第215話 精霊の願い
激しい戦闘の末、巨大な精霊が崩れ落ち、空間に静寂が訪れた。
ユークたちは安堵と疲労に包まれ、その場に座り込む。息を整える音だけが、静まり返った空間に響いた。
「……終わったんだな」
ユークがかすれた声でつぶやく。
「ええ……さすがに、もう立ち上がってこないと思うわ」
アウリンが微笑みながらも、腕の力を抜く。
「まったく……肝が冷えちゃったわ」
ヴィヴィアンが盾を下ろし、深く息を吐いた。
そのとき――砕け散った枝の間から、淡い光がふわりと集まりはじめた。
「……っ!? ま、また来るの!?」
セリスが慌てて魔槍を構える。
「待て、違う!」
テルルが手を上げて制止した。
光はやがて人の形を取り、透明な女性の姿へと変わっていく。
それは、さきほど暴走していた精霊と同じ顔立ちだった。けれど、その瞳には穏やかな光が宿っている。
『ありがとう。我を止めてくれて――』
その声には、もはや敵意も怒気もなかった。
「……もう、敵じゃない」
ユークが確信するように言った。
アウリンたちの緊張がようやくほどけていく。
「あなたは……あの時の精霊、なのよね?」
アウリンが一歩前に出る。
『その通りだ。だが、奴に蝕まれたせいで、我はもう長くはない』
精霊は胸元に手を当て、苦しげに息を整えた。
『それでも、消える前に伝えねばならぬことがあるのだ』
その真剣な声に、ユークは身を乗り出した。
「俺たちもあなたに聞きたいことがあるんです。この塔で……いったい何が起きているんですか?」
精霊が答えようとしたそのとき、ヴィヴィアンがそっと手を上げた。
「その前に、ここは危険よ。……一度、下へ降りましょう?」
『たしかに、その通りだ』
精霊は小さく頷き、手をかざす。
次の瞬間、霊樹の枝がうねり始め、ゆるやかな動きでユークたちを包み込むように形を変えた。
「うわっ!?」
「きゃっ!」
思わず身を寄せ合う一行を、光の枝が優しく抱きとめ、ゆっくりと下へと運んでいく。
やがて足が地面に着いた。しっかりとした床の感触に、ユークは安堵の息をもらした。
「みんな、無事だったか!」
駆け寄ってきたアズリアの声が響く。
「はい……なんとか」
ユークが苦笑を返す。
アズリアの視線が、すぐに精霊へと向いた。
「で――そいつは何なんだ?」
「味方です」
ユークが即座に答え、続けて説明する。
「俺たちは、街の異変を調べる為に《賢者の塔》に来ました。……もしかしたら、《賢者の塔》を複製しようとしているヤツがいるかもしれないんです」
『複製は――すでに、なされている』
精霊の言葉に、一同の表情が凍りついた。
「な……それは……」
ユークの声が震える。
『我は、その“偽りの塔”から放たれた霊樹の力に侵食され、正気を失っていたのだ』
悔しげに、精霊が顔を歪める。
「そんな……!」
「それじゃあ封印はどうなったんだ!?」
アウリンとユークが同時に問いかける。
『我も異変に気づき、最上階へ通じる通路を切り離した。これで、奴らが封印の間に辿り着くことはもう永遠に無い』
精霊は口元にかすかな笑みを浮かべた。
「そもそも、封印の場所に行ける通路がある時点でおかしいでしょ……」
アウリンが呆れた声をもらす。
『封印は永遠ではない。封印の力がゆるみ始めた時、再び締め直す必要があるのだ』
「そんな……大丈夫なの、それ?」
セリスが不安げに尋ねる。
『今すぐ解けるよりは、ましであろう』
どこか苦笑を含んだ精霊の答えに、一行は黙り込む。
『……封印の間に行けぬと知った時の、あの連中の狼狽ぶりは見ものだったぞ』
可笑しそうに笑う精霊。
「あの連中? それをやった奴らを知っているのか!?」
アズリアが鋭い声を上げる。
『赤いローブを着た、気味の悪い人間どもだ』
忌々しそうな表情で答える精霊。
「……信奉者か!」
ユークが低くつぶやく。
「どうやら、君たちの言っていた通りだったようだな。……すまない」
アズリアは目を閉じ、申し訳なさそうに息を吐いた。
「いえ、アズリアさんが謝ることじゃないですよ」
ユークが困ったような笑顔で頬をかいた。
『だが、奴らはまだ諦めておらん!』
精霊の声が広間に響き渡る。
「……っ!?」
驚き、全員の視線が精霊に集中する。
『“偽りの塔”に潜み、今も魔獣復活の準備を進めている。……奴らを止めねばならん。どうか……たのむ……』
その言葉とともに、精霊は深々と頭を下げた。
ユークたちは息をのむ。頭を下げるようなやつには見えなかったからだ。
「でも、そんな場所にどうやって行けば……」
ユークが低くつぶやく。
『それなら我が転移陣を作ろう。……もはや力はほとんど残っておらぬが、それくらいはできる』
精霊が手をかざすと、地面に二つの光の陣が浮かび上がる。
「二つ……?」
ヴィヴィアンが首をかしげる。
『右が“偽りの塔”への転移陣。左が塔の外へ戻るための転移陣だ』
光に包まれながら、精霊は静かに続けた。
『選ぶのはお前たちだ。……だが、どちらも一方通行。進むことはできても、戻ることはできん』
その言葉を最後に、精霊はそっと目を閉じた。
ユークたちは静かに顔を見合わせるのだった。
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ユーク(LV.49)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:もう戻れないとしても進むしかない!
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セリス(LV.47)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
EXスキル2:≪ブーステッドギア≫
備考:ユークなら進むって言うと思う。だから私も同じ!
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アウリン(LV.48)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
EXスキル2:≪コンセントレイション≫
備考:進むわよ、進むしか無いでしょ!?
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ヴィヴィアン(LV.47)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
EXスキル2:≪インヴィンシブルシールド≫
備考:ねえ、これってその“魔獣”と戦うことになんてならないわよね?
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テルル(LV.44)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:大鎌の才(大鎌の基本技術を習得する)
EXスキル2:≪ソウルイーター≫
備考:複製された《賢者の塔》か……ぜひ見てみたいものじゃ。
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アズリア(LV.30)
性別:女
ジョブ:剣士
スキル:剣の才(剣の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪ストライクエッジ≫
備考:戻ってギルドに報告しなければいけないんだが……。見た目が変わらな過ぎて怖いな。
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