第217話 街を守るために
「……行こう。俺たちは託されたんだ」
ユークは決意を込めて言い、アズリアが使ったものとは別の転移陣へと足を向けた。
『待って、マスター!』
そのとき、アンが慌てて声を上げてユークを止める。
「どうしたの?」
ユークが驚いて彼女を見る。
『前のわたしが残してくれた記憶を少し見たの。でも、その中に気になることがあって……』
アンは言いにくそうに、だが真剣な表情で言葉を続けた。
「どういうこと?」
アウリンがアンに顔を向け、真剣な表情で問いかける。
『マスター、一階のモンスターたちはまだ塔にいるわ』
アンが説明する。
「スタンピードが、まだ起きていないってことね」
ヴィヴィアンがアンの言いたいことを察して口にだす。
『うん。それに……塔に誰か入ってきたら、わたしにはすぐに分かるの……』
アンが小さくうなずく。
『だから、マスターたちが“偽物の塔”に行ったら、あっちの精霊にもすぐにバレちゃうのよ!』
「……それが、どういう問題につながるの?」
アウリンが慎重に問いかける。
『前のわたしは、マスターたちのことを“あっちの精霊”に報告していなかったの』
「えっ!?」
「それって……」
『そう。つまり、マスターたちのことは、あっちの精霊にはまだバレてないってこと!』
アンの言葉に、その場の空気が張り詰める。
『だけどもしバレてしまったら、下のモンスターたちを街に放ってしまうかもしれないわ』
ユークたちは絶句した。
「たしかに……それはまずいな」
ユークは眉をひそめ、深く考え込む。
「でも、魔獣の封印もいつ解かれるか分からないのよ。アン、そっちの方は分かる?」
アウリンが慎重に尋ねる。
『ごめんなさい……あっちの塔のことは、わたしには分からないの……』
アンはしゅんと肩を落とし、申し訳なさそうにうつむいた。
「いいのよ、アン。だけど、どれくらいで外の準備が整うかも分からない。そんな状態でいつまでも待っているわけにもいかないわよ?」
アウリンがユークへと視線を向け、判断を促す。
「どうする……? でも、もし待つにしても外の様子が分からないんじゃどうしようも……」
ユークは迷いを隠せずに呟いた。魔獣も脅威だが、街が壊滅してしまうのも避けたい。
『マスター……! 私、少しだけなら外の様子を見ることができるわ!』
アンは小さな手を伸ばし、何もない空間に触れた。
すると光の粒子が集まり、四角く枠を作っていく。
「アン!? 本当にそんなことができるの?」
ユークが目を見開いた。
「まさか、外の様子を……?」
アウリンやヴィヴィアンも驚きの声を上げる。
光が空間に広がると、歪んだ映像が浮かび上がっていく。
――そこには、《賢者の塔》周辺の様子が映し出されていた。
「おお~」
「すごいわ!」
ユークやアウリンが歓声を上げる。
「う~ん。でも……まだ、全然人がいないね……」
それを見てセリスが小さく呟いた。
塔の周囲は、まだ探索者たちがまばらに動いているだけで、防衛の準備が整っているようには見えなかったのだ。
『どう? マスター! わたし偉い?』
アンが褒めて欲しそうに、ユークに顔を向ける。
「うん偉い、よく言ってくれたね」
そう言ってアンの頭を優しく撫でるユーク。アンは撫でられるとくすぐったそうに笑った。
アンを撫で終えると、ユークは真剣な表情で仲間たちを見回す。
「……時間を決めよう。今から一時間だけ待つ。もし、それ以上かかるようだったら、外の準備が出来ていなくっても行く。それでどう?」
言い切ったユークがアウリンに視線を向ける。
「……分かったわよ。それでいいと思うわ」
アウリンは小さくため息をつきながらも、頷いた。
仲間たちも次々と頷いていく。
「……そう。良かった……」
ユークは体の力が抜けるのを感じて、深く息をついた。
「ありがとうアン、助かったよ」
ユークは手に乗せたアンにそっと笑顔を向ける。
『えへへ、どういたしまして!』
アンは頬を染めて、嬉しそうに笑った。
こうしてユークたちは、外の準備が整うまで一時的に待機することを決めたのだった。
◆ ◆ ◆
時は少し戻り、アズリアが《賢者の塔》を出た直後――。
「早く情報を伝えなくては!」
アズリアは急いでギルドへと走る。その形相は、まるでこれから命懸けの戦いを挑むかのような、強く鋭いものだった。
「アズリア隊長!? アズリア隊長が戻ってきました!」
ギルド前で声が上がり、職員たちが駆け寄る。
彼女はすぐに案内され、幹部たちが集まる会議室へと通された。
「遅かったではないか、いったい何をしていたのかね!?」
初老の幹部が声を荒らげた。その顔には、苛立ちが浮かんでいる。
アズリアは深く頭を下げ、ユークたちと共に体験した出来事を、途中を省かずにすべてを報告した。
「入り口が消えた……?」
「スタンピードの兆候だと……?」
「賢者の塔がそんな状態になっていたとは……!」
幹部たちが一斉に顔を青ざめさせる中、ギルドマスターのロンビナが静かに立ち上がった。彼の握りしめた拳の甲に、血管が浮き出ている。
「皆さん、落ち着いてください! アズリアさんが命懸けで持ち帰ってくれた情報です、それを無駄にするつもりですか!?」
朗らかだが芯の通った声が、会議室の空気を引き締める。
「ブロモラさん、ギルドガードは動けますね?」
ロンビナが低い声で問う。
「ええ、もちろん。いつでも出撃可能です」
ブロモラが力強く頷いた。
「ではすぐに防衛計画を立ててください。一般職員は住民の避難誘導を。探索者たちにも協力を要請します」
「はっ!」
「了解しました!」
ロンビナの指揮のもと、ギルド全体が一斉に動き出した。
その中で、アズリアは近くの職員を呼び止める。
「すまん! 家に子どもが二人いる。ペクトとリマだ。あの子たちを頼む!」
「はいっ! 任せてください!」
職員は力強くうなずいた。
(ペクト、リマ……ママは帰れない。でも、あなたたちを守るために戦うからね)
アズリアは胸の奥でそう誓い、再びギルドの中心へと走っていった。
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ユーク(LV.49)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:自分の判断一つで多くの命が失われるかもしれないという重圧を強く感じていた。
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セリス(LV.47)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
EXスキル2:≪ブーステッドギア≫
備考:難しい話を考えるのは苦手なため、黙ってユークの判断を待っていた。
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アウリン(LV.48)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
EXスキル2:≪コンセントレイション≫
備考:ユークをリーダーとして信頼しているからこそ、最終判断を彼にゆだねた。
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ヴィヴィアン(LV.47)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
EXスキル2:≪インヴィンシブルシールド≫
備考:ユークが街の防衛準備が整うまで待つつもりだと知り、胸をなで下ろした。口には出さなかったが、やはり街には犠牲になって欲しくはなかったのだ。
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テルル(LV.44)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:大鎌の才(大鎌の基本技術を習得する)
EXスキル2:≪ソウルイーター≫
備考:多彩な能力を持つアンに強い興味を抱いている。
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アン(LV.1)
性別:女(精霊)
ジョブ:霊樹の管理精霊(若芽の腕輪に宿る)
スキル:霊樹の加護(ユークの全能力をわずかに向上させる)
備考:街が被害を受ければユークが悲しむと感じ、危険を知らせた。以前の精霊は街の被害をあまり問題視していなかったため、情報を知っていても知らせなかった。
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