第229話 黒の大地、守護者の進軍
【影の塔 四十階】
ユークたちは、静まり返ったボス部屋で巨大な影を見上げていた。
三十メートルを超える巨体――アークガーディアンが、ゆっくりと跪いている。
「じゃあ、みんな。中に入ろう!」
ユークの合図とともに、巨体の胸部装甲が滑らかに開いた。
内部からは淡い光があふれ、足場が自動的に展開されていく。
「……これが、このゴーレムの内部……?」
最初に足を踏み入れたアウリンが、思わず息をのんだ。
中は外観からは想像もできないほど広く、通路の先には複数の制御用の石盤や補助席が並んでいる。
天井は高く、金属の壁に無数の魔法陣が走り、淡い青光を放っていた。
『はい。内部構造は外装の体積を超えて拡張されています。高密度魔力結晶を利用した異空間収納構造です』
アンが淡々と説明する。
「ちょ、ちょっと待って。どういう仕組みなの、それ……?」
アウリンが顔をしかめる。
「つまり……ダンジョンと同じ構造をしておるという事じゃな」
テルルがアンの言葉を分かりやすく解説する。
「あー。そういうことね。それなら理解できるわ」
テルルの説明にアウリンが納得したようにうなずく。
「へえ~、そうだったのか……」
ユークが素直に驚いたように声をもらす。
「ちょっと! なんで驚いてるのよ! ユークは中で戦ってたんじゃない!」
アウリンが呆れたように突っ込んだ。
「え……そうだけど。前来たときは全然気づかなかったから……」
ユークが気の抜けた返事をして、アウリンは頭を抱える。
「ほんとにもう……なんで気づかないのよ……」
「ふふふ。二人とも元気いっぱいね~」
ヴィヴィアンが小さく笑った。
『転移の準備が整いました。全員、椅子に座ってください』
やがて、アンの声が響くと、ユーク達は思い思いの場所で椅子に座る。
ボス部屋の床一面に光が走る。
次の瞬間、アークガーディアンの巨体を越えるほどの巨大な魔法陣が床いっぱいに展開された。
「こ、こんな規模の転移陣、見たことないわ……!」
アウリンが息を呑む。
『転移、開始します』
視界が白く染まり、空間がねじれた。
そして――アークガーディアンとユークたちは、次の瞬間、別の階層へと姿を現した。
転移後も、床には淡く光る紋様が残り続けている。
まるで、何かを導くための道標のように。
彼らが立っていたのは、黒い石の大地――無数の長方形の石が整然と立ち並ぶ、広大なフィールドだった。
高さは大人の二倍ほど、黒曜石のような光沢を放つそれらは、まるで無数の墓標のようにも見える。
「……なんだ、この場所は」
ユークがつぶやく。
「気味が悪いわね。空気が重い」
アウリンが眉をひそめる。
『ここは《賢者の塔》の記憶が集まっている場所です。あの長方形の石の一つ一つに《賢者の塔》を運用するための記憶がはいっているんです』
アンが説明する。
「じゃあ、壊さないように気を付けた方がいいってことかしら~?」
ヴィヴィアンが慌てて声を上げた。
『いえ、ここは複製された塔なので、ここで何をしても《賢者の塔》には影響がないので大丈夫ですよ』
安心させるようにアンが質問に答える。
「そう……それはよかったわ」
ヴィヴィアンがホッと胸をなでおろした。
『じゃあ、進みますね!』
アンの声と共に、アークガーディアンがゆっくりと歩み出した。
重厚な足音が響き、黒い石を踏み砕きながら進む。
「すごいわね、平然と壊しながら進んでるわ……」
アウリンが呆然とつぶやく。
「このサイズじゃ仕方ないな」
ユークが苦笑した。
だが――その時だった。
黒い石の影から、ぬちゃりと音を立てて“それ”が這い出してくる。
「……なにか来た!」
セリスの声が響いた瞬間、地面を覆うように赤黒い肉塊が湧き上がった。
芋虫のような胴体に無数の腕を生やしたモンスターが、うねるたびに骨の音を立てながら迫ってくる。
「……ラルヴァか」
ユークが低くつぶやく。
その数は数百以上。黒い大地を肉の波が埋め尽くしていた。
「こんな数、まともに戦っていたらキリがないな……」
余りの数の多さに辟易するユーク。
『ふふふ…… そんな時こそ、アークガーディアンの出番です!』
アンは小さな胸を張り、自慢げな表情をする。
『見ててください、マスター! 全武装、展開します――』
アンの指示と同時に、アークガーディアンの全砲塔が展開された。
光の砲身が唸り、空気が震える。
次の瞬間、巨大な光弾が放たれた。
それは着弾と同時に爆ぜ、周囲一帯を飲み込む大爆発を引き起こす。
赤黒い肉片が光に溶け、数百を超える個体が蒸発していく。
「すごいな……こんなに強かったのか……」
驚き、目を見開くユーク。
「まだっ!」
セリスが叫ぶ。
その炎の中から、さらに巨大な影が姿を現した。
「あれ、は……!」
アウリンが息を呑む。
それは、他のラルヴァよりも二回りは大きい異形だった。
赤黒く脈打つ胴体の下半身には、脚の代わりに無数の人の腕が生えている。
