第216話 託された使命と新たな精霊
「すまないが、後は頼む」
転移陣の前で、アズリアが振り返った。
「もちろんです。ギルドへの報告、スタンピードのことも含めて、よろしくお願いします」
ユークが真剣な声で頭を下げる。
「元気でねー」
セリスが明るく手を振った。
「ええ、お願いね。私たちの都合で巻き込んだけど……家族のところに、早く戻ってあげて」
アウリンはやわらかな声で言い添える。
テルルとヴィヴィアンは無言で頷き、静かにアズリアを見送った。
「……ああ。必ず、君たちの手柄はギルドに報告するよ」
アズリアはそう言い残し、転移陣の光に包まれて《賢者の塔》の外へと姿を消した。
淡い光が消え、静寂が戻る。
『お前たちは、行かなくてよいのだな?』
精霊が静かに問いかけた。
「ああ、俺たちは先に進むよ」
ユークがまっすぐに答える。
『ならば――お前に渡すものがある。手を出すがいい』
精霊はそう告げると、真っすぐにユークを見つめた。
「え、俺……?」
戸惑いながらも、ユークは左腕を精霊に差し出す。
精霊はその指先を、そっとユークの手首へと触れさせた。
すると――ユークたちが立つ霊樹の枝がゆるやかに脈動し、年輪の隙間から淡い緑光と共に霊樹の若芽が伸びてくる。
若芽はユークの手首に絡みつくように形を変え、やがて巻き付いたそれは新緑の腕輪となった。温かな感触が肌に広がり、ユークの胸の奥に不思議な安らぎが宿る。
しかしその直後――
精霊の体が静かに揺らぎ始め、まるで霧のように薄くなっていく。その輪郭は今にも消え去ってしまいそうなほど、希薄になっていた。
「……っ、体が!? どうしたんですか!」
ユークが動揺して声を上げる。他の仲間たちも息を飲んで精霊を見つめた。
『案ずるな……これは、我の力のほとんどをその若芽に宿らせたためだ』
精霊はか細い声でそう言うと、わずかに微笑んだ。
『この“若芽の腕輪”と共に――新たな精霊樹の管理精霊を、お前に託す』
精霊は言葉を言い終えると、静かに口を閉じた。
ユークたちは、もはや話すことすら辛そうな精霊の様子に、心配そうな視線を送る。
その次の瞬間、ユークの左手首に巻かれた新緑の腕輪が、強い光を放ち始めた。
輝きが収まると、そこには新緑の長い髪をした、小さな半透明の少女がいた。
桃色のドレスをまとい、ふわりと宙に浮かんでいる。
少女は幼い顔立ちにあどけない笑顔を浮かべ、ぱちぱちと瞬きをしてから、元気よく声を上げる。
『初めまして! よろしくおねがいしますね、マスター!』
その明るい声に、女性陣から一斉に歓声が上がった。
「わあ、ちっちゃい……!」
セリスが指先を伸ばして、そっと触れてみる。
「かわいいわね〜」
ヴィヴィアンは穏やかな笑みを浮かべ、腰をかがめて見つめた。
「新たな精霊の誕生の瞬間を見られるとは……貴重な経験じゃな」
テルルは腕を組みながら、興味深げに観察している。
「ねえ、名前はなんていうの?」
アウリンが問いかけると、背後で薄れつつある大精霊が静かに答えた。
『今、生まれたばかりでな。名はまだない。……よければ、お前たちでつけてやってくれ』
「ユーク、考えてあげなさいよ」
アウリンが微笑みながら促す。
「えっ、俺が?」
ユークは思わず自分を指さした。
「ほら、この子もつけてほしいって言ってるよ」
セリスが指先で小さな精霊をちょんと触れる。
小さな精霊は、その澄んだ瞳を輝かせ、ユークの顔をじっと見つめていた。
「う〜ん……」
ユークは少し悩んでから、顔を上げる。
「そうだ……“アン”って名前はどうかな。昔、母さんから聞いた言葉で、『繁栄』とか『癒やし』って意味があるんだ」
ユークはそう口にすると、仲間たちの顔をうかがうように視線を泳がせた。
「いいじゃない! かわいいと思うわ」
アウリンが笑みを浮かべる。
「うん、私も良いと思う!」
セリスも穏やかに微笑む。
「ふふっ。いい名前をもらっちゃったわね」
ヴィヴィアンが優しく声をかけた。
『はいっ! ステキなお名前をありがとうございます、マスター! 大切にしますね!』
小さな精霊――アンは、ぱっと顔を輝かせると、ユークの手のひらで嬉しそうにお辞儀をした。
そして、自分の名前を口にしては小さく笑い、楽しげに鼻歌を歌い始める。
その光景に皆の表情が自然とほころんだ。
やがて、精霊の光がほとんど消えかけたのを感じ取ると、ユークたちは静かに振り返った。
精霊は、かすかな声で囁いた。
『……どうか、その子と《賢者の塔》を頼む……』
それは、最後の祈りのような言葉だった。
精霊の姿は穏やかな光となって散り、空間に柔らかな風だけを残す。
ユークたちは沈黙のまま、その光を見送った。
セリスは胸の前で手を組み、アウリンは腕を組んで目を閉じた。
静けさの中、ユークは左手首の若芽の腕輪をそっと撫でる。
腕輪の上でアンが不安そうに顔を上げていた。
ユークは彼女に微笑み、深く息を吸い込む。
「……行こう。俺たちは託されたんだ」
その声は静かに、しかし確かな決意をもって響いた。
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ユーク(LV.49)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:俺たちは前に進む。精霊が託してくれた意味を、俺は忘れないよ。
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セリス(LV.47)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
EXスキル2:≪ブーステッドギア≫
備考:私たちのパーティーに新しい仲間が増えたね。アン、よろしくね。いっぱい冒険しよう!
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アウリン(LV.48)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
EXスキル2:≪コンセントレイション≫
備考:きっとこの先、あなたの力が必要になるはずよ。頼りにしてるわ、アン。
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ヴィヴィアン(LV.47)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
EXスキル2:≪インヴィンシブルシールド≫
備考:小さな体なのに、とても強い力を感じるわ。
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テルル(LV.44)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:大鎌の才(大鎌の基本技術を習得する)
EXスキル2:≪ソウルイーター≫
備考:精霊というものは、もっと神聖で近寄りがたい存在かと思っておったが……こうして見ると、案外人の子と変わらぬものじゃな
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アン(LV.1)
性別:女(精霊)
ジョブ:霊樹の管理精霊(若芽の腕輪に宿る)
スキル:霊樹の加護(ユークの全能力をわずかに向上させる)
備考:今生まれたばかりの小さな精霊。ユークから「アン」と名付けられた。
マスターであるユークを慕っており、彼の力になることを強く望んでいる。
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