第231話 最強の怪物
「……来る!」
黒い霧が渦を巻き、やがてその中から異形の巨体が姿を現した。
二十メートルを超える巨人の肉体。だが、その頭部は猛々しいドラゴンの顔に変貌していた。
全身は太陽の光すら吸い込むような黒い鱗に覆われ、巨人の手足は鋭い竜の爪と化している。
さらにその上から、魔力を秘めた灰色のローブがゆったりと覆いかぶさっていた。
周囲には黒い粒子が絶えず漂い、まるで意思を持つかのようにセドニーの手のひらへと集まり、大剣の形を成していく。
――ヘリオ博士の理想が、ここに具現化された。
「……まるで、神話に出てくる終末の魔物のようじゃな……」
テルルが低く唸る。
『これが……ヘリオ博士の“理想のモンスター”ですか』
最強の怪物へと変貌したセドニーは、黒い粒子で作られた大剣を興味深げに眺めた。
『中々よく出来ている。これなら、我が主の足元くらいには及べたかもしれませんね……』
巨大な身体を揺らしながら、しみじみと呟く。
『マスター! 砲撃を行います、下がってください! 全武装、展開――!』
アンの声が響き、アークガーディアンの全砲塔が起動する。
「くっ! みんな、アイツから離れろ!」
ユーク、セリス、テルルの三人は、一斉に後方へ退避した。
『ファイヤー!』
次の瞬間、無数の光弾が放たれる。
轟音が空気を揺るがし、爆発の閃光が闇を切り裂いた。
――だが。
閃光の中から、あの巨体がゆっくりと歩み出る。
ローブの表面で砲撃の光が黒い靄に吸い込まれ、まるで何事もなかったかのように消えていった。
『なっ……全部、吸い込まれた……!?』
アウリンの叫びがアークガーディアンの中から上がる。
『……無駄です。デスサイズのローブは、すべての魔法の威力を半減させる』
セドニーの低い声が響いた。
セドニーはゆっくりと大剣を振りかぶり、アークガーディアンに狙いを定める。
『このモンスターは、恐れ多くもヘリオ博士が我が主を倒すために作ろうとしていたもの。
そんな木偶ごときで戦えるはずもないでしょう!』
黒い笑みを浮かべ、大剣を勢いよくアークガーディアンへと振り下ろした。
『くっ……衝撃に備えて下さい!』
アンの悲鳴に近い声が響く。
アークガーディアンは咄嗟に腕を上げて防御するが、大剣はその腕ごと深く切り裂いた。
『そんな!? 腕が!』
アウリンが叫ぶ。
『いいえ、まだです!』
アンがすぐに反撃の命令を出す。
アークガーディアンは残った腕を振りかぶり、セドニーの巨体に全力の拳を叩き込んだ。
轟音が広間を揺らす。
――だが、セドニーは無傷だった。
『嘘でしょ!? この攻撃が効かないの!?』
アウリンの声が、明確な焦りに変わる。
『くっ……!』
アンの悔しげな声が重なった。
黒き鱗に覆われた強靭な肉体は、アークガーディアンの全力攻撃すら通さなかったのだ。
『その程度で、この最強のモンスターの相手をするつもりですか?』
セドニーの嘲笑が響く。
『パンチとは、こうやって打つのですよ!』
龍の拳を握りしめ、タイタンの筋力をもってアークガーディアンの胴を打ち据える。
『きゃあああああ!!』
アウリンの悲鳴と共に、巨体が吹き飛び、地面を抉って止まった。
「ぐっ……!」
大地が震え、ユークは地面に片膝をついて衝撃に耐える。
揺れが収まると、アークガーディアンの胸部は深く傷つき、青い魔力の光を漏らしていた。
『ははははははははは!! これが私の力か! すごい、無敵じゃないか!』
セドニーは天を仰ぎ、狂気を孕んだ笑いを響かせる。
「馬鹿なことを言うな! それはお主の力ではない!」
テルルが怒気を帯びた声で叫ぶ。
セドニーの笑いが、ぴたりと止まった。
『……何を言っているのですか?』
ドラゴンの凶相がゆっくりとテルルへと向けられる。
その瞳には動揺と、それを覆い隠そうとする怒りが宿っていた。
「その姿も、その理想も――ヘリオ博士のものだったはずじゃ! お前のものではない!」
テルルは強い否定を突きつける。
『……黙れ』
セドニーの声が、低く震えた。
「死者をもてあそぶのは、もうやめるんじゃ!」
テルルの言葉には、哀れみが滲んでいた。
『黙れぇっ!』
セドニーの声が、怒りと焦りに濁る。
「どうか、彼の魂を解放してやってくれ!」
懇願するかのように、テルルが叫ぶ。
『黙れええええええ!!!』
セドニーの顔に血走った狂気が浮かび、感情が爆発した。
