第237話 魔獣、覚醒
石像の殻を破って現れたその姿は、おぞましくも神々しかった。
全身を覆うのは、暗赤色に爛れた皮膚。
その表面は硬質な外骨格のように波打ち、見る者の心を圧するように隆起している。
背や肩からは、禍々しい紫の結晶が鋭く突き出し、王冠のように角ばった頭部には、ねじ曲がった黒い枝のような角が絡み合って生えていた。
顔は爬虫類を思わせる冷たい造形。
引き裂かれた口からは鋭い牙がのぞき、血のように赤い双眸は、悪意と狂気を宿して爛々と輝いている。
『グオオオオオオオオオオッ!!』
咆哮が封印の間を揺るがす。
それは単なる音ではなかった。地面を震わせ、空気を裂き、ユークたちの魂を叩きつけるような暴力そのものだった。
「な……なんだ、あれ……」
ユークの口から、かすれた声が漏れる。
先ほどまでのルベライトの威圧など比べものにならない。存在そのものが放つ重圧に、再び身体の自由を奪われる錯覚に陥った。
「っ、アン! あれが、魔獣!?」
アウリンが震える声で叫ぶ。
『はい! 間違いありません! 封印されていた“魔獣”そのものです!』
アンの警告が響く。
誰も言葉を発せず、ただ立ち尽くした。とても戦える相手ではない。
魔獣は赤い双眸を細め、ゆっくりとユークたちを見下ろす。
『よくも……わらわの精神体を壊してくれたな……まだ不完全だが、まあいい。前たちを片付けたあとで、ゆっくりと封印を解除するとしよう』
その口元に、凶悪な笑みが浮かぶ。
(……精神体、だと?)
ユークの全身から血の気が引いた。
自分たちは、あのルベライトを殺すことで、魔獣の復活を速めてしまったのだ。
「嘘だろ……俺たちが、原因、なのか……」
その声は、咆哮の余韻にかき消された。
『マスター! 魔獣はまだ完全に封印が解けてはいません!』
アンの声が響く。
「なんだって!?」
ユークは息をのんで魔獣を見る。
確かに、魔獣の下半身はまだ石化したまま。岩盤に根を張るように動けずにいた。
(動けない……今なら!)
ユークは全身の震えを押し込み、素早く詠唱を走らせる。
「――《ストーンブレイカー》!」
超圧縮された岩の弾丸が生成され、魔獣の胸元を狙って撃ち込まれた。
しかし、弾丸は暗赤色の皮膚にぶつかり、粉々に砕け散ってしまう。
魔獣は微動だにしない。まるで効いていないようだった。
「嘘だろ……硬すぎる……!」
ユークの顔に絶望が浮かぶ。
『ふん。たかが小石で、妾に傷がつくとでも思ったか?』
魔獣は鼻で笑った。
次の瞬間、背中が不気味に波打ち、外骨格を突き破って暗赤色の触手が四本、音もなく生えてくる。
それらは生きた蛇のように蠢き、光を反射して不気味な光沢を放っていた。
「な、なにあれ!?」
「触手……まさか、あれで攻撃を!?」
セリスとアウリンが叫ぶ。
「アウリン!」
ユークが叫ぶ。
「ええ! みんな、私のEXスキルを使うわ! 三十秒だけ持たせて!」
アウリンの言葉に、ユークたちは頷いた。
「分かった」
「任せてっ!」
「《コンセントレイション》!」
アウリンの足元に複雑な魔法陣が展開される。
魔力を極限まで凝縮し、魔法の威力を最大二倍まで引き上げる集中スキル。
この集中が途切れれば、全てが無駄になってしまう。
『ほう、小賢しいな』
魔獣の赤い瞳にわずかな興味が宿る。
『だが、そんな無駄な時間をくれてやるほど、妾は優しくない。すぐに終わらせてやろう』
四本の触手が同時にしなり、鞭のように襲いかかった。
「『オーラブレード』!」
セリスが槍に魔力の刃をまとわせ、触手を弾いていく。一本、二本、三本――
しかし衝撃は凄まじく、三本目を防いだ瞬間、セリスの身体が吹き飛ばされる。
「ぐっ……!」
体勢を崩しながらも何とか着地。
だが、残る一本がユークとアウリンへ迫っていた。
『散れ……!』
(くそっ、間に合え!)
