第21話 決戦! 10階層の番人
ユークたちは現在、賢者の塔の九階にいた。
ここに来た理由はひとつ。新たに加わった仲間、ヴィヴィアンの実力を試すためだ。
一対一で対峙するヴィヴィアンに、巨大なゴーレムの拳が振り下ろされる。
「危ないっ!」
セリスの鋭い叫びが響いた。
ゴーレムの剛腕は、一撃でもまともに受ければ盾ごと粉砕されるほどの威力を持つ。それを、ヴィヴィアンは真正面から受け止めた。
しかし――
「そんなの、効かないわ!」
ヴィヴィアンの声が響く。
驚くべきことに、彼女はゴーレムの拳をそのまま盾で受け止め、微動だにしなかった。それどころか――
「てやああああっ!」
彼女は体重で圧倒的に勝るゴーレムを、盾を押し込むことで強引に弾き飛ばしたのだ。
鋼鉄の巨体がぐらつき、そのまま仰向けにひっくり返る。
「えいっ! てやっ!」
ヴィヴィアンは倒れたゴーレムに剣を振り下ろす。しかし、鋼の表面を浅く切り裂くだけで、致命傷には至らない。
(何だろう……)
ユークは彼女の素晴らしい防御能力に比べ、攻撃がやけにもたついていることに気づいた。
(もしかしてっ――)
「セリス!」
ユークがすかさず指示を飛ばす。
「わかった!」
セリスは槍を構え、一気に駆け出した。
仰向けになったゴーレムめがけて一直線に突き刺さる槍。
一瞬、鋼の巨体が静止したかと思うと――次の瞬間、光と共に崩壊していった。
「すごいわ〜!」
ヴィヴィアンは、セリスの華麗な槍捌きを目の当たりにし、目を見開いた。
「ねえ、アウリン。彼女って……」
ユークは隣にいたアウリンに問いかける。
「うん、攻撃がものすごく苦手なのよ。防御は得意なんだけど……」
アウリンがため息混じりに答えた。
「なるほど……」
ユークは納得する。ヴィヴィアンのソレは普通であれば欠点とされるものなのだろう。
だが、このパーティーには魔法使いが二人もいる。攻撃力は過剰なほどにあるのだから、防御に特化した彼女の存在はむしろありがたかった。
「でもこれで、ようやく挑戦できる」
ユークは静かに呟く。
「いよいよ、行くのね!」
アウリンの瞳が輝く。
不安は、もうなかった。
九階で足踏みしてきたのはヴィヴィアンの回復を待っていたため。しかし、もう彼女は十分に戦える。
だから――
「次は、十階だ」
ユークはついに決断した。
そして翌日——。
四人はついに、10階層のボス部屋へと続く巨大な扉の前に立っていた。
荘厳な装飾が施された扉は圧倒的な存在感を放ち、まるで侵入者を拒むかのように聳え立っている。
ユークは静かに息を整えた。
「さて、実戦で使うのは久しぶりだな……」
彼がそう呟くと、手をかざしながらゆっくりと詠唱を始める。
「《ブーストアップ》」
足元に赤い魔法陣が広がり、辺りの空気が微かに震えた。
これはユークとアウリンが苦労して古本屋から探し出した魔法書を使って習得した強化魔法だ。
強化術士なら標準で使えるスキルと同じ魔法だが、ユークにはすでに『リインフォース』があった。
移動速度や回避能力までも向上させる『リインフォース』と比較すると、『ブーストアップ』は純粋に攻撃力を増幅させるものに過ぎない。
結局、実用性の差でお蔵入りとなっていたが——ボス戦となれば話は別だ。ユークは今回、攻撃力重視の選択をしたのだった。
「よし、準備は整った。行くぞ」
重厚な扉に手をかけると、鈍い軋みとともにゆっくりと開いていく。
その瞬間——
空気が、一変した。
奥から響く、低く唸るような地響き。生温かい吐息が肌を撫で、背筋に悪寒が走る。そして、闇の奥でギラリと光る二つの赤い目——。
「……来るぞ」
次の瞬間、重々しい足音と共に、影が現れる。
「ミノタウロス……!」
それは牛の頭を持つ巨人だった。
人間の倍以上の体躯を誇り、鋼のように鍛え上げられた筋肉が鎧のように隆起している。肩から荒々しい体毛を生やし、血走った眼が四人を睨みつけた。
そして、その手には——
「——グォォォォオオオ!!!」
轟く咆哮とともに振り上げられた巨大な大斧。
刃渡りは人間の身長を優に超え、一撃でも受ければひとたまりもないことが直感できる。
「作戦通りに!」
ユークの指示と同時に、四人は一斉に動き出した。
セリスが槍を構え、素早く距離を詰める。
ヴィヴィアンは大盾を掲げ、巨体を正面から受け止める構えを取った。
後方では、ユークとアウリンが魔法の詠唱を開始する。
ミノタウロスが猛スピードで突進してくる。
セリスは素早く横へ跳び退くが、その勢いのままミノタウロスの大斧が唸りを上げ、ユークたちへと振り下ろされた。
「っ……!」
それをヴィヴィアンが盾で受け止める。
鈍い衝撃音とともに、床が砕け、ヴィヴィアンの足元に無数の亀裂が走る。
だが、それでも彼女は微動だにしない。
(やばい……思った以上に強い!?)
ユークが身構えたその時——
「はっ!」
鋭い掛け声とともに、セリスの槍が閃いた。
瞬間、ミノタウロスの脳天を正確に貫く。
鋼のように硬い頭蓋を突き破り、赤黒い脳髄が飛び散った。
巨体が揺らぎ、崩れ落ちる。
そして、光の粒となり、静かに消えていった——。
「イェーイ!」
セリスが満面の笑みでヴィヴィアンに手を差し出す。
「え? い、イェーイ……?」
戸惑いながらも、ヴィヴィアンが控えめにハイタッチを返す。
勝利の余韻に浸る二人の姿を見ながら、ユークとアウリンは顔を見合わせ——そして静かにため息をついた。
ユークは魔法陣を消しながら、小さく呟く。
「……ごめん」
「どうしたのよ、突然?」
アウリンが不思議そうに眉をひそめる。
「ちょっと慎重になりすぎたかもしれない……」
「ふふっ、まあ、私もここまでとは思ってなかったけどね」
どこか気の抜けた表情で笑うアウリン。
一方、ユークは微妙な顔をしながら呟く。
「ボス戦って、もっとこう……盛り上がるもんだと思ってたんだけどな……」
四人での初めてのボス戦は、思いのほかあっさりと幕を閉じたのだった。
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ユーク(LV.14)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
備考:気合をいれて挑んだ手前、すごく恥ずかしかった。
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セリス(LV.14)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
備考:やれそうだったから殺っただけ。
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アウリン(LV.15)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
備考:前に戦った時はもうちょっと苦労したのだけれど。
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ヴィヴィアン(LV.15)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
備考:あまりにあっさり終わって戸惑っている。
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