第200話 奮い立つ心、折れぬ意志
「もう時間がないのかもしれん。ユークの考えが正しければ、間もなく魔獣の封印が解かれる。かの大賢者ですら倒せなかった化け物がの……」
テルルは眉間に深いしわを刻み、拳を強く握りしめながら言葉を吐き出した。その声音には、老練な年長者としての重みと、恐怖を隠せぬ生々しさが滲んでいた。
その一言で、部屋の空気は一瞬にして凍りつく。
「そんな……どうすれば……」
ヴィヴィアンはかすれた声を絞り出すのがやっとだった。瞳は迷子の子供のように揺れ、今にも涙が零れそうなほど不安に染まっている。
(大賢者様ですら倒せなかった相手と戦うの? 無理……。逃げたい。ユーク君と一緒に、遠くへ……)
テルルの真剣な表情は、その恐怖が夢物語ではなく現実であることを無言で示していた。
隣のアウリンは、無理に笑顔を作り出そうとしたが、肩はこわばり、微かに震えていた。
(私が動揺したら、みんなまで不安になる……! そうよ、いつもの私を見せなきゃ……!)
恐怖を振り払うようにアウリンはぎゅっと拳を握りしめる。その爪が掌に食い込む感触だけが、恐怖に飲まれそうな心を現実に引き戻していた。
(怖い……でも、ユークが戦うと言うなら、私は……)
セリスはただユークの背に腕を回し、そっと力を込めた。言葉はなくとも、その体温と微かな震えが彼に想いを伝えていた。
仲間たちの恐怖と絶望がひしひしと背中にのしかかり、ユークは奥歯を噛みしめる。
パーティーのリーダーという立場は、彼に逃げることも立ち止まることも、許してはくれなかった。
――逃げたい。弱気になりそうな自分を奮い立たせて、仲間たちを生き残らせる方法を必死に考える。
セリスの手を握り返し、ユークは静かに立ち上がる。その瞳には決意の光が宿っていた。
「――だったら、封印が解かれる前に止めるしかない」
鋭く吐き出されたその言葉が、張りつめた空気を切り裂き、仲間たちの胸に火を灯す。
アウリンはユークの手が震えていることに気づき、胸が締めつけられる思いで彼を見つめた。
(ユークだって怖いはず……なのに、私たちのために……!)
ユークは仲間一人ひとりと視線を交わす。その眼差しに、アウリンの心は少しずつ温められていくのを感じる。
「そうね。やっぱりその方が私達らしいわねっ!」
今度は心からの笑顔を浮かべ、アウリンは力強く応じた。
「ユーク君……アウリンちゃん……」
ヴィヴィアンは胸にあった恐怖が和らいでいくのを感じながら、剣の柄に手を添えた。
「パーティーの盾である私が怯えていたら、話にならないもの! やってやるわ!」
その言葉と共に、彼女の口元には強い決意の笑みが浮かんだ。
セリスはユークからそっと離れ、数歩だけ距離を取った。
だが、手のひらに残る彼の温もりはまだ消えていない。その余韻を胸の奥で大切に抱きしめるように、指先をそっと重ねて確かめる。
その感触が、彼女の心に勇気を与えてくれた。
「私は、ユークがやろうとすることを支えるだけ。それが、私のやりたいことだから!」
その声は澄み渡り、迷いの影は微塵も残っていなかった。
「うむ。どうせ死ぬなら、戦って死んだ方がマシじゃ」
テルルは口の端を吊り上げ、まるで少女とは思えない老練な笑みを浮かべる。
「封印されたっていう魔獣が気になるけど……まずは生き残らなければね」
エウレは気だるげに肩をすくめながらニヤリと笑う。
「ギルドの説得は任せてくれ。事態の説明は私が責任をもってやってみせるよ」
ユークを真っ直ぐ見据えるその姿には、頼もしさが漂っていた。
「みんな……!」
ユークは仲間の反応に胸が熱くなる。
「よし、そうなったらぐずぐずしていられないわ!」
アウリンが勢いよく手を叩き、明るい声を張り上げた。
「すぐに探索の準備をするわよっ!」
アウリンの声が合図になり、それぞれの頭の中で役割分担が整っていく。
「ねぇ、エウレさん。なにか探索に役立つ魔道具ってないの?」
セリスがエウレの方を向き、期待を込めた瞳で問いかける。
「ああ、任せてくれ。使えそうなものを持ってこよう」
エウレは短く答え、薄く透けるネグリジェの裾を翻しながら奥へと姿を消した。
「じゃあ、手分けして集めましょう。いつもの店が開いてるといいんだけど……」
アウリンが仲間に視線を巡らせる。
「分かった。俺とセリスは予備の槍や盾を探してくる」
ユークが即座に応じると、セリスは黙って頷き、手に持った槍を強く握りしめた。
「じゃあ私はヴィヴィアンと一緒に、食料や消耗品ね」
アウリンは指先をぱちんと鳴らし、優雅にウィンクしてみせた。
やがてエウレがメイドと共に、大小さまざまな魔道具を抱えて戻ってくる。
「これだ。金はいらない。必要なものを持っていってくれ」
その言葉と共に、机の上へ次々と並べられる魔道具。
「ありがたいわね……これなら準備が大幅に短縮できるわ」
アウリンは胸をなで下ろし、ほっとした笑みを浮かべた。
「じゃあ私は、ギルドに行く準備をしてくる。ギルドで説明を終えたら、そのまま保護してもらうつもりだ」
エウレは背筋を伸ばし、毅然とした態度で告げると、メイドを伴い奥へと消えていった。
「これはエウレさんの信頼の証だ。必要な分だけ借りて、残りは自分たちで準備しよう」
ユークが落ち着いた声で言うと、仲間たちは揃って力強くうなずくのだった。
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ユーク(LV.44)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:仲間たちの声を聞いていたら、いつのまにかユークの震えも止まっていた。
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セリス(LV.42)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
EXスキル2:≪ブーステッドギア≫
備考:恐怖を抑え込み、ユークの隣に立つことを選んだ。
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アウリン(LV.43)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
EXスキル2:≪コンセントレイション≫
備考:笑顔を無理に作っていたが、ユークの姿を見て本心から笑えた。
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ヴィヴィアン(LV.42)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
EXスキル2:≪インヴィンシブルシールド≫
備考:エウレたちが持ってきた魔道具の中に、見覚えのあるものを見つけた。
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テルル(LV.34)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:氷威力上昇
備考:厳しい現実を突きつけながらも、死を恐れるより、戦う方を選んだ。
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エウレ(LV.??)
性別:女
ジョブ:??
スキル:??
備考:「ここでケチれば全てが終わる」と悟り、惜しみなく魔道具を差し出した。
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