第244話 魔獣、再臨
「すごい……本当に倒しちゃったわ……!」
アウリンが胸に手を当て、深く息を吐いた。
「……やったのか……?」
ユークが呆然と呟く。
ジオードとジルバの一撃により、魔獣の肉体は粉々に砕け、残るのは石化した二本の足だけだった。
「……でも、大賢者さまでも封印しかできなかったモンスターを、本当にこれで倒せたのかな……」
ユークが眉をひそめると、アンの声が応じた。
『封印は完全に解けたわけではありません。破られた部分を滅ぼせば、封印自体は維持されるはずです』
「……そうか。なら、これで本当に終わりか」
ユークが胸をなで下ろす。
「これで……やっと終わったのね」
アウリンもほっと微笑んだ。
その静けさは、ほんの一瞬だけ続いた。
(……あれ?)
影の塔の根幹システムを確認していたアンが、異常な反応を検知する。
(封印のシステムが……改造されている? これは――)
『まずいっ! 今、魔獣に魂のエネルギーが送り込まれました! “マスター、まだ終わっていません!”』
「なっ……!?」
ユークが反射的に顔を上げる。
「ジオードさん!!」
――そのころ、ジオードたちは勝利の余韻に浸っていた。
「……終わったか」
ジルバが肩で息をしながら剣を下ろす。
「ええ、そのようですな」
ジオードは静かに頷いた。
「案外、あっけないものだったな……」
感慨深くジオードが顔を上に向ける。
だがその瞬間、空気の流れが変わった。
散らばったはずの肉片が、ひとりでに集まり始めていたのだ。
紅い魔力に包まれながら、粘りつくように形を取り戻していく。
「ジオード殿下っ!」
ジルバが咄嗟に身を投げ出し、彼の前へと躍り出た。
「なっ、《オーラブレード》!」
光の剣が走り、迫りくる触手を蒸発させる。
しかし、その代償は大きかった。
触手の一撃がジルバの腹部をかすめ、深くえぐり取っていたのだ。
「爺っ! 大丈夫か!」
ジオードは倒れたジルバのそばに膝をつき、必死に声をかける。
「ぐっ、ううう……」
ジルバは腹を押さえ、苦痛に顔を歪めるだけだった。
「ジオードさん! 戻って下さい! ジルバさんの治療をしないと!」
ユークが無詠唱で魔法陣を描きながら叫ぶ。
「くそっ、行くぞ!」
ジオードは彼を抱え、封印の間の床を駆け抜けた。
背後では、なおも無数の肉片がうごめき、触手となって追いすがる。
「《フレイムボルト》!」
「《フレイムアロー》!」
ユークとアウリンが同時に魔法を発動し、炎の矢が触手を焼き払った。
ジオードたちはようやく合流を果たす。
「爺……」
ジオードは沈痛な表情で、傷ついたジルバを床に横たえた。
EXスキルの副作用で、彼の全身は見る間に衰弱していく。
「これを! 霊薬の樹液から作った霊薬よ!」
アウリンが瓶を差し出し、急いでジルバに飲ませた。
わずかに血色が戻るが、致命傷の癒しには程遠い。
「師匠!」
アウリンが叫ぶと、すぐ傍にいたテルルが前へ出る。
「分かった。《モンスター生成》!」
掌に光の陣が浮かび、銀の虫が生み出された。
それがジルバの傷口に触れると、光の粒となって彼の体へと溶け込む。
やがて、傷が塞がり、呼吸が安定していった。
「……助かった。恩に着る」
ジオードが静かにお礼を言うと、テルルは短く頷いた。
「見た目は治っても、内側はまだ治療中じゃ。動かすでないぞ。それと――奪った魂も尽きた。もう回復はできん!」
その言葉に、全員の表情が険しく変わる。
「ヤツはどうなっている!?」
ジオードが問うと、アンの声が響いた。
『今、再生が終わった所です!』
赤黒い光が部屋を満たす。
散らばった肉片が溶け合い、空間を歪ませながら融合していく。
やがて、その中心から、黒く爛れた皮膚と紅い結晶をまとった巨体が姿を現した。
王冠のような角、爬虫類の顔。
それは、かつてよりもさらに禍々しい姿となって蘇ったのだ。
『よくも……やってくれたな、虫けらどもが!!!』
その声に込められた怒気が、空気を震わせる。
これまでとは比較にならないほどの、濃密で粘質な魔力が悪意となってユーク達にのしかかってくる。
「そんな……あれだけやっても元通りどころかパワーアップするなんて……もう、無理じゃないか……」
ユークが力なくつぶやいた。
『いえ、待ってくださいマスタ―。魂が送り込まれた瞬間に塔の封印システムに侵入することが出来ました! システムは私が修復して見せます! そうすればあともう一度倒せば、それで終わりです!』
アンがユークの目の前に出現し、胸をはって言い切った。
「倒せばって言っても……」
ユークが魔獣の姿を見る。
『おおおおおおおお!!!!』
魔獣の背が裂け、暗赤色の皮膚を突き破って八本の触手が生えていく。
「……あれを、本当に……?」
とてもじゃないが、もう一度倒せるとは思えなかった。
「ユーク! 見てほしいものがあるの!」
アウリンが声をかけてくる。
彼女の手には、見たことのない輝きを放つ、小さな小瓶が握られていた。
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ユーク(LV.50)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
EXスキル2:≪思考分割≫
備考:絶望の中、勝利の為に考えを巡らせている。
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セリス(LV.50)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
EXスキル2:≪ブーステッドギア≫
EXスキル3:≪スキル・ラーニング≫
備考:再生した魔獣の力に警戒心を強めている
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アウリン(LV.50)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
EXスキル2:≪コンセントレイション≫
備考:勝利のため、危険な霊薬を使う覚悟を固めた。
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ヴィヴィアン(LV.50)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
EXスキル2:≪インヴィンシブルシールド≫
備考:敵の強大な力を感じ取り、防御に徹することを意識している。
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テルル(LV.44)(+20)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:大鎌の才(大鎌の基本技術を習得する)
EXスキル2:≪ソウルイーター≫
備考:愛弟子に再び無茶をさせねばならぬ状況に、心を痛めている。
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アン(LV.2)
性別:女(精霊)
ジョブ:霊樹の管理精霊(若芽の腕輪に宿る)
スキル:霊樹の加護(ユークの全能力をわずかに向上させる)
備考:ユークたちのため、必死に影の塔の解析を進めている。
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ジオード(LV.90)
性別:男
ジョブ:剣聖
スキル:剣術の真髄(すべての剣の基本技術を習得し、剣技の威力を大きく向上させる)
EXスキル:≪オーラブレイド≫
EXスキル2:≪ディバインアーマー≫
備考:自分が最後まで油断しなければ、ジルバを傷つけずに済んだのではないかと自責している。
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ジルバ(LV.82)
性別:男
ジョブ:剣士
スキル:剣の才(剣の基本技術を習得し、剣の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪|ディメンション・スラッシュ《次元斬》≫
EXスキル2:≪鬼神モード≫
備考:テルルの治療のおかげで命に別状は無い。現在治療中。
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ルベライト(LV.80)→(LV.100)
性別:女
種族:魔獣
備考:さらに封印が解けてレベルも上昇した。もはや、万全の状態のジオードたちでも倒すことは出来ないだろう。
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