第19話 一年後
カルミアとの決闘騒ぎから一年が経った現在、ユークたち三人は《賢者の塔》の九階にいた。
「はあああっ!」
セリスの鋭い掛け声が響く。彼女の長い金髪が舞い、槍が風を切るたびにゴーレムの岩のような腕を的確に打ち砕いていく。軽やかな身のこなしで敵の攻撃をかわしながら、一瞬の隙を見て後方へ跳ぶ。
そのタイミングを見計らったかのように、アウリンが詠唱を終える。
「《フレイムランス》!」
轟音とともに、炎の槍が一直線に飛び出した。それはゴーレムへと一直線に向かい、瞬く間に突き刺さる。そして――爆発。熱風が吹き荒れ、岩の破片が周囲に飛び散る。
しかし、ゴーレムはまだ立っていた。内部のコアが露出し、ひび割れながらもかろうじて耐えている。
それを見たユークが、静かに杖を掲げた。
「《フレイムボルト》」
淡々《たんたん》とした声とともに、小さな炎の矢が放たれる。真っ直ぐに飛び、露出したコアへと突き刺さった。
瞬間――フレイムアローよりも強烈な爆発が起こり、ゴーレムのコアが砕け散る。それと同時に、巨体が光となって霧散していった。
「よしっ! これで何体目だ?」
ユークが満足そうに呟く。一年前よりも装備は良くなり、体も成長した。背丈が伸び、以前よりも堂々とした姿になっている。
「ちょうど五十体くらいじゃない?」
セリスが槍を肩に担ぎながら答えた。その長い金髪が揺れるたびに、一年前よりも女性らしさを増した体つきが際立つ。
「午後には約束があるんだし、そろそろ切り上げましょうか」
アウリンが青髪を軽くかき上げながら言う。髪は少し伸び、以前よりも大人びた雰囲気が漂っていた。
そのとき――
「二体来てるっ! 囲まれた!」
セリスが警告の声を上げる。
通路の両側から、二体のゴーレムが迫っていた。おそらく巡回ルートが重なったのだろう。
普通ならば、絶体絶命の状況だった。しかし――
「じゃあ、あっちは俺がやるよ」
ユークが軽い口調で言う。その表情には余裕があった。
「それなら、こっちは私たちね」
アウリンがセリスとアイコンタクトを交わしながら、反対側へ向かう。
三人はごく自然に分かれ、それぞれの敵と対峙する。
ユークの前に立ちはだかるゴーレムは、鈍重な動きながらも確実に距離を詰めてくる。しかし、ユークは動じない。むしろ、その場から一歩も動かず、静かに呟いた。
「《アイスボルト》」
淡々と呟かれた詠唱とともに、冷気をまとった氷の矢が放たれる。それはゴーレムの足元に正確に着弾し、瞬く間に氷が広がった。ゴーレムの巨体がわずかに動きを鈍らせる。
ユークは迷うことなく次の魔法を発動する。
「《フレイムボルト》」
今度は燃え盛る炎の矢が飛び、ゴーレムの体に直撃する。石の外殻が焼かれ、わずかに黒ずんだ。しかし、それでもなおゴーレムは動きを止めない。
ユークは表情一つ変えず、続けて炎の矢を撃ち込んでいった。
連続する火球がゴーレムの体を次々と焼き、ついには硬い外殻が崩れ始める。ひび割れた表面の奥から、かすかに光るコアが姿を現した。
――そこだ。
ユークは狙いを定め、最後の一撃を放つ。
「《フレイムボルト》」
放たれた炎の矢が一直線に飛び、剥き出しになったコアに突き刺さる。
ゴーレムの巨体が一瞬ぐらりと揺れ、次の瞬間、光となって崩れ落ちた。
「ユーク!」
しばらくして戦闘を終えたセリスが駆け寄って来る。しかし、そこにあったのは、ゴーレムの魔石を拾い上げるユークの姿だった。
「あっ! 終わっちゃった?」
セリスが残念そうに眉を下げる。
「うん、ちょっと遅かったね」
ユークは拾った魔石をリュックにしまいながら、セリスに微笑んだ。
一年前と比べ、彼ら三人は探索者としても、一人の人間としても格段に成長していた。
「じゃあ、行こうか。彼女が待ってる」
ユークが言うと、セリスも力強く頷いた。
「うんっ!」
二人は並んでアウリンのもとへと歩き出した。
探索を終えた三人は、探索者ギルドに戻っていた。
受付で報酬の精算を終えたユークが、手元の金額を確認する。
「468ルーンだったよ」
「おお~!」
セリスが目を輝かせる。
「ふーん。まあ、午前中だけの稼ぎなら、悪くはないかしらね」
アウリンは特に驚くこともなく、納得した様子で頷いた。
「じゃあ、一人156ルーンね」
いつものように均等に分配していると、アウリンがふと思い出したように言う。
「そういえば、最後にレベル確認してもらったのって、いつだったかしら?」
「えーと……半年前?」
セリスが記憶を辿りながら答えた。
「……そういえば、結構前か。まだ約束の時間まで余裕はあるし、ちょっと見てもらってくる?」
