第20話 そんなに見られると、ちょっと恥ずかしいわ……
三人は足早に予約していた店へと向かっていた。通りを進むにつれて、行き交う人々の衣服が次第に豪華なものへと変わっていく。
「ふぅ、間に合ったわね」
アウリンが息を整えながら呟いた。
目的の店は、冒険者たちが集う賑やかな酒場とは一線を画していた。高級感あふれる内装、大理石の床に磨き上げられた木製のテーブル、深紅のベルベットが張られた椅子——まさに格式高いレストランといった雰囲気だった。
「お客様、武器のほうをお預かりいたします」
恭しく頭を下げる店員に、ユークはちらりとアウリンを見る。
「大丈夫よ」
アウリンはこくりと頷き、迷いなく自分の杖を店員に渡した。それに倣ってユークとセリスも、それぞれの武器を預ける。
「こちらへどうぞ」
店員の案内に従ってテーブルへ向かうと、そこにはすでに一人の少女が座っていた。背が高く、洗練された雰囲気を纏う美しい少女だった。
その少女は、こちらに気づくと表情を輝かせた。
「アウリン! こっちよ!」
「ごめん! ちょっと遅れちゃったわね」
アウリンは少し申し訳なさそうに両手を合わせる。
「気にしなくていいわ。それより……そちらのお二人が、ユークくんとセリスちゃんね?」
彼女は頬に手を添え、好奇心を湛えた瞳でユークたちを覗き込んだ。
「う、うん。俺がユークで、この子がセリスだ…です。」
ユークが少し緊張しながら自己紹介し、隣に立つセリスを軽く手で示す。セリスはぺこりと小さく頭を下げた。
「まずは座りましょうか」
アウリンが促し、全員が席についた。配置は、アウリンとヴィヴィアンが並び、ユークとセリスが向かいに座る形になった。
「はじめまして。私はヴィヴィアンって言うの。よろしくね~」
ヴィヴィアンはおっとりとした表情で微笑んだ。
ピンク色の上品な巻き髪に、華やかな黄色いワンピース。すらりとした長身に、穏やかで優しげな表情——まるで絵本から抜け出したお姫様のような佇まいだった。
「わぁ……」
思わずセリスが感嘆の声を漏らす。
「すごい……お姫様みたい」
ぽつりと呟いたセリスに、ヴィヴィアンは一瞬目を丸くした後——
「ブフッ……っ! 失礼!」
思わず噴き出し、口元を押さえながら謝罪した。視線が自然とアウリンへ向かう。
「……なによ?」
その様子に気づいたアウリンが、不機嫌そうにヴィヴィアンを睨む。
「ふふっ、ごめんなさい。そんなに睨まないで?」
ヴィヴィアンは微笑みながら、手を口元に添えた。
「それより、まずはお礼を言わせてね。アウリンちゃんから聞いているわ。私の治療費を出してくれたこと、本当に感謝してるの」
ヴィヴィアンは深々と頭を下げた。
「や、やめてくれよ! これから仲間になるんだし、そんなの当然じゃないか!」
ユークが慌てて頭を上げるよう促し、セリスも大きく頷く。
「ふふっ、アウリンちゃんの話どおりね。本当にいい人たち」
ヴィヴィアンは柔らかく微笑んだ。
「でも、本当にいいのか? こんな高そうな店……」
周囲を見回しながら、ユークが遠慮がちに尋ねる。
「気にしなくていいわ。あなたたちのおかげでお金の心配はないし、これは私からの感謝の気持ちよ」
アウリンが落ち着いた様子で答える。
「じゃあ、始めましょうか」
アウリンがテーブルのベルを鳴らすと、程なくして豪華な料理が次々と運ばれてきた。
「うわあああ……!」
セリスが目を輝かせ、感嘆の声を上げた。
テーブルの上には、見たこともないほど豪華な料理がずらりと並んでいる。
香ばしく焼かれた肉に、濃厚なソースがかけられた一皿。
湯気の立つスープは、食欲をそそる香りを放ち、ふわふわのパンが籠に山盛りにされている。
ユークも思わず息を飲んだ。こんなに手の込んだ料理を目の前にするのは初めてだった。
四人は賑やかに談笑しながら食事を楽しんだ。料理の美味しさに舌鼓を打ち、尽きることのない会話に笑い合う。楽しい時間はあっという間に過ぎていった——。
食事を終え、店を後にした四人は、それぞれの宿へと戻っていった。
ユークとセリスは、馴染みの宿「黄金の葡萄亭」に戻ってきたが、興奮はまだ冷めやらなかった。
「さっきの料理、本当に美味しかったな」
ユークが満足げに呟く。
