第202話 会議室の戦い
ユークは、ギルド職員に案内されて重厚な扉をくぐった。
――その瞬間、まるで冷水を浴びせられたかのような感覚に襲われる。
一斉に、会議室に集う者たちの視線が突き刺さる。
それはまるで、獲物を品定めする猛禽のようだった。
大きな円卓。その周囲には、各国から派遣された騎士やギルド幹部たちがずらりと並んでいた。
(……息が詰まる)
喉の奥がカラカラになり、唾を飲み込むことすらためらわれる。ユークは一歩前へ進み、背筋を伸ばしてまっすぐ前を見た
正面に座るのは、黒髪を短く整え、紫のスーツをきっちり着こなした若い男――ギルドマスター、ロンビナだった。
冷たい光を宿す瞳で、じろりとユークを見据える。
「ようやくお出ましですか。君が噂の……ユーク君ですね?」
言葉は丁寧だが、その声音には隔意があった。
ユークが口を開く前に、円卓に座るエウレが立ち上がる。
「彼の話がなければ、ここまで迅速に依頼を出すことはできなかった。無用に場を荒らすのはやめてくれ」
ロンビナは鼻で笑い、円卓を見渡す。
「まあいいでしょう。では改めて議題に入りましょう。我らの街は今や“異界”に取り込まれたも同然です。他の都市との通信は途絶え、転移ポータルも使用不能。完全に陸の孤島となっています」
ざわめきが広がり、幹部の一人が机を叩いた。
「だからといって、探索者ごときにこれほど高額の依頼を出す必要があるのか! ギルドガードに解決させればよかろう!」
すぐに反対の声が飛ぶ。
「ギルドガードでは準備に時間がかかりすぎる。封印が解けてからでは手遅れです!」
そう発言したのは、ゴルド王国の騎士ルチルだった。
「そもそも、この街を封鎖している連中が魔獣の封印を解こうとしている証拠はあるのですか!」
別の幹部が声を張り上げる。
「状況から推測する以外に、どうしろというのだ? 封印が解かれてしまえば、この街は滅びる。それは、お前たちにもわかっているはずだ!」
エウレが即座に返す。
「ギルドの財政は逼迫している。得体の知れない情報に踊らされ、これほどの高額依頼を出すなど狂気の沙汰だ! ギルドマスター、貴方はギルドを破滅させるつもりか!」
幹部の怒声が響いた。
「僕はエウレ師の見解を信じています。それより依頼の凍結を解いて下さいよ。このままではせっかく依頼を受けてくれた探索者たちが帰ってしまうじゃないですか……」
ロンビナは柔和な笑みを浮かべながら幹部たちに告げた。
「同感だ。国境を越えて王国に脅威が及ぶ可能性は看過できません。急ぎ対応すべきです」
ルチルも力強く賛同する。
「愚かであるな。悠長に構えている間に、封印が解けていたらどうする。君たちに責任が取れるのであるか?」
続いて、ルナライト帝国の騎士オライトも声をあげた。
「っ……!」
幹部たちは言葉を失う。
「《賢者の塔》の複製ですか……。それが魔獣とやらの封印に結びつくのは、少々飛躍しすぎているように思えますな」
ギルドガード所長ブロモラが腕を組み、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「そ、そうだ! それでは単なる空想に過ぎないじゃないか!」
幹部たちが息を吹き返す。
「最悪のパターンを想定しているんだ。それとも、君たちは希望的観測にすがるつもりかい?」
エウレが見下すような笑みを浮かべる。
「見ろ! エウレ師も認めたではないか! やはり可能性は低いのだ!」
幹部が勝ち誇ったように笑う。
「だから……っ!」
エウレがさらに反論しようとする。
――これじゃ時間ばかりくって、何も決まらない……!
幹部たちの言い争いは、まるで壊れたレコードのように同じことを繰り返している。このままでは、ただ時間だけが過ぎていく。そして、封印が解ければ、この街は終わりだ。
(……せっかく皆と恋人になれたのに、こんな奴らと心中するなんてゴメンだ!)
ふと、背後を見ると三人の恋人がそれぞれ違った反応を見せる。
アウリンのウインク、セリスの笑顔、小さく手を振ってくるヴィヴィアン。
もしこの会議が長引き、手遅れになれば、彼女たちも死んでしまう。
それだけは、絶対に避けなければならない。
ユークの胸に、強い焦燥感と決意が同時にこみ上げてきた。
「……っ、あのっ!! 俺たちがやります!!」
一瞬で視線が集まり、会議室が静まり返った。
「俺たちが様子を見てきます。異常があればすぐ戻って報告します。それから決めても遅くはないはずです!」
ユークは一気に言い切る。
幹部の一人が嘲笑した。
「探索者風情が出しゃばるな! 子供に何ができる!」
「子供ではありません」
ルチルが静かに返す。
「彼は数々の騒動を解決してきた実績がある。私は彼を信用しています」
「同感である。彼とその仲間ならば、威力偵察として十分に役立つ」
オライトもうなずいた。
幹部の一人が鼻で笑う。
「探索者ごときに、我々の判断を委ねるだと? 冗談じゃない! そもそも、どうして彼らの話を信じられるというのだ!」
ギルド幹部たちの怒りの声が上がる。
「……ふむ」
ロンビナは顎に手を添え、思案げに目を細めた。
「では、ギルドガードからお目付け役を一人、同行させてはどうでしょう」
視線をブロモラ所長へ向ける。
「……そういうことなら、アズリアが良いでしょう。彼女なら機転もきくし、信用もある」
ブロモラは即答した。
「それで良いのではないでしょうか」
ルチルが手を叩く。
「うむ、これで解決であるな」
オライトもうなずいた。
「アズリア君か……まあ、彼女が同行するなら……」
幹部たちもしぶしぶ同意する。
それからの決定は速かった。
ユークは短く息をつき、仲間たちと視線を交わす。
(……よし。これで道は開けた)
会議室の空気はまだ重かったが、進むべき方針は固まったのだった。
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ユーク(LV.44)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:会議で幹部たちが言い争いを続ける中、意を決して発言し、自分たちが先行調査を行うと名乗り出た。仲間と恋人を守るための決断だった。
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セリス(LV.42)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
EXスキル2:≪ブーステッドギア≫
備考:会議で不安そうなユークを笑顔で励まし、彼の背中を押した。ユークが勇気を出して発言できたのも、彼女の存在があったからこそ。
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アウリン(LV.43)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
EXスキル2:≪コンセントレイション≫
備考:会議中、ユークを気づかうようにウインクを送り、余計な緊張を和らげようとした。仲間を信じ、どんな状況でも支える姿勢を示した。
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ヴィヴィアン(LV.42)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
EXスキル2:≪インヴィンシブルシールド≫
備考:会議室で小さく手を振り、ユークに安心を与えた。表立って発言はしなかったが、常に彼を信じて支える姿勢を崩さなかった。
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テルル(LV.34)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:氷威力上昇
備考:会議には同席せず、外での待機を命じられて不満を漏らしていた。
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