ユークが二人に提案する。
「いいんじゃない?」
「私も賛成」
「じゃあ、決定だね」
そう言うと、ユークはギルドのカウンターへと向かった。
「すみません、ステータスを確認してもらいたいんですが」
ユークが受付の女性に声をかける。
「はい、カードの更新ですね。では、検査室へどうぞ」
「分かりました」
三人は案内に従い、ギルド内の検査室へ向かう。
部屋の扉をノックし、ユークが声をかける。
「すみません、失礼します」
「どうぞ」
部屋の中には、一人の聖職者が床に座って待っていた。
「拙僧はゾイサイと申す。あなた方が主の眼を必要とする方々ですな?」
落ち着いた声で問いかける。
「はい、そうです」
ユークが代表して答えると、ゾイサイは静かに頷いた。
「では、まず寄進をお願いしたい」
そう言いながら、彼は空の盆をスッと前に差し出した。
「ユーク」
「はいっ」
セリスとアウリンが、それぞれ銀貨を二枚ずつユークに渡す。
「はい、どうぞ」
ユークが合計六枚の銀貨を盆の上に置くと、ゾイサイは確認してから頷いた。
「……確かに。では、《オラクルサイト》」
彼がスキルを発動すると、神聖な光が揺らめき、ゾイサイを包み込む。
ゾイサイは順に彼らを見つめながら、さらさらと手元のメモに筆を走らせた。
「こちらを窓口に持って行っていただければ」
そう言って、書き終えたメモをユークに手渡した。
ギルドのカウンターに戻ると、ユークはメモと三人分の探索者カードを提出した。
「はい、では少々お待ちください」
受付の女性が丁寧に対応し、三人はその間に雑談をしながら待つ。
やがて、名前を呼ばれ、新しい探索者カードが手渡された。
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ユーク(LV.14)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
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セリス(LV.14)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
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アウリン(LV.15)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
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セリスがカードの内容を確認し、思わず声を上げる。
「レベルが上がってる!」
「ほんとだ! まあ、あれだけ毎日ゴーレムを倒してたら当然か」
ユークも嬉しそうにカードを眺める。
「……まあ、私は変わらないわよね」
アウリンは肩をすくめたが、特に気にしている様子もなかった。
その時、彼女が時計を確認し、顔を上げる。
「もう時間よ。行きましょう!」
「わかった!」
「結構ギリギリだったね」
三人は急ぎ足でギルドを出て、目的の場所へと向かっていった。
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ユーク(LV.14)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
備考:一年で多くの魔法を使えるようになった。
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セリス(LV.14)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
備考:一年で槍の技術をより高めた。
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アウリン(LV.15)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
備考:一年でようやく相方の病気が治った。
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ゾイサイ(LV.??)
性別:男
ジョブ:神官
スキル:オラクルサイト(天よりの啓示を受け、対象の持つ能力を知ることができる)
備考:最近、鑑定さんと影で言われていることを知って悩んでいる。
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