第241話 限界を超える意志
「――状況は理解しておる。ヴィヴィアンや、どうかワシを手伝ってはくれんか?」
声をかけてきたのは、魔獣の放つ凶気に当てられて動けずにいたテルルだった。
「……わかったわ。何をすればいいの? おじいちゃん!」
ヴィヴィアンの瞳に、わずかに光が戻る。
彼女の中で、もう一度立ち上がる覚悟が灯った。
「うむ。まずは皆に治癒の霊薬を飲ませてやってくれ。多少なりとも傷が癒えるはずじゃ!」
頷いたヴィヴィアンはすぐに駆け出し、アウリンの荷物を探る。
血と焦げの匂いが漂う中、手探りで瓶の感触を確かめ――。
「あった……!」
小さく息をつき、すぐに立ち上がる。
「セリスちゃん、これを!」
彼女は瓶のひとつを、床に座り込み息を荒げるセリスに差し出した。
「ありがとう、ヴィヴィアン」
セリスは短く礼を言い、霊薬を一気に飲み干す。
頬にわずかな血色が戻り、荒かった呼吸が落ち着きを取り戻した。
「ごめんなさい、セリスちゃん。アウリンちゃんのことをお願い出来るかしら?」
差し出されたもう一本の霊薬。
ヴィヴィアンは、重傷のユークを優先したいという思いから、アウリンの事をセリスに託すことにしたのだ。
「分かった! ヴィヴィアンはユークをお願い!」
セリスは力強く頷き、すぐにアウリンのもとへ向かう。
ヴィヴィアンはユークへと振り返った。
彼の身体は痛ましいほど損なわれ、骨折した脚は不自然に曲がっている。
荒い息と、滴る汗。生きているのが奇跡のような姿だった。
「お願いっ……飲んでちょうだい……!」
震える手で霊薬を口元に運ぶ。だが、ユークは意識がなく、液体は喉を通らずこぼれていく。
「そんな……このままじゃユーク君が……!」
焦りで胸が締めつけられる。
ヴィヴィアンは迷うことなくヘルムを外し、霊薬の残りを自分の口に含んだ。
「お願い、ユーク君……っ!」
唇を重ね、口移しで霊薬を流し込む。
触れた瞬間、血の味と共に、胸の奥に焼けつくような痛みが走った。
それは、守りきれなかった自分への悔しさだった。
ほんの少し――ユークの喉が動く。
霊薬が流れ込み、荒かった呼吸がかすかに整っていく。
ヴィヴィアンの胸に、安堵と涙が入り混じる。
そこへ、テルルが歩み寄ってきた。
「あ、おじいちゃん……ユーク君には飲ませ終わったわ。でも、これだけじゃ……」
俯くヴィヴィアンに、テルルは笑みを浮かべる。
「大丈夫じゃ。まあ、見ておれ」
そう言うと、テルルは魔獣の切り落とされた触手の残骸へと向かった。
静かに大鎌を構え――。
「――《ソウルイーター》!」
テルルの持つ大鎌が淡い光を放つ。
その様子に、ヴィヴィアンは息を呑んだ。
「え、そのスキルは……さっき使ったばかりじゃ……!」
驚くヴィヴィアンの声をよそに、テルルは大鎌を振るい、次々と魔獣の触手を切り裂いていく。
切り口からあふれ出た魂のエネルギーが、大鎌へと吸い込まれていった。
「――《モンスター生成》」
『ソウルイーター』によって大鎌に蓄えられた魂を媒介にして、テルルの手の平に魔法陣が展開する。
光の粒子が舞い上がり、その中から銀色の虫のようなモンスターが姿を現した。
「来いっ! 超力虫!」
テルルは手のひらでそれを受け止め、軽く息を吹きかける。
すると、銀の光が柔らかく揺らめき、虫は霧のように彼女の身体へと溶けていった。
「な、何を……!?」
突然の光景に、ヴィヴィアンが目を見開く。
「ワシは動けぬ間、ずっと考えておった! どうすれば、この身を再び戦場に立たせられるかを!」
テルルの身体から、低い軋むような音が響いた。
骨格が組みかわり、筋肉が膨張し、彼女の全身を急激に作り変えられていく。
「そして思いついたのじゃ! ヤツの圧に負けるのなら――ヤツの力で、圧に負けぬよう、肉体に強化してしまえばいい!」
肉体の急激な変化に伴う苦痛に顔をゆがめながらも、テルルは笑っていた。
その笑顔は、再び仲間たちと並び立てる事への喜びなのだ。
「ふぅ……この視点の高さも、久々じゃな……」
成長が収まったとき、そこに立っていたのは、もう幼い少女ではなかった。
銀の髪は背まで流れ、白いワンピースは身体の変化に追いつけず、彼女の成熟した曲線を際立たせている。
裾の短くなった布地の隙間から伸びる脚はしなやかで、見る者を思わず息を呑ませるほどだった。
その紅い瞳だけは、かつての幼さをわずかに残しながらも、どこか神秘的な光を宿している。
それだけでは無い、彼女の能力は、目に見えて分かるほど跳ね上がっていた。
(LV.44 → LV.64)
「お、おじいちゃん……!?」
ヴィヴィアンは呆然としたまま、声を失う。
「まあ、安心しろ。今の姿は一時的なものじゃ。だがこれでワシも戦える!」
テルルは力強く前を見据え、再び手をかざした。
「――《モンスター生成》」
今度は四体の銀の虫が、彼女の掌から生み出される。
「二人共。ワシを信じてくれるか?」
突然の問いかけに、セリスとヴィヴィアンは一瞬だけ視線を交わし、黙って頷いた。
――それだけで十分だった。テルルは静かに息を整える。
「感謝する。ゆけっ――再生虫!」
放たれた虫たちは光の粒子へと変わり、仲間たちの身体へと溶け込んでいく。
「わっ!」
「きゃっ!」
次の瞬間、セリスとヴィヴィアンの傷口が淡く光を放ち、ゆっくりと閉じていった。
血の匂いが薄れ、ユークとアウリンの呼吸も穏やかさを取り戻す。
「……本当に、すごい……」
セリスが小さく息を吐く。
戦場に、わずかな安堵が広がった。
「助かったわ……おじいちゃん、本当にありがとう」
ヴィヴィアンがほっとした笑みを浮かべた。
「うむ、上手くいってよかった」
テルルが手に持った大鎌を持ち上げて、にっこりと笑う。
