第196話 馬車を買おう
ユークたちが辿り着いたのは、街で唯一の馬車屋だった。広々とした敷地には、大小さまざまな馬車が並び、奥の柵には十数頭の馬が繋がれている。
「すごいっ! 馬車がいっぱいある!」
ユークの目が輝き、子供のように駆け出す。
「もう……。ユークってこんなに子供っぽかったかしら……?」
そのはしゃぎっぷりに、アウリンは呆れ半分、微笑ましさ半分といった顔になる。
「ユーク君ってこんな顔もするのね~」
ヴィヴィアンがユークの新たな一面を知って意外そうな顔をする。
「ユークが楽しそうでよかった。最近難しい顔ばっかりしてたから……」
セリスは生き生きとした表情を浮かべるユークを、嬉しそうに眺めていた。
「……そうね。確かに、ここ最近はいろいろあったもの。ユークにもストレスが溜まってたのかも……。はぁ~。ダメね、私が気付かなくちゃいけなかったのに……」
アウリンは肩を落とし、大きく息を吐く。
「アウリンは頑張ってると思うよ? 槍を振るう事しかできない私と違って……」
セリスが珍しく、自嘲めいた笑みをこぼした。
「ありがと、セリス。でもよかったわ、これで少しでもユークの気が晴れてくれるといいんだけど……」
アウリンは楽しげにしているユークの姿を見て、穏やかに目を細める。
「ねえ、あっちはどうするの?」
セリスが指を向け、アウリンに問いかけた。
「おおおお! デカいのう!」
そこにはユークと同じテンションではしゃぐテルルの姿があった。
「師匠……ほんと、いい年して何やってんのかしら……」
疲れた表情で額を抑えるアウリン。
「おじいちゃん……私、恥ずかしいわ……」
ヴィヴィアンも顔を赤くし、そっと視線を逸らした。
「お客さん、馬車をお探しかね?」
店の奥から日に焼けた大柄な男が姿を見せる。
「ええ、五人乗りの馬車を探しているの。できれば今日中に欲しいんだけど」
店員の男にアウリンが説明する。
「そうか……だが今は少し事情があってな。……塔のモンスターが異変を起こしてるせいか、街を離れたいってヤツが増えている。馬車の在庫もだいぶ減っちまったんだ」
「えっ!? そうなんですか?」
戻ってきたユークは思わず声を漏らす。
「安い中古品はもう全部売れちまった。残ってるのは新品か、高級品ばかりさ」
店員の男は肩をすくめて、馬車の値段を指折りながら説明していく。
「旅人向けの屋根付きなら二万から五万ルーン、高級馬車になると十万はくだらねえ。馬だって普通のなら五千から一万、軍馬は二万以上だ」
ユークは振り返り、仲間たちと顔を見合わせた。
(新品って……お金足りるのかな?)
(うーん……報酬の残高を全部使えば、ぎりぎりってところね、換金用の宝石なんかも使っていいなら、だいぶ選択肢も広がるんだけど……)
ユークとアウリンが、ひそひそと小声で相談する。
「宝石は取っておこう。ここでお金を全部使い切るのは危ない」
ユークは決断を下した。
結局、選んだのは五万ルーンの屋根付き馬車と、同じく五万ルーンの最高級軍馬だった。
「まいど! しめて十万ルーンだが、払えるか?」
「はい、探索者カードでお願いします」
ユークはカードを差し出し、支払いを済ませる。
「確かに。……ところで御者は決まってるのか?」
「え? ……あっ!」
男の問いに、ユークははっと目を見開いた。
「うちは御者の紹介もしてるが、どうだ?」
にやりと笑う店員に、アウリンが手を挙げた。
「大丈夫です。私とこちらの二人もできますから」
そう言いながらヴィヴィアンとテルルを見る。
「御者を出来ないのって、俺たちだけか……」
ユークが苦笑すると、セリスが小さな声で口を開いた。
「……私、一応できる。お父さんに習ってたから」
「えっ……じゃあ、できないのって俺だけ!?」
ユークは思わず叫ぶ。
「安心しなさい。ちゃんとユークにも教えてあげるから」
アウリンが笑みを浮かべ、ユークの肩を軽く叩いた。
やがて馬がつながれ、試運転が始まった。車体は思った以上に揺れが少なく、内部は小さな部屋のように広い。
「結構 広いよこれ! これなら長旅でも平気そう!」
窓から顔を出したセリスが弾んだ声を上げる。
「よし……これで明日には出発できそうだな……」
新しい馬車をみて、呟くユーク。
そのとき、通りを行く人々のざわめきが耳に届く。荷物を抱えた家族、街門へ急ぐ商人――街全体がどこか落ち着かない。
「……急いで正解だったかもしれないわね」
ヴィヴィアンが低くつぶやいた。
「うん。明日の朝一番で出発しよう」
ユークは力強く言い切る。
その言葉に仲間たちも一様に頷いた。
こうして彼らは、新しい旅の相棒――馬車を手にし、次なる冒険へと歩みを進める準備を整えたのだった。
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ユーク(LV.44)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:人生初の馬車購入に興奮するが、自分だけ御者ができないことが判明し、がっかりしている。
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セリス(LV.42)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
EXスキル2:≪ブーステッドギア≫
備考:傭兵だった父親に御者を教わっており、ユークを優しく励ます。
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アウリン(LV.43)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
EXスキル2:≪コンセントレイション≫
備考:師匠のヴォルフから様々な技術を教わっており、御者もその一つ。
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ヴィヴィアン(LV.42)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
EXスキル2:≪インヴィンシブルシールド≫
備考:騎士としての教育を受けていたため、当然のように御者の知識を持つ。
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テルル(LV.34)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:氷威力上昇
備考:ヴォルフだった頃の豊富な経験から、現在も様々な技術を持つ。
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