第198話 もう一つの賢者の塔
ユークたちは決意を胸に、赤き《賢者の塔》へ向かう前に、まずエウレの邸宅を訪れることにした。
しかし、街の様子はすでに異常をきたしているようだ。
大通りには人々があふれかえり、我先にと荷を抱えて逃げ惑う者、恐怖に顔を歪めて叫ぶ者、道端にしゃがみ込み絶望する者……混乱は広がるばかりだった。
ユークは仲間と共に人波をかき分け進んでいたが――ふと、視線の先に見覚えのある人影を捉える。
燃えるように鮮烈な赤髪。高級な仕立ての衣。
「ジオ……っ!」
思わず名を呼んだ瞬間、肩を誰かにぶつけられ、体がぐらりと揺れる。
慌てて周囲を見回したときには、すでにその背中は群衆に呑まれ、影も形もなくなっていた。
(……いない。見失ったか。だけど、確かにあの姿は――)
胸の奥にざらつく感覚だけが残る。
「ユーク、どうしたの?」
ユークが立ち止まっていることに気付き、駆け寄ったセリスが彼の手を掴む。
「いや……なんでもない。見間違いだと思う」
ユークは首を振り、仲間たちへ戻った。
(……どちらにせよ、今は探している時間なんてない……)
それでも心の奥には、赤い影が焼きついたまま。
彼は足を早め、エウレの邸宅を目指した。
◆◆◆
「……ん?」
雑踏の中、赤髪の男がふいに立ち止まり、背後を振り返る。
「どうかしましたか、殿下?」
傍らの女性が問いかける。
「……誰かに呼ばれた気がしたのだが」
周囲を見回すがそれらしき人物は見当たらない。
「いや、気のせいだろう」
男はそう言い切り、視線を前へ戻した。
「それで――妹はこの騒ぎに巻き込まれていないのだな?」
男は女性に念を押して確認する。
「はい。今朝、彼らの自宅に向かいましたが、もうゴルド王国に移ったと張り紙がありました」
「そうか。それならよい」
男は息を吐き、わずかに緊張を解いた。
「俺たちが動くのはギルドの出方を見てからでも遅くはない。まずは宿に戻り、情報収集をしている爺と合流せねばな」
「はいっ、殿下!」
女性の元気な返答を合図に、二人の姿は人波へと消えていった。
◆◆◆
ようやくエウレの屋敷へたどり着いたユークたちは、緊迫した面持ちのメイドに迎えられ、奥の部屋へと通される。
「……やあ、昨日ぶりだな。もうゴルド王国に発ったと思っていたよ」
ソファに寝そべるエウレは、薄紫の透けるようなネグリジェ姿だった。
「な、なんて格好してるのよ……!」
アウリンが呆れ混じりに眉をひそめる。
「私は朝が弱いんだ。勘弁してくれ」
気怠げに伸びをするエウレ。
その仕草を見て、ユークは顔を真っ赤にして視線を逸らした。
ヴィヴィアンはそんな彼を横目で見つめ、唇を固く結ぶ。
そしてセリスは無言のままユークの背に腕を回し、そっと抱きついてくる。
「それで、今日はなんの用だい?」
エウレの声は淡々としていたが、視線は真剣さを帯びていた。
「街の状況を知っていますか?」
ユークの問いかけに、彼女は軽く頷く。
「ああ、街の出入りができなくなっているとか」
「俺たちは――この街が“異界化”している可能性が高いと考えています」
その言葉に、エウレはしばし黙し……やがて口を開く。
「……なるほど。この街そのものがダンジョン化している、というわけか。穏やかではないな」
視線を鋭くした彼女は立ち上がり、工房へと姿を消す。
戻ってきたとき、手には見慣れぬ魔道具が握られていた。
「これは空気中の魔力を測定する魔道具だ。……針を見てみろ」
ユークが覗き込むと、メーターの針は異常な位置を指していた。
「ここが正常値。だが今は――この通りだ」
「これ……だいぶ、オーバーしてませんか?」
「その通りだ。完全に異界化が進行しているということだな」
エウレの口元がわずかに歪む。
「異界化が進むと、何が起きるんですか?」
ヴィヴィアンが落ち着いた声で尋ねる。
「まずモンスターの出現。次に、建物や地形の変質。そして――」
エウレは棚から資料を取り出し、ユークへ投げ渡す。
「これは……?」
渡された資料を見て、ユークが問いかける。
「ヘリオ博士の研究記録の一部だ。私はそれの解析をギルドから依頼されていた」
「研究記録……?」
セリスが首をかしげる。
「簡単に言えば、《賢者の塔》を魔力で複製する方法の研究だよ」
エウレは言葉を切り、皆の反応を順に確かめるように視線を動かした。
「そんなことが出来るんですか……!」
アウリンが息をのむ。
「出来るわけが無いだろう? 街全体をダンジョン化でもしない限りはね」
エウレは淡々と説明を続けた。
「つまり……」
部屋の空気がすっと冷たくなる。
「十分な魔力を用意してやれば、《賢者の塔》の複製は可能だ。そう、なってしまった」
その場にいる全員が、足元から世界が少し崩れたように思えた。
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ユーク(LV.44)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:セリスに抱きつかれているが、背中に胸鎧が食い込み少し痛いのをこらえている。
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セリス(LV.42)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
EXスキル2:≪ブーステッドギア≫
備考:ユークがエウレに赤面しているのを見て、気づけば首に腕を回していた。
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アウリン(LV.43)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
EXスキル2:≪コンセントレイション≫
備考:場の空気を読まずにユークに甘えられるセリスを、少しだけ羨ましいと感じている。
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ヴィヴィアン(LV.42)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
EXスキル2:≪インヴィンシブルシールド≫
備考:鎧を着ていなければ、セリスのようにユークに甘えられたのにと、わずかに残念に思っている。
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テルル(LV.34)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:氷威力上昇
備考:自分が元宮廷魔術師のヴォルフだとエウレに気づかれぬよう、ひたすら黙っていた。
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エウレ(LV.??)
性別:女
ジョブ:??
スキル:??
備考:朝に弱く、ソファで一時間ほどだらだらするのが日課になっている。
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