第232話 神速の連撃
「――《リミット・ブレイカー》!」
ユークの全身から青白い魔力の光があふれ出す。
それは彼の全能力を《《三十秒間だけ》》五倍に引き上げる、規格外の強化魔法だ。
だが、発動後は二十四時間、ジョブの機能が停止するという重い代償を伴っていた。
『はははははっ! 死んでしまえっ!』
セドニーがアークガーディアンに止めを刺そうと、黒い粒子で作り上げた剣を振りかぶった。
その瞬間、ユークが魔法を放つ。
「拘束しろ――『ラビリンス』!」
無数の魔法陣が展開し、二十メートルを超える巨体を、圧縮された石の柱が格子状に絡みつき、完全に拘束した。
『何なんだこれは!? 動くことができないっ!』
無数の石の柱で拘束されたセドニーが、忌々しげに叫ぶ。
(これで奴の動きは止まった! 次だ!)
――残り二十五秒
「なんじゃこの複雑な魔法は……しかも、この規模をたった数秒で……信じられん……!」
テルルはアークガーディアンの装甲を剥がす手を止め、息を呑んだ。
ユークはセドニーの巨体がラビリンスに囚われているのを確認すると、思考を加速させる。
(まずはあのローブを何とかしなくちゃいけない……)
ユークは高速化された思考で、セドニーを倒す方法を何十通りと考えていく。
(……よしっ! やり方は決まった。後は間に合うかどうかだ!)
――残り二十秒
「『プロミネンス・ジャベリン』!」
ユークは即座に、アウリンの得意とする炎の上級魔法を放った。炎の槍はラビリンスに拘束されている、セドニーの巨体に直撃する。
しかし、ローブの表面で光が黒い靄に吸い込まれ、威力が半減したかのように、魔法がかき消されてしまった。
『馬鹿馬鹿しい。そんなもの、私に効くと思っているのですか!?』
「『コキュートス・ファング』!」
ユークは続けて氷の上級魔法を放つ。極低温の氷柱は、やはり魔法の威力が半減したかのように消えた。
『なに!?』
「『プロミネンス・ジャベリン』!」
「『コキュートス・ファング』!」
ユークは二種類の上級魔法を、休むことなく交互に放ち続けた。
その間隔はどんどん短くなり、熱と冷気が重なっていく。
『ちっ! 鬱陶しい、まずはこの邪魔な拘束を砕いてくれる!』
全身の筋力を爆発させ、セドニーは自らを拘束する石の柱の一部を力ずくでへし折っていく。
「まだだっ! 『ラビリンス』!」
ラビリンスは即座に魔法陣を自動展開し、破壊された箇所だけでなく、周囲にもさらに石の柱を何重にも追加投入する。
『ああああ! 邪魔だ! 何だこれは! 壊しても壊しても生えてくる。』
さらなる力で強引に石柱を破壊しようとするが、壊されるそばから別の石柱を追加され、拘束力を増すばかりだ。
「『プロミネンス・ジャベリン』!」
「『コキュートス・ファング』!」
ユークはその間も二種類の上級魔法をひたすら交互に撃ち続けていた。
『そんなもの、何度攻撃しようと効かないんですよ! 』
プロミネンス・ジャベリンとコキュートス・ファングを浴びるように受け続けても平然としているセドニーだったが、セドニーの巨体を覆う灰色のローブは魔法の熱量と冷気に耐えきれず、面積を小さくしていく。
やがて赤炎の槍がとうとう、ローブの守りを突破し、轟音と共にセドニーの胸を貫いた。
『ぐっ! これはローブの守りが突破された!?』
プロミネンス・ジャベリンの熱を感じて驚愕の表情を浮かべるセドニー。
『だがその程度の魔法で私の鎧(竜鱗)を突破することなど、できはしない――!』
「『コキュートス・ファング』!」
今度は蒼白の氷牙が放たれ、同じ箇所を突き刺した。
『あぐっ……! なんだ!?』
セドニーの鱗に僅かなひびが走る。
「そうか……っ! 急激な熱膨張と冷却収縮を繰り返して、鱗を脆くしておるんじゃ!」
テルルの声が震える。
「『プロミネンス・ジャベリン』!」
「『コキュートス・ファング』!」
熱と冷気がぶつかり合うたび、セドニーの身体が軋み、鱗が砕け散っていく。
『馬鹿な……私の鎧が……!』
――残り十秒
「これで終わりだ!」
ユークは最後の魔法を放つべく、両手を前に突き出した。
「貫け! 『グングニル』!」
まるで削岩機のように回転する、岩塊のトゲが生えた巨大な槍がセドニーの正面に出現する。
『……やめろ。まさか、それを私に……っ!』
回転する巨槍は、自らを遮る『ラビリンス』の無数の石柱を、轟音と火花を上げながら容赦なく粉砕し、一直線にセドニーとの距離を詰める。
その勢いは一切衰えることなく、脆くなったセドニーの肉体へと突き刺さった。
『ああああ!! 痛いっ! 痛いい!!』
炎と氷で脆くなっていたセドニーの肉体は、石の柱の物理的な攻撃に為す術もなく解体されていく。
『バカな……この私が……こんなところで……ッッ!!!』
セドニーの断末魔の叫びが、空間にこだましながら、急速に掻き消えていく。
全身を巨大な石槍に貫かれたセドニーは、そのまま力を失い、細かい破片となって崩壊し始めた。
ラビリンスの石柱も役割を終え、音もなく霧散していく。
ユークは、崩れ落ちるセドニーの残滓を、静かに見つめていた。
――残り三秒
「すごい……!」
セリスが喜びの声を上げる。
「見事じゃ……!」
テルルはユークの魔法に深く感銘を受けていた。
ユークは肩で息をしながら、リミット・ブレイカーの解除を待った。
セドニーがいた場所には、崩れ落ちた巨体の残骸しか残っていなかった。
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ユーク(LV.50)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
EXスキル2:≪思考分割≫
備考:『ラビリンス』は魔法陣でマクロを組むことで、拘束用の石柱を自動生成し続ける、ユークのオリジナル魔法だ。
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テルル(LV.44)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:大鎌の才(大鎌の基本技術を習得する)
EXスキル2:≪ソウルイーター≫
備考:アウリンたちはテルルとセリスの手によって無事に救出された。
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セドニー(LV.??)
性別:男
ジョブ:無し
スキル:無し
備考:強力な破壊衝動に精神が引きずられてしまった、もっと冷静に戦えていれば結果は違っていたかもしれない。
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