第210話 見えざる罠
「セリスっ!」
ユークの張り裂けんばかりの声が響き渡る。
倒れ込んだセリスに駆け寄るユーク。すぐに仲間たちも集まってくる。
「ごめん! 痛むだろうけど、触るよ!」
ヴィヴィアンが周囲を警戒する中、ユークはセリスの腕を確認した。
「っ、ぐ……」
顔を歪めるセリス。しかし骨は折れておらず、安静にしていれば回復できそうだった。
「よかった……」
ユークは胸をなで下ろす。だが戦闘不能に近いセリスを抱えたまま、ストームバードと渡り合うのは絶望的だった。
だが、いつまでたっても攻撃は来なかった。
「おかしいな……」
アウリンに治療を任せながら、ユークは周囲を警戒する。
攻め時のはずなのに、ストームバードは追撃してこなかった。
(おかしい……。さっきの一撃を繰り返されたら、俺たちは終わっていたはずなのに)
思考を巡らせるユーク。
ふと、一度目と二度目の攻撃の差に意識が向く。
(そういえば……最初の攻撃は威力が控えめだった。なんであの時、全力を出さなかったんだ?)
その疑問が脳裏を離れず、ユークは答えを探し続ける。
そんな時、テルルの声が耳に届いた。
「……でな? その時に腕を一本もっていかれたんじゃ。だが、もし腕がちぎれなかったら、ワシはそのまま下に落っこちていたじゃろう。怪我の功名ってやつじゃな」
(……下に?)
テルルの言葉に、ユークの胸に引っかかりが生まれる。
そして次の瞬間、ひらめきが走った。
「そうか……落下加速だ!」
ユークは思わず声を上げる。
「落下加速?」
険しい表情のアウリンが問い返した。
「そうだ。あいつらは一度、高く飛び上がってから、一気に急降下したんだ。その落下の勢いを使って、攻撃の速さを極限まで高めてるんだよ!」
ユークは興奮気味に自分の考えを説明する。
「でも、それが分かったところで何ができるの?」
ヴィヴィアンの声にユークは即答する。
「セリス、ホークアイで上からの攻撃を察知して合図を出してもらえる?」
「うん、それくらいなら大丈夫」
地面に座り込んでいるセリスは力なく笑った。
「ここで迎撃しよう。奴らの攻撃を逆に利用してやるんだ!」
ユークの提案に従い、仲間たちは準備を整える。ヴィヴィアンは盾を幾重にも展開し、アウリンとユークは魔法陣を作成してじっと待った。
だが――
「こないね……」
セリスが小さくつぶやいた。
(おかしい……。もう急降下の準備は整っているはずなのに……)
焦りを覚えるユークに、テルルが声をかける。
「罠を警戒しておるのじゃろう。一箇所に留まり続ける獲物に、やつらも違和感を覚えておるはずじゃ」
「ええ!? そんなわけ……いや、確かに考えられるか……」
ユークは思わず否定しかけたが、すぐに言葉をのみ込んだ。
「ユーク、移動しながらじゃ魔法陣は設置できないわ」
険しい表情を浮かべるアウリン。
「シールドだって同じよ。時間をかければ張り直せるけど、移動しながらは無理」
ヴィヴィアンも首を振った。
二人の言葉を受け、どうすればストームバードを倒せるのか。ユークは必死に考えを巡らせる。
(何か……何かないのか……?)
周囲を見回すユーク。
(何でもいい。少しでも使えるものがあれば……!)
焦りの中で彷徨う視線が、ふとテルルへと止まった。
(そうだ……テルルなら!)
その瞬間、ユークの脳裏にひらめきが走る。
「テルル! ブラックアームズだ!」
ユークの声が響き渡った。
◆ ◆ ◆
二体のストームバードは、獲物が動き出したのを上空から捉えていた。
彼らはずっと待っていたのだ。
突然動かなくなった獲物を前に、彼らは罠を疑った。実際、その手にかかり倒された仲間を知っている。だからこそ、動き出す瞬間を忍耐強く待ち続けたのだ。
やがて、ユークたちが移動を始める。
それを確認したストームバードは、凄まじい速度で急降下に移った。
赤い瞳に映るのは、恐怖にすくんだ獲物たちと、それを一瞬で引き裂く未来。
視界を満たすのは加速で歪む風と霊樹の緑。
やがてユーク達の姿を肉眼でとらえる。
――次の瞬間、全身を強烈な衝撃が貫いた。
鋼のように細く、目に見えぬ糸が翼の風切り羽に絡みつき、その速度を一瞬で奪う。
制御を失った二体は、巨大な枝に叩きつけられた。
轟音とともに視界が揺らぎ、何が起きたのか理解できぬまま、意識が闇に引きずり込まれていった。
◆ ◆ ◆
「テルル! ブラックアームズを使ってくれ!」
ユークは彼女の肩をつかみ、必死に説明を続ける。
「その粒子は細く引き伸ばせば、鋼以上の強度を持つ糸になる! 目的は倒すことじゃない。奴らの速度を奪うんだ!」
テルルの目が大きく開かれ、やがて決意の光を宿した。
「なるほど……やってみせよう」
黒い粒子が彼女の手から放たれ、枝の間に極細の網が張り巡らされる。ほとんど透明なその罠は、空を翔ける猛禽の目には映らない。
――そして。
上空で獲物の動きを見ていた二体のストームバードが、ついに急降下を開始した。
「クュェエエエエエ!!!」
赤い瞳に獲物を映し、恐怖と死を撒き散らしながら一直線に迫る。だが、その視界に張られた罠など、知覚することはできない。
次の瞬間、凄まじい衝撃が彼らを襲う。
翼に絡みついた見えざる糸が速度を奪い、制御を失った巨体は霊樹の枝に叩きつけられた。
「今だっ! 閉じろテルル!」
ユークの叫びと同時に、黒い網が一気に縮まった。
「アウリンっ!」
「ええ!」
ストームバードが黒い網から抜け出そうとばたつく中、ユークとアウリンが魔法の詠唱を開始する。
「ちょっとおとなしくしててね~!」
ヴィヴィアンが黒い網から伸びるロープを操り、ストームバードを枝へと叩きつけて動きを封じた。
「《ストーンブレイカー》!」
やがて詠唱が終わり、ユークの放った岩の弾丸が、混乱する一体の胸を正確に貫いた。
「《ライトニングランス》!」
「止めじゃっ!」
アウリンの雷撃の槍がもう一体を貫き、その直後にテルルの大鎌が閃光の軌跡を描く。
轟く衝撃音とともに、二体の巨体が枝へと沈み込む。
ユークたちは大きく息をつき、ようやく勝利を実感するのだった。
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ユーク(LV.44)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:何とか勝てたけど、ギリギリだった……皆も疲れてるし、いったん休憩するか。
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セリス(LV.42)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
EXスキル2:≪ブーステッドギア≫
備考:私も怪我がなければ戦えたのに……
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アウリン(LV.43)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
EXスキル2:≪コンセントレイション≫
備考:強かったわ……もしかしたらやられてたかも……
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ヴィヴィアン(LV.42)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
EXスキル2:≪インヴィンシブルシールド≫
備考:あのモンスターたちから強い憎しみを感じたわ、いったい何があったのかしら……
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テルル(LV.37)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:氷威力上昇
備考:使い道が無いと思っていたスキルじゃが、案外使えるもんじゃな。
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アズリア(LV.30)
性別:女
ジョブ:剣士
スキル:剣の才(剣の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪ストライクエッジ≫
備考:もう何がなんだか分からなくなってきた。本当に記録していいのか? これは……
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