第246話 交わる鼓動、重なる魔力
「――俺を信じてくれ、アウリン!」
血と灰の匂いが入り混じる戦場の中、ユークの声だけがまっすぐに響いた。
「……ふむ、面白そうじゃ。どんな策か、聞かせてみい」
テルルが低く言う。その声には、興味とわずかな期待がにじんでいる。
ユークは短く息を吸い、迷いを振り払うように顔を上げた。
「俺のEXスキル、リミット・ブレイカーを、アウリンと一緒に使うんだ! そうすれば、あの霊薬を使うよりもずっと威力が出る!」
「は? ……今、なんて言ったの?」
アウリンが驚きの声を上げる。
「……ふむ、それが可能であるのならば、確かに魔法強化の霊薬を使わずに済むかもしれん……」
テルルは感心したように静かに息を吐いた。
「待って。リミット・ブレイカーって、ユーク専用の強化スキルでしょう? それをどうやって私に使うつもりなの?」
アウリンが訝しげに尋ねる。
「確かにリミット・ブレイカーは、俺一人だけを限界まで強化するスキルだ。けど――このスキルの性質自体は《《強化魔法》》なんだ。つまり、俺を中心にした魔法陣の範囲に他の人がいれば……その人にも効果を与えられるはずだ」
ユークはいったん息を整え、続けた。
「問題は、その範囲が“俺ひとり分”しかないってこと。けど……もしアウリンと俺が、ぴったりとくっついていれば――二人同時に効果を受けられるかもしれない」
誰もすぐには言葉を返せなかった。
戦場の喧騒の中で、三人の間に短い沈黙が落ちる。
「……確かに理にはかなっとる。じゃが、それは本当に可能なのか?」
テルルが難しい顔で問う。
「な、何それ……! そんなの、無理に決まってるじゃない!」
アウリンが声を張り上げた。
「いいか! 例え、あの霊薬を使ったって、勝てる確率は低いんだ!」
ユークが叫ぶ。
「だけど、この方法なら勝てる可能性は大幅に上がる。だったら――少しでも可能性がある方に賭けたいんだ!」
ユークは拳を固く握り締め、一歩も引かないというようにアウリンを見た。
アウリンは唇を噛み、視線を逸らす。
その横顔は、いつもの強気な彼女とは違い、かすかに怯えて見えた。
「……本気で言ってるの? それ……」
ユークは、その怯えた問いに答えず、ただ強く頷く。
「ああ。本気だよ、アウリン」
ユークは一歩近づき、彼女の瞳をまっすぐ見つめた。
その目の奥にある恐れも迷いも、すべて包み込むように。
一瞬、戦場の音が遠のく。
アウリンはそっと目を閉じ、深く息を吐いた。
やがて――覚悟を宿した瞳がユークを見返す。
「……わかった、ユーク。私、あなたを信じるわ」
「ありがとう。本当に」
ユークが静かに微笑む。その表情には、安堵と決意が同居していた。
「ふむ、それがお前たちの選択か。ならばワシもそれに協力するとしよう」
テルルは腰を上げ、大鎌を出現させる。
「時間は必ず稼いで見せる! だから思うようにやるんじゃ、二人とも!」
そう言って、テルルは戦場へと駆け出していった。
◆ ◆ ◆
彼女の銀の髪が舞い、巨大な大鎌が唸りを上げる。
「ぬんっ!」
テルルはジオードが受け持っていた触手の一本を切り裂き、その隣に並んだ。
「む。お前は確か、テルルとか言ったか。助かった」
ジオードが僅かに目線を向け、短く礼を告げる。
「おじいちゃん! ユーク君たちは!?」
ヴィヴィアンが盾で火球を防ぎながら叫んだ。
「うむ! 状況が変わった! 三十秒耐えさえすれば、ワシらの勝ちじゃ!」
テルルが声を張り上げる。
「ほう……っ!」
「すごいわ、二人とも!」
ジオードが口元を吊り上げ、ヴィヴィアンが弾む声を上げた。
「そっか……なら――『ビーストソウル2』!」
セリスが、ジルバのスキルを参考にして完成度を高めた疑似EXスキルを発動する。
肉体への負担が大きいため、ここまで温存していた切り札だ。
セリスの体が魔力の光に包まれ、限界を超える力が引き出されていく。
「ふっ……! 皆、ここからが正念場だ! 力を振り絞れ!」
ジオードが前線の仲間たちを鼓舞するように声を上げる。
「ええっ! 任せてっ。ユークくんとアウリンちゃんは、私が絶対に守ってみせるわ!」
ヴィヴィアンが力強く盾を掲げ、魔獣の攻撃にそなえるのだった。
◆ ◆ ◆
炎と剣光が戦場を再び激しく照らす中、ユークとアウリンは互いに近づいていく。
そして指を絡めあい、胸と胸を合わせてぴったりと抱き合った。
お互いの頬をくっつけあい、体を完全に密着させる。
「その……結構恥ずかしいわね……」
アウリンの頬が赤く染まる。
「……だけど、これが俺たちの“全力”の形なんだ」
ユークも照れながら言う。その声は静かだが、迷いはなかった。
「アウリン、行くよ!」
「ええっ!」
二人の呼吸がぴたりと重なる。
瞬間、世界の音が遠のき、空間そのものが静止したかのように感じられた。
