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第2話 臨時パーティー


「待ってよ、ユーク!」


 夜の街をひとり、とぼとぼと歩いていたユークの背中に、明るい声が飛んできた。振り返ると、そこにいたのはかつての仲間――セリスだった。


「セリス? どうしたんだ?」


「やめてきた!」

 彼女は満面の笑みで胸を張る。


「……は?」

 一瞬、言葉の意味が理解できなかった。


「やめたって……パーティーを?」


「そう!」


「……いや、セリスがやめる必要は無かっただろ?」


「なんか、嫌だったから!」


「……そうか」


「そう!」


 あっけらかんと答えるセリスを見て、ユークは思わず苦笑した。長年苦楽を共にしてきた仲間に裏切られ、追放されてしまったが、こうして自分のためにパーティーを抜けてくれる人間もいる。少しだけ、心が軽くなった気がした。


「ありがとう、セリス」


「??」

 セリスは首をかしげるが、ユークはそれ以上は何も言わなかった。


「もう遅いし、宿を取るか」

 ポケットを探ると、手元にあるのは銀貨三枚。つまり、たったの三十ルーン。これでは、一泊分の宿代しかない。


「セリスは?」


「んあ?」

 彼女は財布を開け、中を覗くと、すぐにパタンと閉じた。


「……もしかして、無いのか?」


「んー、ちょっとだけ!」


「はぁ……。仕方ない、一緒に部屋を借りよう」


「やった!」

 何も考えていないような無邪気な笑顔に、ユークは思わず肩の力を抜いた。



 翌朝、二人が向かったのは探索者ギルドだった。


 探索者ギルドは、賢者の塔の管理や、パーティーのマッチング、依頼の斡旋(あっせん)などを行う組織であり、探索者であれば誰もが登録しなければならない。


 向かった理由は単純だった――金が無い。


 宿代すら危うい状況で、何としてでも今日のうちに仕事を見つけなければならない。だが、賢者の塔で稼ごうにも、ギルドの規則で「三人以上のパーティーでなければ入場不可」「必ず魔法職をパーティーに入れなければならない」「パーティーの最大人数は五人」などの条件があり、二人だけでは塔に潜ることすら許されていなかった。


 結局、臨時パーティーを組むために、探索者ギルドに足を運ぶことになったのだ。



「いらっしゃいませ。探索者ギルドへようこそ」


 受付で出迎えたのは、整った顔立ちの女性だった。朝早いせいか、ギルド内は閑散(かんさん)としている。


「すみません、臨時パーティーを組みたいんですけど」


「はい、臨時パーティーの登録ですね。お二人でよろしいでしょうか?」


「はい、二人です」


「では、探索者カードをお願いします」


「これです」


 ユークは二人分の探索者カードを差し出した。


 探索者カードは、名前、現在のレベル、保有スキルなどが記載されたギルド発行の証明書。ユークは少しだけ緊張しながら、受付の女性がカードを確認するのを待った。


「……確認しました。現在、マッチング可能なのは一名ですね」


 一人いれば十分だ。ユークは頷き、短く言った。


「じゃあ、マッチングをお願いします」


「かしこまりました」


 案内された別室で待つこと数分。扉が開き、一人の少女が入ってきた。


「あなたたちがマッチング希望の探索者ね!」

 元気のいい声が響く。


 現れたのは、短く切りそろえた青髪が特徴的な少女だった。

 活発そうな印象を与える彼女は、動きやすそうな軽装に身を包んでいる。


 露出が高めの服装で、健康的な太ももや引き締まった腕が目を引く。

 魔法職らしく、短パンに半袖のラフな格好だが、その装いの随所(ずいしょ)には魔法使いらしい意匠が施されていた。


「俺がユーク。こっちは――」


「セリスだよ、よろしくっ!」


 セリスが軽やかに挨拶をすると、少女もにこりと微笑む。


「私はアウリン。よろしくね!」


 互いにテーブルにつき、それぞれの探索者カードを見せ合う。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.11)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

セリス(LV.12)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

アウリン(LV.15)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「……全能力を10%アップ!?」


「《炎術士》!?」


 二人は同時に驚きの声を上げた。


 ジョブは、生まれ持った適性とそれまでの行動によって、10歳の時に自動的に決定される。


 《強化術士》は、剣や拳といった物理戦闘に向いていない者に与えられる補助系のジョブだ。直接的な攻撃手段はほぼ持たず、仲間を強化するスキルが主体となる。だが、それに対して《炎術士》は違う。炎を操る魔法を10歳までに習得し、さらに高度な魔法の才能を持つ者だけが得られる、極めて希少なジョブなのだ。


 ユークはこれまで、《強化術士》以外の魔法職に出会ったことがなかった。《炎術士》が目の前にいること自体、彼にとっては驚きだった。


 だが、驚いているのはユークだけではなかった。


(全能力を10%アップ……? 普通、《強化術士》のバフは物理攻撃力15~20%上昇が一般的なはず。でも、これは物理職に限定されていない……?)


 アウリンは目を見開き、探索者カードの記載(きさい)を何度も確認する。


(《強化術士》なのに、魔法職まで強化できる……こんなの、初めて見たわ)


 そんな彼女の疑問をよそに、ユークは別の疑問を抱いていた。


「な、なんで《炎術士》みたいな人が野良パーティーに!?」


 《炎術士》であれば、どんなパーティにも歓迎されるはずだ。それなのに、わざわざ野良パーティーのマッチングを利用する理由が分からなかった。


「あー……まあ、色々あってね。普段は相方と二人で組んで色んなパーティーに入れて貰ってるんだけど、ちょっと事情があって急にお金が必要になっちゃったのよ」


 ユークが妙な想像をしそうになったのを察したのか、アウリンは軽く肩をすくめながら言った。


「なるほど……俺たちとしては、大歓迎だよ」


 《炎術士》と組めるなら、断る理由などあるはずがない。


(正直、期待してなかったけど……臨時パーティーとしては十分ね)


 アウリンは満足げに頷き、席を立つ。


「じゃあ、準備ができたら塔に行きましょうか」


「了解!」

「わかった!」


 こうして三人は、ダンジョンへと向かうのだった。

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