「そういえば、おじいちゃん。どうしてEXスキルが使えたの?」
ヴィヴィアンが疑問を口にした。
本来なら、テルルがEXスキルをもう一度使うには時間が必要なはずだ。
クールタイムが終わるには、まだ早すぎる。
「うむ、それはな――」
テルルが説明しようとした、その瞬間。
「みんな! あいつが何かしようとしてる!」
セリスの声に全員が顔を上げた。
魔獣は天蓋をじっと見据え、せわしなく魔力を巡らせていた。
『なるほど……この壁は、触れた魔法を分解しているだけか。なら――』
低く響く声とともに、魔獣の掌がわずかに開く。
次の瞬間、無数の炎球が空間に生まれ、まるで意思を持つかのように一斉に飛び出した。
烈火が壁面を包み込み、灼熱の光が戦場を照らし出す。
空気が震え、耳の奥を焼くような振動が走った。
バリアは必死に耐え続ける。だが――限界は近い。
きしむような音が響き、透明な膜の表面に、細く鋭い線が走った。
「ま、まずい! あやつ、この壁の破壊を狙っておるぞ!」
テルルが叫ぶ。
「ねえ! 壁が――!」
セリスの指先の先、ドーム状の障壁に蜘蛛の巣のようなひびが広がっていく。
その光景に、誰もが息をのんだ。
「二人はまだ起きないの!?」
ヴィヴィアンの声が震える。だが、ユークもアウリンも依然として目を開けない。
焦燥が胸を焼き、セリスは震える手でユークの肩を掴んだ。
「ユーク! お願い、起きて! このままじゃ――!」
必死の叫びに、かすかにまぶたが動く。
ユークが微かに目を開いた――その瞬間。
空気が裂けた。
轟音とともに、バリアが粉々に砕け散る。
六本の触手が解き放たれ、稲妻のような速度で襲いかかってきた。
地面を抉り、風圧だけで肌を切り裂くほどの力。
「きゃあっ!」
「くっ……!」
絶望が一瞬で戦場を支配する。誰もが次の瞬間の死を覚悟した。
だが――
「――《オーラブレイド》!!」
金色の閃光が走った。
斬撃が空間を切り裂き、触手をまとめて吹き飛ばす。
『なっ……!?』
爆ぜるような衝撃とともに光が弾け、魔獣の巨体がたじろいだ。
「ふっ……お前たちはいつもピンチになっているのだな」
その声とともに、黄金の鎧を身にまとった男が立っていた。
魔獣とユークたちの間に割り込むようにして。
『きさま……何者だ!』
魔獣が憎しみの表情を浮かべて男を見る。
「俺の名はジオード。そこに寝かされているアウリンの兄であり、ユークの友人だ!」
金の瞳が鋭く輝く。
「よくも二人を傷つけてくれたな――貴様、覚悟するがいい!」
「ジオード殿下……!」
ヴィヴィアンは震える声でその名を口にする。
戦場に、再び希望の光が差し込んだ。
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ユーク(LV.50)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
EXスキル2:≪思考分割≫
備考:テルルの虫のお陰で骨が修復され、足りない肉は再生虫によって補填された、治癒の霊薬の効果も相まって、肉体的にはほぼ完全に回復した。
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セリス(LV.50)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
EXスキル2:≪ブーステッドギア≫
EXスキル3:≪スキル・ラーニング≫
備考:再生虫によって折れていた骨が元の位置に戻され、修復された。すぐにでも戦える状態。
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アウリン(LV.50)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
EXスキル2:≪コンセントレイション≫
備考:重症だったが、再生虫によって肉体的には完全に回復した。
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ヴィヴィアン(LV.50)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
EXスキル2:≪インヴィンシブルシールド≫
備考:細かい傷や体力が完全に回復した。
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テルル(LV.44)(+20)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:大鎌の才(大鎌の基本技術を習得する)
EXスキル2:≪ソウルイーター≫
備考:魔獣の魂を利用して自身のレベルを上げた。だが、これは一時的なものですぐに元に戻ってしまうだろう。だがこの戦闘中だけ持てばいいので彼女にとっては問題なかった。
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アン(LV.2)
性別:女(精霊)
ジョブ:霊樹の管理精霊(若芽の腕輪に宿る)
スキル:霊樹の加護(ユークの全能力をわずかに向上させる)
備考:ユークの傷が治癒してホッとしている。
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ルベライト(LV.80)
性別:女
種族:魔獣
備考:後ちょっとの所で邪魔をされて、はらわたが煮えくり返っている。
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