」

「ヤバっ!」

 話し込んでいた三人は慌てて戦闘態勢を取る。


「はぁっ!」

 セリスが敵に向かって突撃した。


「セリス、気を付けて! 十一階の敵はソルジャーアント! ゴーレム並みの硬い甲殻を持ってて、しかも生体武器も同じ材質。動きも速いから!」

 アウリンが急いで情報を伝える。


「わかったー!」

 セリスが接敵する。


 ソルジャーアントは、名前の通り直立したアリのようなモンスターだ。黒光りする生体装甲に覆われ、片手には同色の反ったノコギリのような武器を握っている。


「ギチギチギチギチギチ!」

 素早い動きでソルジャーアントが獲物を狙い、セリスに向かって武器を振りかぶる。


「速いっ!」

 思わずユークが叫んだ。


「ギチ!?」

 だが、攻撃を受けたのはソルジャーアントの方だった。


 武器を持った方の腕が根元から切り裂かれ、地面に落ちる。


 慌ててソルジャーアントはセリスから距離を取り、警戒しながらじりじりと後退する。


「ふーん、そっか……」

 対して腕を落とした側のセリスは、一人何かに納得したようにつぶやいた。


「ギチチッ!」

 ソルジャーアントは武器を失うと、腕の下についていた棒状のものを無理やり引き抜く。すると、それはみるみるうちに変形し、先ほどの武器とそっくりの形になった。


「なるほど……退化した腕を生体武器として再利用しているのね」

 アウリンが感心したように呟く。


「ギッ!!」

 恐怖心などまるで感じさせず、ソルジャーアントは再びセリスに突撃する。


 それを——


「はぁっ!」

 するどい掛け声とともに、セリスの槍がひらめく。


 瞬く間にソルジャーアントの首が飛び、首なしのまま崩れ落ちると、光となって消えていった。


「うんっ!」

 セリスは満足そうに頷く。


「うわっ……」

「すごい……」

「なんでこんなに簡単に倒せるのよ……? ゴーレムのときは、それなりに苦戦してたじゃない」

 アウリンが驚きの表情を浮かべる。


「ん〜? ゴーレムより隙間があるから楽だよ?」

 セリスは何でもないことのように答えた。


「確かにソルジャーアントの甲殻には継ぎ目があるけど……普通、そんなホイホイ狙えるもんじゃないのよ?」

 アウリンが呆れたようにため息をつく。


「そんなことよりも、探索中に油断しないの!」

 ヴィヴィアンが腰に手を当て、叱るように言う。

 ポーズは可愛らしいが、長身の全身鎧姿のため、想像以上に威圧感があった。


「はい……」

「うん……」

「ごめん。さすがに油断しすぎてたわ、反省しなきゃ」

 三人は反省の色を見せる。


「いや、俺がちゃんとしておくべきだったよ。リーダーなんだし……」

 そんなアウリンにユークが謝罪する。


「でも……」

 それでも何か言おうとするアウリン。


「ハイハイ! 反省は後。今は探索に集中して!」

 ヴィヴィアンが強制的に会話を断ち切る。


「……分かった、話は後で!」

「ごめんっ! 今やることじゃなかったわ!」

 二人は話を終え、前を向いた。


「じゃあ、まずは先に進んでみようか!」

 ユークたちは探索を再開する。


 何体かのソルジャーアントを倒しながら進んでいると――


「待って……たくさんいる!」

 通路の奥に、二体のソルジャーアントがたむろしていた。


「っ! イレギュラーか?」

 ユークが警戒する。


「違うの。これまでは一体ずつだったけど、この階からは先に進むほど敵の数が増えていく……らしいわ」

 アウリンが言い淀む。


「やけに歯切れが悪いけど、どうしたのさ」

 ユークが尋ねる。


「悪かったわね! ここから先は私も初めてだから、知識でしか知らないのよ!」

 語気を強めるアウリン。


「あー、なるほど……」

 納得して黙るユーク。


「それで、行くの? 行かないの?」

 セリスが判断を求める。


「行こう。アウリン、ここからでもフレイムランスは届く?」

 ユークが尋ねる。


「余裕よ! 任せなさいっ!」

 そう言って詠唱を開始するアウリン。


「《フレイムランス》!」


 炎槍が放たれ、片方のソルジャーアントを爆砕する。もう一体がこちらに気づいたが――


「はあっ!」

 すでに接近していたセリスが、その首を一閃した。



「よしっ! いいぞ! この調子で進もう!」

 ユークは手応えを感じ、そのまま前進を決断する。


「そういえば、そろそろお昼だけど、どうするの?」

 探索が進み、ダンジョンの全体像も少しずつ明らかになってきたころ、アウリンが時計を見て言った。


「えっ? もうそんな時間? えっと、どうする? 戻る?」

 ユークは仲間を見回しながら尋ねる。


「ここ、地図で見るとかなり奥のほうよ? いまから入口に戻るのは面倒だわ……」

 アウリンが少し困ったように言う。


「仕方ない、昼食はここで食べるか……」


 ユークたちは二組に分かれ、片方が警戒をしながら交代で昼食をとった。


「ほんと、お腹に物を入れるだけって感じね……」

「なんか疲れた……」