上半身は筋肉質な人型だが、頭部はなく、胸と腹部に無数の眼球が貼りつき、異様な光を放っていた。
「っ……気持ち悪い!」
ヴィヴィアンが顔をしかめる。
「……こいつもいたのか」
ユークが険しい表情をする。
この異形のラルヴァは以前はアウリンの『プロミネンス・ジャベリン』で倒した強敵だった。
『踏み潰します!』
次の瞬間、アークガーディアンの巨脚が振り下ろされた。
衝撃が地を割り、爆風が走る。
異形のラルヴァは抵抗する間もなく押し潰され、粘液を撒き散らして沈黙した。
「……やったか?」
ユークが息を整える。
砕けた肉塊が煙のように消え、静寂が戻った。
『もう敵はいないようです』
アンの報告が響く。
黒い大地は、再び静けさを取り戻した。
「これだけの数を、生身で相手してたら……かなり消耗してたでしょうね」
ヴィヴィアンは、自分たちが同じ状況で戦っていた姿を思い浮かべ、思わず顔を青くする。
「……ねえ」
アウリンが小さく声を上げた。
「今の戦いで使った武装、前の時は使ってなかったよね? どうしてかしら……?」
もしボス部屋での戦いでも使用されていたら、あの時の結果は違っていたかもしれなかった。
『わたしがアクセスした時、遠距離武装はロックされていました。おそらく、私の支配がまだ残っていて、使用できなかったんだと思います』
アンが冷静に答える。
『それに、通常のガーディアンたちもアウリンさんたちに対して魔法兵装は使っていませんでしたよね?』
「……確かに。あいつら、盾の上から殴ってくるだけだったわ」
アウリンは、エンシェントゴーレムに囲まれた時の光景を思い出しながらつぶやいた。
「なるほどね。じゃあ今の状態が、“こいつの本当の力”ってことか」
ユークが納得したようにうなずく。
焼け焦げた地平の先では、ラルヴァたちの影が完全に消え去っていた。
黒の回廊は静まり返り、ただアークガーディアンの重い足音だけが響いている。
そして、その視線の先――
黒の大地の最奥に、赤いローブをまとった男が一人、静かに立っていた。
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ユーク(LV.50)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
EXスキル2:≪思考分割≫
備考:これだけの武装がアウリンたちに向けられなくて良かったと心底ほっとしている。
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セリス(LV.50)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
EXスキル2:≪ブーステッドギア≫
EXスキル3:≪スキル・ラーニング≫
備考:アークガーディアンの、圧倒的な火力で敵を一掃する姿に少し興奮した。
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アウリン(LV.50)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
EXスキル2:≪コンセントレイション≫
備考:もし前回の戦闘でこの遠距離武装を使われていたら、自分たちの魔法が通じるか分からず、危なかったかもしれないと冷や汗をかいた。
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ヴィヴィアン(LV.50)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
EXスキル2:≪インヴィンシブルシールド≫
備考:気味の悪いラルヴァの大群と戦わずに済んだことに心から安堵し、生身で戦うことを想像して顔が青ざめるほど、アークガーディアンの火力の高さに感謝した。
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テルル(LV.44)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:大鎌の才(大鎌の基本技術を習得する)
EXスキル2:≪ソウルイーター≫
備考:休憩中にアークガーディアンのことを調べたが、まだまだ解明すべき点が多いことを確信し、もっと深く調べ、研究したいという強い探求心に駆られている。
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アン(LV.2)
性別:女(精霊)
ジョブ:霊樹の管理精霊(若芽の腕輪に宿る)
スキル:霊樹の加護(ユークの全能力をわずかに向上させる)
備考:アークガーディアンの真の力をみんなに見せつけることができて、誇らしかった。
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