第195話 《賢者の塔》の異常
昨日あれほど喧騒に包まれていた探索者ギルドは、今日はまるで嘘のように閑散としていた。
空気そのものが静まり返り、がやがやと響いていた声もほとんど聞こえない。
「え? あんまり人がいない?」
今日も肩をぶつけ合うほどの混雑を覚悟していたユークは、あまりの落差に拍子抜けした声を漏らした。
「どうしたのかしら……なにかあったのかもしれないわね」
アウリンも小首をかしげながら、訝しげに周囲へ視線を走らせる。
人影まばらなロビーを抜け、ユークたちはほとんど待たされることもなく受付へ通された。
「はい、ご用件は何でしょうか?」
微笑みを絶やさない受付嬢に向かい、ユークはそっとギルドカードを差し出す。
「あの、報酬を受け取りに来たんですけど……」
「ユーク様のパーティーですね。支払いは――」
「あ、待ってください! メンバーが一人増えたので、五人で分割にしてください」
慌ててテルルからカードを受け取り、ユークは差し出した。
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
受付嬢が手早く魔道具を操作し、やがて小さな音を立てて紙片を差し出す。
「はい、こちらでお支払い完了です。あとでご確認ください」
「ありがとうございます……。それと、昨日は人でいっぱいだったのに、今日は全然いないんですけど、何かあったんですか?」
ユークの問いに、受付嬢は一瞬だけ目を見開いた。その笑顔がすっと消え、声を潜める。
「……もしかして、ここ数日ギルドに来ていなかったんですか? 実は《賢者の塔》で、イレギュラーモンスターが確認されているんです」
「イレギュラー? そんなの珍しくもないじゃない。私たちだってたまに見かけるわよ?」
アウリンが首をひねる。
「いえ、今回は少し事情が違うんです」
受付嬢の声音はわずかに震えていた。
「見た目は同じなんですが……目が、まるで血のように赤く、不気味に光っていて。さらに、普通のイレギュラーモンスターよりもはるかに強く、動きも鋭いそうです」
「そんな……」
セリスが小さく息をのむ。
「しかも、倒すと赤黒い魔石を落とすんです。昨日までは散発的に出ていたので、探索者たちもここで情報を交換していたんですが……」
彼女は言葉を切り、視線を伏せる。
「今日はもう、ほとんどのモンスターがイレギュラー化してしまったらしくて。だから皆さん、無理に塔へは入らず休養しています。一部、切羽詰まった人たちだけが、普段より浅い場所で狩りをしているみたいですね……」
「そんなことになってたのか……」
ユークは仲間と視線を交わし合った。
(ねぇ……なんかヤバそうじゃない?)
アウリンが小声で囁く。
(うん、予定より一日早いけど、もう明日の朝には出発したほうがいいかもしれない)
ユークも険しい表情で応じた。
「ありがとうございました。俺たちはもう行きますね」
軽く頭を下げ、ユークたちはギルドを後にする。
外に出ると、テルルが小さく首をひねった。
「なんか大変そうじゃのう。わしは《賢者の塔》は初めてなんじゃが、いつもこうなのか?」
「そんなわけないでしょ!」
アウリンが即座に声を張る。
「ええ、私たちもまだ長くはないけど、こんな異常は初めてよ」
ヴィヴィアンも真剣な面持ちで頷いた。
「どうするの? ユーク」
セリスが問いかける。
「予約してある馬車は明後日なんだ。明日には街を出たいなら、その前に馬車を用意しないと」
ユークは腕を組み、思案に沈む。
「でも今からじゃ、予約は間に合わないんじゃないかしら~?」
ヴィヴィアンが不安げに首を傾げる。
「いっそ、馬車ごと買っちゃうのはどうかしら?」
アウリンがさらりと提案する。
「えっ……? 買っていいの!?」
ユークの瞳がぱっと輝いた。
「その前に修理に出していた武器や防具を受け取ってからだけどね。街に帰ってきたその日に預けておいたのよ」
アウリンが思い出したように言う。
「そっか、じゃあまずそれを受け取りに行こう」
ユークは仲間を引き連れ、鍛冶屋へと向かった。
鍛冶屋では、セリスの魔槍が見事な輝きを取り戻し、彼女の手に戻る。
セリスは両手で槍を握り、軽く振ってみせた。刃の重さも、柄のしなりも申し分ない。
「うんっ! すごく手になじむよ! 刃も丁寧に研いでくれたおかげで新品みたい!」
セリスは瞳を輝かせ、満足げな笑みを浮かべた。
続いて防具屋に立ち寄り、ユーク、アウリン、セリスの装備も整えられる。
セリスが鎧の留め具を点検する横で、ユークは預けていた資金の残高を確かめた。
「思ったより安く済んだな……これなら馬車も買えそうなんじゃない?」
嬉しげに顔を上げたユークに、アウリンは肩をすくめて笑う。
「はいはい、じゃあ買いに行きましょうか」
「俺、サスペンションがついてるやつがいい!」
子供のように目を輝かせるユークに、周囲は思わず顔を見合わせた。
「えっと……どうしたのかしら、ユーク君ったら」
ヴィヴィアンが小首をかしげる。
「うむ、男にとっては道を駆け抜ける馬車は憧れでの。実をいえば、わしも少しばかり楽しみなんじゃ」
テルルがしみじみと頷く。
「ふふっ。ユークったら……」
セリスはその様子を、微笑ましげに見つめていた。
「早く行くわよ! 時間も無いんだから」
アウリンが仲間たちを急かす。
「うん、どんな馬車があるのかな……楽しみだな……」
ユークは力強く頷き、一行は馬車屋へと歩を進めていった。
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ユーク(LV.44)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:まさか馬車が買えるなんて!
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セリス(LV.42)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
EXスキル2:≪ブーステッドギア≫
備考:もう完璧。これでいつも通り戦えるよ!
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アウリン(LV.43)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
EXスキル2:≪コンセントレイション≫
備考:赤黒い魔石って……まさかね。
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ヴィヴィアン(LV.42)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
EXスキル2:≪インヴィンシブルシールド≫
備考:いつもと違って、私の鎧は修理が必要無いから気が楽ね~
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テルル(LV.34)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:氷威力上昇
備考:ワシも一度、《賢者の塔》に行ってみたかったんだがのう……
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