第205話 赤に染まる空と枯れた森
マンティコアを倒し終えたユークたちは、二十一階へと続く階段を上っていく。
「はぁ……、やっとここまでこれたね」
ユークがため息をつきながら言う。ここまでくれば、霊樹の精霊の所まであと少しだった。
彼女であればきっと何か《賢者の塔》に起きた異変について知っているだろう。
ユークたちはそう思ったからこそ、閉じ込められても希望を失わずにここまで来れたのだ。
だがユークには気がかりがあった。
(一階で戦ったスタンピードのモンスター……もし、あいつが同じようにおかしくなっていたら……)
ユークは最後まで想像せずに首を振って、嫌な考えを頭から追い出す。
もはや頼るべき相手は彼女しかいないのだ。それが狂っている可能性など考えたくも無かった。
「たしか、前に来たときは精霊さんが迎えをよこしてくれてたのよね~」
ヴィヴィアンが霊樹の精霊を思い出しながら言う。
「私なんて、毎回荷物みたいに運ばれちゃうんだもの、失礼しちゃうわ」
ぷんぷんとわざとらしく怒って見せるヴィヴィアン。彼女の様子からは、霊樹の精霊がおかしくなっていなければいいのにという思いがにじみ出ていた。
「……今回は期待しないほうがいいかもしれないわよ」
アウリンがそんな彼女の想いに冷や水を浴びせるように、現実的な一言を告げる。
「それは……」
ユークがそれは言い過ぎだとアウリンをたしなめようと言いかけた時だった。
「外だーっ!!」
パーティーの先頭を歩くセリスが大声を上げて駆け出していく。
「ちょっ、セリス!」
慌てて追いかけていくユークたち。
「いきなり駆け出さないでよ、セリス」
追いついたユークが、文句を言いながら立ち止まっているセリスに声をかける。
「……セリス?」
何も言ってこないセリスに疑問を投げかけるユークだったが。
「空が……」
セリスが震える指で上を刺す。
「っ! これは……!?」
その方向にユークが目線を持っていくと、彼は思わず絶句してしまった。
青く澄んでいたはずの空が、まるで血のように赤く濁っていたのだ。
「何!?」
「どうしたの?」
「何じゃこれは……!」
次々と仲間たちが階段から上がってきて驚きの声を上げる。
「なんだ……何か、あったのか?」
最後に上がってきたアズリアが震える声で聞いてくる。
「……分からない。けど、今は進むしかない!」
ユークが力強く言い切った。仲間たちを、そして自分自身を奮い立たせるために。
「……霊樹の精霊のところへ急ぐわよ」
彼の言葉でアウリンがいち早く立ち直り、仲間たちに指示を出す。
「そうね……セリスちゃん!」
ヴィヴィアンも気を引き締めてセリスに声をかける。
「分かった! 走るよ!」
セリスが駆け出し、ユークたちもそれに続いた。
迫るのはトレントの森。
かつて鬱蒼と葉を茂らせていた木々はすべて枯れ、灰色の枯れ木と化している。
「これは酷いな……」
ユークが顔をしかめながら呟く。
「そうね……前来た時とは大違いだわ」
ヴィヴィアンも気落ちした表情で同意する。
「待って! もっと距離を取らないとトレントの攻撃を避けられないわ!」
この森の特徴を思い出し、アウリンが慌てて警告する。
「大丈夫! 私に任せて!」
そんなアウリンにセリスが振り返らずに声を返す。
「《タクティカルサイト》!」
セリスがEXスキルを発動し、周囲を鋭く見渡す。
するとセリスの視界に枯れ木に擬態しているトレントの姿が浮かび上がる。
「はあああっ!」
そんな擬態状態のトレントを、セリスは魔槍で真っ二つに切り裂いてあっさりと無力化してしまう。
「おお! すごいっ!」
「そんなことまで分かるの!?」
ユークやアウリンが驚き、感心した表情でセリスを見る。
もはやトレントなど彼らにとって何の障害にもならなかった。
「そろそろ次のエリアよ!」
走りながらアウリンが警告する。
次は猿のような姿をしたモンスター、ロングテールとトレントが同時に出現するエリアだ。
通常であれば鬱蒼と茂った葉に隠れて、死角から投擲をして来る厄介なモンスターのはずだったのだが。
「アウリン!」
「ええ!」
ユークの合図に応え、二人は同時に魔法を放つ。
「《フレイムボルト》!」
「《フレイムアロー》!」
ユークたちを遠くから狙っていた目を赤く光らせたロングテールは、二人が走りながら撃つ魔法によって次々と倒されていく。
生い茂る葉を失った木々では、ロングテールの姿を隠すことが出来ず、遠距離での攻撃を得意とするユークたちの恰好の餌食となってしまっていたのだ。
「やあっ!!」
さらに。擬態し、ロングテールに気を取られた獲物を仕留めようとするトレントは、セリスによって擬態を解く前に全て倒されてしまう。
その結果、一切スピードを落とすことなく、枯れ木の森を走り続けるユークたち。
「前に二体、フォレストベアー!」
セリスが叫ぶ。
森を抜けた先に二体のクマのような姿のモンスターが待ち構えていたのだ。
やはり、二体とも目を赤く光らせ、信じられないほどの敵意をもってユーク達を睨んでいる。
「セリス! 一緒に!」
ユークが叫ぶ。
「うんっ!」
そんなユークにセリスは嬉しそうに返事をした。
セリスが走りながら槍の穂先に魔力を集中させる。
同時にユークもまた、詠唱を行い、直接魔力を操って魔法陣を描く“無詠唱”の技術も併用することで、通常の詠唱よりも二倍近い速さで魔法を完成させる。
「『フォースジャベリン』!」
「「《ストーンレーザー》!」」
セリスの疑似EXスキルが、ユークの高速の石の弾丸が、同時に着弾し、フォレストベアーの胴体を、頭をそれぞれ爆散させる。
そんなユークたちを見て、その様子を記録しているアズリアは戦慄していた。
「何でフォースジャベリンを走りながら撃てるんだ? それにユークもだ、なんか魔法陣がありえない速度で出来上がって無かったか??」
以前共闘したときよりも遥かに強くなっているユークたちを見て、アズリアではもう理解することすらできなくなっていたのだった。
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ユーク(LV.44)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:あの空を見てると何だか不安定な気持ちになってくるな……。皆にあんまり上を見ないように言っておこう。
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セリス(LV.42)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
EXスキル2:≪ブーステッドギア≫
備考:ユークと一緒に技を撃てて。何ていうか、相棒みたいな感じですごく良かった!
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アウリン(LV.43)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
EXスキル2:≪コンセントレイション≫
備考:師匠がリヤカーに乗って運ばれてるわ……。こんな時に遊んでるなって怒るべきか悩むところね……
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ヴィヴィアン(LV.42)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
EXスキル2:≪インヴィンシブルシールド≫
備考:おじいちゃんが少し遅れそうだったから、リヤカーに放り込んで私が引くことにしたわ。
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テルル(LV.24)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:氷威力上昇
備考:いやあ。揺れないし、結構早いし。乗るには最高じゃな、この浮遊する台車は!
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アズリア(LV.30)
性別:女
ジョブ:剣士
スキル:剣の才(剣の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪ストライクエッジ≫
備考:フォースジャベリンはしっかりと地面に足をついて、全身のバネを使って放つEXスキルだったはずだが……。ユークの魔法も詠唱が終わらないうちに魔法を撃ってなかったか? 気のせいか……?
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