『これは私の力だ! 貴様らのように才能を与えられた者たちが、ジョブを得られず、自分で力を得るしかなかった
この私を否定するな!!』
倒れたままのアークガーディアンに向かって、セドニーは手に持った大剣を大きく振り上げる。
「くそっ! このままじゃみんなが……!」
ユークが歯を食いしばり、セドニーを睨みつける。
「私が! なんとかしてみせる!」
セリスが槍を構えようとしたその瞬間――。
「待って、セリス」
ユークがその腕を押さえた。
「俺がアイツを相手をする。セリスはテルルと一緒にアウリンたちの救助に回ってくれ!」
ユークが叫ぶ。。
「え、でもユーク……っ! あんなの一人でどうにかできる相手じゃないよ!」
セリスは不安げな表情で言葉を返した。
「大丈夫、もうこれ以上アイツの好きなようにはさせない」
ユークの瞳には、強い決意が宿っていた。
「……わかった、気を付けてね」
セリスはその決意を感じ取り、不安を押し殺すように頷く。
「すまん。ワシの言葉で奴を怒らせてしまったようじゃ」
助けに向かう途中、テルルが申し訳なさそうに呟いた。
「任せて、俺が何とかする!」
ユークは二人を安心させるように、強く頷いた。
そして、彼はアウリンたちが閉じ込められたアークガーディアンと、それを破壊せんとするセドニーを真っ直ぐに見据える。
「――EXスキル! 《リミット・ブレイカー》!」
眩い光がユークの身体を包み、周囲の魔力が震えた。
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ユーク(LV.50)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
EXスキル2:≪思考分割≫
備考:仲間のピンチに、ついに最大の切り札を使う決意をした。
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セリス(LV.50)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
EXスキル2:≪ブーステッドギア≫
EXスキル3:≪スキル・ラーニング≫
備考:ユークに止められなければ、セドニーに立ち向かうつもりだった。たとえ無理だと思っていても、動くことが大事だと信じている。
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アウリン(LV.50)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
EXスキル2:≪コンセントレイション≫
備考:アークガーディアンの中にいても外との通信が繋がっており、彼女の悲鳴や叫び声を拾ってしまっている。
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ヴィヴィアン(LV.50)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
EXスキル2:≪インヴィンシブルシールド≫
備考:彼女も悲鳴を上げているが、外には聞こえていない。
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テルル(LV.44)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:大鎌の才(大鎌の基本技術を習得する)
EXスキル2:≪ソウルイーター≫
備考:ヘリオ博士には少しだけ共感していたため、思わず口に出してしまった。
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アン(LV.2)
性別:女(精霊)
ジョブ:霊樹の管理精霊(若芽の腕輪に宿る)
スキル:霊樹の加護(ユークの全能力をわずかに向上させる)
備考:必死にアークガーディアンを操っている。片腕では立ち上がるのも一苦労だ。
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セドニー(LV.??)
性別:男
ジョブ:無し
スキル:無し
備考:怒りに我を忘れ、手近な相手にその怒りをぶつけようとしている。
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