「うん! 特にあの肉のソース、絶妙だったよね!」
セリスも興奮気味に語る。思い出すだけで、あの味の余韻が蘇る気がした。話し始めると止まらず、二人はしばらく感想を語り合っていた。
しかし、夕食の時間になり、目の前のテーブルに並べられた料理を見たとき、その熱がすっと引いていくのを感じた。
「……あれ? ここの料理って、こんな味だったっけ?」
ユークがスプーンを止め、不思議そうに呟く。
「……なんか、味が薄い」
セリスもまた、パンを口に運びながら首を傾げた。決して不味いわけではない。むしろ、これまでは普通に美味しいと感じていたはずだ。
「うーん、味覚が戻るまで時間がかかりそう……」
二人は、ほんの数時間前の贅沢な食事を思い出しながら、静かに夕食を続けるのだった。
翌日——
ユークとセリスは、《賢者の塔》近くの広場で待ち合わせをしていた。
周囲がざわめき始める。
「……なんだ?」
ユークは違和感を覚え、騒ぎの方向へと視線を向けた。すると——思わず息を呑んだ。
やけに美しく装飾された盾を持つ全身鎧をまとった騎士が、まっすぐこちらへ歩いてくるではないか。
全身を覆う甲冑に、威厳すら感じさせる佇まい。周囲の探索者たちも次々と道を開け、その姿を驚きの目で見つめている。
(やばい……何かやらかしたか?)
ユークは反射的に身構える。騎士は足を止め、ユークたちの目の前に立った。
緊張が走る。
すると——
「ごめんっ! 待たせたわね!」
鎧の後ろからひょっこりとアウリンが姿を現した。
「アウリン!?」
ユークとセリスが驚いた声を上げる。
「え? じゃあこっちは……?」
ユークは鎧の騎士を見上げた。
その瞬間——バイザーがゆっくりと上げられる。現れたのは、昨日見たばかりの顔だった。
「私よ~」
「ヴィヴィアン!?」
ユークとセリスの声が重なる。
「だから言ったでしょ? 前衛に覚えがあるって」
アウリンがいたずらっぽくウインクする。
(ジョブが騎士だっていうのは聞いてたけどさ……)
ユークは心の中で呟いた。たしかに彼女が剣と盾を扱えるとは聞いていたが、まさかここまで本格的な装備を整えているとは思わなかった。
「これじゃ本物の騎士じゃないか……」
半ば冗談のつもりで口にしたが、目の前のヴィヴィアンはまさに"騎士そのもの"だった。重厚な鎧に包まれた彼女の姿は、いつもの柔らかな雰囲気とは違い、堂々とした風格を漂わせている。
そして、その圧倒的な存在感に気づいたのはユークたちだけではなかった。鎧姿のヴィヴィアンの登場に、周囲の視線が一気に集中する。探索者たちで賑わう《賢者の塔》前の広場で、ユークたちは否応なしに目立っていた。
人々のざわめきが広場を包む中、ヴィヴィアンは変わらぬ穏やかな口調で微笑んだ。
「えっと……そんなに見られると、ちょっと恥ずかしいわ……」
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ユーク(LV.14)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
備考:騎士に憧れない男はいない。
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セリス(LV.14)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
備考:動きにくそうとしか思っていない。
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アウリン(LV.15)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
備考:嘘は言ってない。
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ヴィヴィアン(LV.15)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
備考:さすがに伝えてると思ってた。
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