第222話 アーク・ガーディアン
巨大な扉の前に立つユークは、仲間たちの顔を一人ずつ見回した。
誰も言葉を発しない。静かな決意だけがその瞳に宿っている。
「行くぞ」
ユークが扉に手をかけた瞬間、重い轟音と共に石の扉が自動で開いた。
冷たい風が吹き抜け、内部の広間が姿を現す。
そこは、異様なほど整然とした空間だった。
広間には真紅の絨毯が敷かれ、中央には一脚の豪華なソファ。
その周囲を取り囲むように、赤いローブの集団が静かに立ち尽くしていた。
その中心――ソファに腰かけていたのは、ひとりの男。
影の塔・三十一階から四十階を支配する者。
そしてユークたちを監視していた張本人――ディアン。
「……ようやく来たか。遅かったな」
ゆっくりと立ち上がったディアンの瞳が、血のように赤く光った。
その視線がユークを捉えた瞬間、空気が一気に張り詰める。
「お前……! 火傷跡の男か!」
ユークの声が鋭く響いた。
「いい加減しつこいわよ!」
アウリンが眉をひそめる。
「はっ! 死ぬのはお前たちだ! ――行け!」
ディアンの命令に応じ、赤いローブの集団が一斉に動いた。
彼らの体がひずみ、悲鳴のような咆哮とともに形を変える。
手足が、頭が、肉の触手へと変化していく。
『ヴォ、ヴォオオオオオオ!!!』
触手人間たちが地を蹴り、怒涛の勢いで突撃してきた。
「アンっ!」
『はい! ――攻撃を開始してください!』
アンの声が響いた瞬間、背後で重金属が揺れる。
数十体のエンシェントゴーレムが一斉に進撃を始めた。
石と鉄がぶつかり合い、戦場が揺れる。
触手人間たちとエンシェントゴーレムの激突。
爆ぜる魔力、砕ける岩、弾け飛ぶ肉片。
「俺たちはあの男を倒そう!」
ユークが叫ぶ。
「え? ゴーレムたちに任せてもいいんじゃない?」
アウリンが広間を見渡す。
確かに、戦況は圧倒的に優勢だった。
ゴーレムたちは次々と敵を踏み潰し、殲滅していく。
触手人間たちは押し返される一方だ。
だが――。
「そんなこと、あいつが分からないはずがない!」
ユークが額の汗を拭いながら叫ぶ。
「なのに、どうして逃げずにここに残ってたんだ……?」
アウリンの表情が強張る。
彼女もすぐに気づいた。敵は、自分たちがゴーレムを掌握したことを知っていたはずだ。
それでもこの状況で逃げなかった理由――。
「セリス! あの男の位置、わかるか!?」
「ちょっと待って!」
セリスがEXスキルを発動する。
視界に魔力の波が走り、周囲の構造を読み取っていく。
「……うえっ!」
セリスが空を指さした。
「みんな、避けろ!!」
ユークの叫びと同時に、天井が崩れ落ちた。
巨岩と鉄片を巻き込みながら、巨大な何かが落下してくる。
『あ、あれは……アークガーディアン!? な、なんでここに!?』
アンの悲鳴が響いた。
「しまっ――!」
ユークが避けきれず、伸びてきた巨大なアームに捕まれた。
鋼鉄の腕が彼の体を締め上げ、そのまま内部へと引きずり込む。
「ユーク!?」
セリスの声が響いた。
次の瞬間、ユークの姿は完全にアークガーディアンの中へと消えた。
「くそっ……!」
セリスが槍を握りしめる。
「こいつはアークガーディアン。この階層の本来のボスだ!」
ディアンが笑いながら現れる。
「お前っ……!」
セリスが怒りの形相で睨みつける。
「ははあ! いい顔だ! お前に決闘を申し込む! 俺に勝てば、あのガキも戻るかもな!」
「――殺す!」
セリスが叫び、突撃する。
槍が光の軌跡を描き、ディアンへと突き立つ。
「待って! セリス!」
アウリンが叫ぶ。
「ヴィヴィアン、援護するわよ!」
「ええ、わかっ――!」
その瞬間。
「危ない!」
ヴィヴィアンの盾が火花を散らした。
目の前のアウリンに向けて、巨大な拳が振り下ろされていた。
それは――味方のはずのエンシェントゴーレムだった。
「な、なんで……!」
アウリンが絶句する。
次々と周囲のゴーレムたちが制御を失い、こちらに攻撃を始めていた。
「ちょっと……まずいかもしれないわね」
ヴィヴィアンがアウリンを庇いながら歯を食いしばる。
◆◆◆
そのころ、ユークたちは暗い空間に閉じ込められていた。
視界のすべてが金属と魔力の線で覆われた、無機質な空間。
「……ここは?」
『ここはアークガーディアンの内部です。閉じ込められました……』
ユークの肩でアンが静かに告げる。
『待っててください、マスター。私がこの子も掌握してみせます!』
アンの体から光の線が走り、内部構造を解析していく。
だが、すぐに別の声が響いた。
『ふふふ……そうはいきませんわよ』
「誰だ!」
ユークが叫ぶ。
『わたくしはコハク。この影の塔を管理する精霊ですわ』
『なっ……!?』
アンが驚愕に声を詰まらせる。
『このアークガーディアンは、わたくしの支配下にありますの。あなたの干渉など届きませんわ。外の仲間も、今頃あなたのガーディアンたちに殺されているころでしょうね』
「なっ、どういうつもりだ!」
ユークが憤る。
『ふふ。どれほど怒ろうと無駄ですわ。このアークガーディアンの“コア”が、わたくしの手にある限り――あなたたちに勝ち目はありませんの』
「コアじゃと?」
テルルが低く呟く。
「テルル!?」
ユークが驚く。
