第219話 暗黒の空に浮かぶ遺跡
【影の塔・三十一階】
転移の光が消えると、そこは暗黒の海のような空間だった。
辺り一面に石造りの遺跡が浮かび、道も柱も壁も、重力を失ったように宙を漂っている。
ユークは一歩、浮かぶ石畳を踏みしめた。足元の感触は確かにあるが、下を覗けば底の見えない闇が広がっていた。
「……ここが、“偽りの塔”の三十一階……?」
ユークが低く呟く。
周囲は真っ暗なはずなのに、不思議と視界ははっきりしていた。
「まるで夜空の中を歩いてるみたい……!」
セリスが目を輝かせながら見回す。
「転落したら、もう帰ってこられそうにないわね……」
隣で下を見下ろしていたアウリンが、強張った声を出す。
「慎重に進みましょう。ここから先は実質的に、《賢者の塔》の中層よ。油断は禁物だわ」
ヴィヴィアンの声は穏やかだったが、表情は緊張に包まれていた。
一行が進むたび、石畳がわずかに軋み、崩れた瓦礫がゆっくりと宙を漂う。
「ずいぶん荒れてるわね……」
アウリンが瓦礫を見上げながら呟く。
「確かに。何でこんなにボロボロなんだろう……?」
ユークは宙に浮いた小さな破片を手に取り、不思議そうに眺めた。
「マスター! 理由、知りたいんですか!?」
腕輪から光が弾け、アンがふわりと飛び出す。
『元々この階層は塔の管理層だったんです。でも、前の私が生まれてからは使われなくなって、放置されてたんですよ!』
アンが胸を張って答える。
「そんな大事な場所だったのね……」
アウリンが目を丸くする。
「でも、本物の《賢者の塔》って今、精霊がいない状態だよな? 大丈夫なのか?」
ユークが眉をひそめる。
『問題ありません! 塔全体の制御は自動化されてるので、私がいなくても少しの間なら平気です!』
アンは元気よく答えた。
「へぇ……そうなんだ」
ユークは少し安心したように頷いた。
その時――。
どこかで金属が軋むような音が響いた。
「……今の、聞こえた?」
アウリンが足を止める。
次の瞬間、闇の奥で鈍い光が点った。
一つ、また一つ。まるで無数の瞳がこちらを見ているようだった。
「下がれッ!」
ユークの声と同時に、闇の中から巨体が姿を現す。
三メートルを超える石の巨人。
全身に古びた魔法紋が刻まれ、胸にはひび割れた魔石が埋め込まれていた。
「エンシェントゴーレム……!」
テルルが息を詰めて名を告げる。
その背後から、さらに二体、三体と同じ巨人が歩み出てきた。
「気をつけるんじゃ! こやつらは古代に作られた守護者じゃ! ヘリオ博士のミスリルゴーレムなど比にならん!」
テルルの警告に、一同が構えを取る。
そして、巨人たちの後ろからは、四つ脚の獣型ゴーレムが群れをなして這い出てきた。爪を石に立て、金属を削るような音を響かせる。
「こんな数……!」
アウリンが息をのむ。
ユークは周囲を見渡しながら杖を構えた。
十を超える影が、円を描くように包囲していた。
「とにかく一体ずつ確実に仕留めるんだ! セリス、テルルは数を減らせ。ヴィヴィアンは前線を抑えてくれ!」
ユークの指示に、三人が頷く。
「了解!」
「任せるのじゃ!」
「まっかせて~!」
「まず一体、『スラストランス』!」
セリスが槍を構え、稲妻のような速さで突きを放つ。
鋭い一撃がエンシェントゴーレムの胸を貫き、コアを貫通した。
だが――。
ゴーレムは胸に穴を開けたまま、なおも動きを止めない。
巨大な手がセリスを掴もうと伸びてくる。
「うわっ!?」
倒したはずの敵が動き出し、セリスが声を上げた。
(まさか……魔力で自己修復してる!?)
ユークが詠唱を続けながら推測する。
「《ストーンブレイカー》!」
ユークの魔法がゴーレムの中心を打ち抜く。だが、動きは止まらない。
「ダメかっ!」
「《ヴォルカニックランス》!」
アウリンの放った炎の槍が貫き、溶岩のように燃え上がる。
固まったマグマが動きを封じた。
「みんな! コアを壊すだけじゃダメだ! 粉々に砕け!」
ユークが叫ぶ。
「了解!」
「ええっ、そんな……!」
「つまり、細切れにすればいいんじゃな!」
三人が戦法を切り替えるが、数の多さに押され始める。
「くそっ、一体一体は強くないのに……!」
ユークが歯を食いしばる。
「あきらめないで! いくら何でも無限に出てくるわけじゃないわ!」
アウリンが叫び、カウントボムを群れの中心に投げ込む。
爆発が起こり、数体のゴーレムが粉砕された。
『いえ、ここのガーディアンはいくらでも出てきますよ』
アンの声が静かに響く。
「はぁ!? どういうことだ!?」
ユークが振り向くと、アンは宙に浮かぶ石碑に手を当て、集中していた。
「それじゃあ、ここを突破するなんて無理じゃない!」
アウリンが声を震わせる。
(……くそっ! 使うか? 『リミット・ブレイカー』を使えば次の階層へ――)
ユークが決断をしかけた、その時。
「えっ……?」
セリスが驚きの声を上げる。
無数のゴーレムが、一斉に動きを止めたのだ。
「どうしたんじゃ!」
「な、何が起きたの!?」
『やりました! マスター、褒めてください! この階層のエンシェントゴーレムをすべて掌握しました!』
アンが嬉しそうに飛び跳ねる。
「……掌握?」
ユークが呆然とつぶやく。
『はいっ! 制御核のリンクを再接続しました! 今からこの階層のゴーレムは、みんなわたしたちの味方です!』
満面の笑みで宣言するアンを前に、ユークはただ、言葉を失った。
テルルとヴィヴィアンも、呆然としたまま動かないゴーレムを見つめている。
「……ユーク。この子、本当にとんでもないわね……」
アウリンが呆れたように呟き、ユークの肩を叩いた。
「……ああ。すごいよアン! ありがとう、本当に助かった」
ユークはすぐに気を取り直し、アンを抱きかかえるように手のひらを差し出す。
「はいっ!」
アンは嬉しそうにその上に飛び乗った。
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ユーク(LV.49)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:≪リミット・ブレイカー≫を使わずに済んでよかった……この先何があるか分からないからね。
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セリス(LV.47)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
EXスキル2:≪ブーステッドギア≫
備考:う~ん。せっかく慣れてきた所だったのに……
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アウリン(LV.48)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
EXスキル2:≪コンセントレイション≫
備考:カウントボムは師匠が引いて来てくれたリヤカーに入ってる予備の物を拝借したわ。
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ヴィヴィアン(LV.47)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
EXスキル2:≪インヴィンシブルシールド≫
備考:もう今回はダメかと思っちゃったわ……
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テルル(LV.44)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:大鎌の才(大鎌の基本技術を習得する)
EXスキル2:≪ソウルイーター≫
備考:あの精霊が、ここまでとは思っておらんかったわ。
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アン(LV.1)
性別:女(精霊)
ジョブ:霊樹の管理精霊(若芽の腕輪に宿る)
スキル:霊樹の加護(ユークの全能力をわずかに向上させる)
備考:《賢者の塔》をそのままコピーしてあったので、バックドアもそのまま残っていて随分と簡単でした!
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