ユークは意識を一点に集中させる。
強化魔法の中心点となる自分と、アウリンの魔力の流れを同調させる為に、彼は《思考分割》を最大限に展開したのだ。
アウリンの体内を巡る炎のような魔力が、触れ合った掌を通して流れ込み、彼の魔力と混ざり合う。
それをすぐさま反転させ、彼女へと返す。
魔力が循環を始めた。
青と紅の光が互いを包み、境界を失っていく。
やがて二人の鼓動が、まるでひとつの心臓のように同調した瞬間――
「――《リミット・ブレイカー》!!」
蒼白い光が爆ぜ、空気が震えた。
◆◆◆
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ユーク(LV.50)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
EXスキル2:≪思考分割≫
備考:アウリンには軽く説明したが、リミット・ブレイカーを二人で発動させるのは、実際のところかなり難しい。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
セリス(LV.50)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
EXスキル2:≪ブーステッドギア≫
EXスキル3:≪スキル・ラーニング≫
備考:『ビーストソウル2』は、ジルバのEXスキルを参考に完成させたセリスの自作スキル。強化率は圧倒的だが、反動の大きさも相応に危険。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
アウリン(LV.50)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
EXスキル2:≪コンセントレイション≫
備考:ユークが何かを隠していることには気づいていた。それでも信じると決めた以上、迷わず彼にすべてを託した。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ヴィヴィアン(LV.50)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
EXスキル2:≪インヴィンシブルシールド≫
備考:ドミネイトアーマーの支援と、魔法を無効化する盾によって、戦場でも確実に守りを維持している。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
テルル(LV.44)(+20)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:大鎌の才(大鎌の基本技術を習得する)
EXスキル2:≪ソウルイーター≫
備考:大人の姿となり、魔獣のオーラにも耐えられるようになった。子供の姿の時から異常だった身体能力が、成長した今ではさらに洗練されている。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
アン(LV.2)
性別:女(精霊)
ジョブ:霊樹の管理精霊(若芽の腕輪に宿る)
スキル:霊樹の加護(ユークの全能力をわずかに向上させる)
備考:ユークの“循環”を陰ながらサポートしていた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ジオード(LV.90)
性別:男
ジョブ:剣聖
スキル:剣術の真髄(すべての剣の基本技術を習得し、剣技の威力を大きく向上させる)
EXスキル:≪オーラブレイド≫
EXスキル2:≪ディバインアーマー≫
備考:彼とジルバは、魔獣のオーラを自力で押し返している。精神力の強さは常人の域を超えている。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ジルバ(LV.82)
性別:男
ジョブ:剣士
スキル:剣の才(剣の基本技術を習得し、剣の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪|ディメンション・スラッシュ《次元斬》≫
EXスキル2:≪鬼神モード≫
備考:いまだに意識は戻らず。度重なる負担が原因と思われる。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ルベライト(LV.100)
性別:女
種族:魔獣
備考:壊せそうで壊せない守りに苛立ちが限界に達している。だが、もうすぐ本体の魂が届くと確信しており、その時こそ全てを蹂躙できると高をくくっている。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