「鎧を着てると食べづらいわ~」

「う~ん、次から何か考えないとな。毎回これはきついぞ……」

 何とか昼食を終え、午後の探索が始まる。


「三体いる!!」

 ソルジャーアント二体との戦闘に慣れてきたころ、セリスがついにそれを発見した。


「まずいっ! 一体は俺とヴィヴィアンがやる!」

 何も指示せずとも、セリスはすでに突撃し、アウリンは詠唱を開始していた。


「はああああああ!!」

 セリスが一体のソルジャーアントと激突し、数回の打ち合いの末、ソルジャーアントの首をはねる。


 だが、その隙に残りの二体がユークたちに迫ってきていた。


「《アイスボルト》!」

「ギッ!」


 手始めに発動の速い魔法を使ってみるが、直撃してもソルジャーアントは微動だにしない。


「くそっ!」

(一体はアウリンのフレイムランスで仕留められる。時間さえ稼げれば……)


 ユークたちに接敵する直前、アウリンの詠唱が完了し、一体を撃破する。

「《フレイムランス》!」

「ギャアアア!」


「ヴィヴィアン! 頼むっ!」

「任せて!」


 ソルジャーアントとヴィヴィアンがぶつかり合う。しかし、重装甲のヴィヴィアンに対し、軽量のソルジャーアントは相性が最悪だった。


「ギギガッ!」

「え~いっ!」


(まずいな……抜けられそうだ)

 初撃は防いだものの、ソルジャーアントのほうが素早い。このままでは、ヴィヴィアンをすり抜けてくるのも時間の問題だった。


 アウリンも詠唱の短い魔法で攻撃しているが、効果は薄い。

(隙間……試してみるか!)


「もう押さえられないわ~!」

 ヴィヴィアンが泣きそうな声で叫ぶ。


 ユークは最も使い慣れた攻撃魔法で、ソルジャーアントの関節を狙う。


「危ない、ユーク!」


 ついにヴィヴィアンの防御が突破され、ソルジャーアントがユークに迫る。しかし、ユークは冷静に狙いを定め、魔法を放った。


「《フレイムアロー》!」

「ギ!?」


 炎の矢がソルジャーアントの装甲の隙間に命中し、大きな傷口を作る。


「おおおおおおおお!」

 その瞬間、追いついたセリスが一気に斬りかかり、ソルジャーアントの頭をはねた。


「生き残った~!」

 ユークは叫んだ。


 三体のソルジャーアントとの激戦を何とか突破し、ユークたちは階層の最奥へとたどり着いた。


「はぁ……何とか次の階への階段まで来たけど……」

 三人を見ると、怪我こそないものの、さすがに疲労が見え始めていた。


「ちょっと早いけど、そろそろ帰ろうか」

 ユークが提案すると――


「うんっ!」

「オッケーよ!」

「分かったわ〜」

 三人は迷うことなく頷いた。


 

 探索を終え、彼らはギルドへ戻る。


 ユーク一人が精算へ向かい、三人はロビーで待つことにした。


 しばらくして、精算を終えたユークが戻ってくる。

「ただいま」


「「「おかえり〜」」」

 三人は揃ってユークを迎えた。


「これが今日の探索の分」

 ユークは精算した報酬を三人に手渡す。一人あたり520ルーン。


「おお〜!」

「すご〜い!」

「やっぱり十階以上になると稼げるわね!」

 三人は報酬の額に目を輝かせた。


 ユークにとっても、この金額はありがたかった。あれ以来、レストランでの食事にハマってしまい、食費がかさんでいたからだ。


「どうする? これから打ち上げでもする?」

 ユークが尋ねる。行く場所はもちろん、アウリンに連れて行ってもらったあのレストランだ。


「そうね、ちょっと早いけどいいかもしれないわね」

「楽しみだわ〜」

「早く行こうっ!」


 ユークたちは、一歩一歩、着実に前へと進んでいた。




◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.14)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

備考:リーダーとしての振る舞いが板についてきた。

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セリス(LV.14)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

備考:走り回ったから流石に疲れた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

アウリン(LV.15)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

備考:人に説明するのが好き。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ヴィヴィアン(LV.15)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

備考:ずっと置物だったことを結構気にしてる。

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