「《ストーンスタンプ》!」
ユークが魔法陣を展開する、超圧縮された石柱が伸びていき、触手の一撃を迎撃した。
しかし魔獣は動じない。手のひらを向け、その先端から血のような炎の玉を三つ放つ。
それらはまるで意思を持つかのように軌道を変え、目をつぶって集中しているアウリンへと向かって飛んで行った。
「《ストーンウォール》!」
ユークが石壁を出現させ、一つは防いだ。
「くらえっ!」
手持ちのカウントボムをいくつも使い、もう一つを破壊する。
だが、まだ一つ残っている。
「まずい! 防ぎきれない!」
セリスは触手の防御に手一杯。
残る炎の一つが、集中を続けるアウリンを正確に狙っていた。
(このままじゃ、アウリンが……!)
ユークは魔法で防ぐことを諦め、身体を盾にして飛び出した。
(くそっ、これは……!)
灼熱の炎が迫り、ユークは死を覚悟する。
だが――
炎の玉がユークに届く直前、誰かが割り込み、炎を完全に受け止めた。
そして、その瞬間――炎は消えた。まるで最初から存在しなかったかのように。
「え……?」
ユークが顔を上げると、そこに立っていたのは、先ほどまで倒れていたはずのヴィヴィアンだった。
「ヴィヴィアン!?」
「ユーク君は下がっていて!」
彼女の瞳に、強い意志が宿る。
『防いだか、ならばこれならどうかな?』
だが魔獣は止まらない。次の瞬間、再び手のひらから無数の炎の玉を放つ。
それらはセリスやヴィヴィアンを避けるように軌道を変え、飛来した。
「《インヴィンシブルシールド》!」
ヴィヴィアンの盾から光が溢れ、半透明の盾が次々と生成される。
炎の玉が触れるたび、盾は砕け散り、爆発を相殺していく。
『貴様! またしても小賢しい真似を!』
魔獣の怒声が響く。
だがその間に――
「――完了したわ!」
アウリンが目を見開き、溜め込んだ魔力を解き放った。
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ユーク(LV.50)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
EXスキル2:≪思考分割≫
備考:魔獣が生み出した炎の玉からアウリンを守るため、自分の身を盾にしようとした。自然と体が動いてしまたのだ。
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セリス(LV.50)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
EXスキル2:≪ブーステッドギア≫
EXスキル3:≪スキル・ラーニング≫
備考:ジオードの使っていたEXスキルをスキル・ラーニングでコピーした。それでもなお、本来の力は扱えていない。
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アウリン(LV.50)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
EXスキル2:≪コンセントレイション≫
備考:コンセントレイションによって威力を高められた、イグニス・レギス・ソリス。さらにこのスキルはアウリンが五十レベルになったときに強化されている。
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ヴィヴィアン(LV.50)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
EXスキル2:≪インヴィンシブルシールド≫
備考:意識を失っていたが、魔獣との戦闘中に目を覚ます。仲間たちを守るために全力でユークたちの元へ走った。
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テルル(LV.44)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:大鎌の才(大鎌の基本技術を習得する)
EXスキル2:≪ソウルイーター≫
備考:魔獣の咆哮によって、体が震えて動けなくなっている。
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アン(LV.2)
性別:女(精霊)
ジョブ:霊樹の管理精霊(若芽の腕輪に宿る)
スキル:霊樹の加護(ユークの全能力をわずかに向上させる)
備考:戦闘は手伝えないので邪魔にならないように腕輪のなかに引っ込んでいる。
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ルベライト(LV.60)
性別:女
種族:魔獣
備考:コピーされた魔獣の肉体に本体の魂を移しつつ封印を解除していたが、それを行っていた肉体を破壊されてしまったため、作業は中断。中途半端な形での復活を果たしてしまった。
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