彼女は一本釣りされたユーク捕まって一緒に付いて来ていたのだ。
『さあ――行きなさい。こいつらを殺すのです!』
上部が開き、数体の触手人間が落下してきた。
その体は光沢のある金属を織り込んだローブで覆われている。
『前衛のいないあなたたちなど、こいつらの敵ではありませんわ。しかもそのローブは、魔法を無効化する特別製ですのよ!』
「ふん……ワシを忘れてもらっては困るな!」
テルルが構えを取る。
虚空から大鎌を生み出し、突撃した。
『なっ!? そいつはただのポーターではなかったの!?』
コハクの声が揺れる。
テルルは今までリヤカーを引いていたし武器も持っていなかったため、コハクはテルルのことを戦闘要員だとは思っていなかったのだ。
鋭い動きで信奉者たちに斬りかかるテルル。
「くっ……! こやつら、強い!」
テルルが歯を食いしばる。
相手はただの変異信者ではない。明らかに戦闘能力が強化されていた。
『当然ですわ。その者たちは特に選ばれた精鋭。生半可な者では勝てませんの!』
勝ち誇るコハクの声が響く。
「――《ストーンスタンプ》!」
ユークが詠唱を終えた。
周囲に複数の魔法陣が浮かび上がり、圧縮された石柱が一斉に伸びる。
『なっ……!? わたくしの配下が!』
触手人間たちが貫かれ、動きを止めた。
『なぜ!? あのローブには魔法が効かないはずですのに!』
「ずっと考えてたんだ。もし、魔法が無効化される敵が出てきたらどうするかってな」
ユークの声に、アンが顔を上げる。
「答えは――“物質化”させることだった」
ユークが手を掲げる。
ヴィヴィアンの盾のように、物質として具現化された魔法なら防げない。
ストーンウォールを応用した“石柱魔法”が、いま敵を貫いたのだ。
「今じゃ! 《ソウルイーター》!」
テルルが大鎌を振り下ろす。
黒い光が走り、三体の信者から魂を奪い取った。
「アン、このアークガーディアンのコアの場所が分かる?」
ユークがアンに向かって声をかける。
『えっ……あっち、だと思う……』
アンが沈んだ声で答えた。
ユークは静かに頷き、視線を前へと向けた。
「よし、行こう。――ここで終わらせる」
闇に包まれたアークガーディアンの内部で、ユークの決意が光を放った。
◆◆◆
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ユーク(LV.49)→(LV.50)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
EXスキル2:≪思考分割≫
備考:最初の信奉者たちを倒した経験値でレベルアップし、新たなEXスキルに覚醒した。
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セリス(LV.47)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
EXスキル2:≪ブーステッドギア≫
備考:怒りに任せて槍を振るっている。
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アウリン(LV.48)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
EXスキル2:≪コンセントレイション≫
備考:ユークとセリスとも分断され、いつになく焦っている。
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ヴィヴィアン(LV.47)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
EXスキル2:≪インヴィンシブルシールド≫
備考:アウリンが冷静でないため、なんとか彼女を守るために必死になっている。
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テルル(LV.44)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:大鎌の才(大鎌の基本技術を習得する)
EXスキル2:≪ソウルイーター≫
備考:とっさにユークにブラックアームズで作り出しておいたロープを巻き付けて一緒に捕まった。
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アン(LV.1)
性別:女(精霊)
ジョブ:霊樹の管理精霊(若芽の腕輪に宿る)
スキル:霊樹の加護(ユークの全能力をわずかに向上させる)
備考:何もできない状況に消沈している。
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ディアン(LV.??)
性別:男
ジョブ:剣士
スキル:剣の才(剣の基本??術を習得し、剣の才??をわずかに向上させる?
EXスキル:≪エアスラッシュ≫
EXスキル:≪ビーストソウル≫
備考:何としても復讐だけは済ませたかった。
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